少女のループ@hatukoi__72
少女から少女へのネット恋愛。
カーテンから差し込む光に眼が嘲笑を始めた頃、変わり映えしない見慣れた天井が景色として映った。
私はそれに「今日も死ねなかった」とポストした。
憧れを抱いた高校生活はつまらない程に平凡で、隣の学校だの駅近くの学校だの、まあ口を開けば男子校の話で盛り上がりを見せているこの教室。いやこの学校は飽きもせずに入学1ヶ月立つ今になっても同じ話題で持ちきり、女子を女性らしく育てると言うこの学校の校風は、裕福な家の親からすれば素晴らしいものであり、花道や茶道といった高校生として必要ない事をさせるのも「親受け」は良かった。ただ、学生からすれば恋愛が何時でも気軽に出来ないこの学校は思春期である女子を捕えるだけのただの鳥籠に過ぎなかった。現に外に出れば、この学校の女子はどの学校の女子より猛獣で、男子と聞けば目の色を変え耳を尖らせる怪物にもなりえたのだ。こうした話が広まると私は屋上に行く。何をしにいくわけでもない。ただ、聞きたくないから屋上に行く。男子が女子を好きになり、女子が男子を好きになる。当たり前の行動当たり前の思考、当たり前当たり前当たり前。それが私には耳障り目障りだった。この校風も社会も周りも私にとっては障害となり障壁となった。「女が女を、好きでもいいじゃん?仕方ないじゃんそれが私じゃん」そう私はまた呟いた。「それな」誰かが共感した。その時私はその子にあった。黒く長い髪を揺らす笑った顔が憎らしいほどに優艶な少女がそこには写っていた。私はその子と話し込んだ。人とは違う事、それは関係の無いこと、自分らしく生きればいい事、それでも上手くいかない事。この時私は初めて私を殺さずに思春期としての少女として話せた。
入学して2ヶ月が立った。彼女と出会って1ヶ月私たちは仲良くなれた。それ以上の関係を望んだ私が何回か姿を表したが、鏡から離れると姿を消した。彼女の名前は俄然知らないまま、それでも良かった偽名だとしてもそれで呼びあえた仲でも良かった。私も偽名だし笑。「またみんな男子校の話。うざw」「おはよう!!男の話以外ないの?って感じだよねw」「おはよう!!マジそれなw」机下の会話が何よりも楽しかった。会話が出来てるだけで何よりも嬉しかった。授業中グループを作る時も私は1人あまり、仕方なしでグループに入れてもらう側。幸い勉強は出来たが、クラスの女子が私に課題を見せてもらう時必ず敬語を使われ名前は、苗字にさん付け。入学して2ヶ月、馴染めてないのは私だけで周りには友達ができ、グループも出来てた。それでも私は気にしない。私には彼女がいたし彼女は私の事を誰よりも理解してくれたから。
「私夏は嫌いなの」入学して3ヶ月目、彼女は口癖のように言い始めた。今年の夏は確かに例年に増して暑かった。「どうして?」「元カノがね」私は続きは聞かなかった。とりあえず、察したような♡だけを残した。元カノか、聞きたくなかったなぁ。相変わずの机下の会話で急なカミングアウト。支えてくれる人は居ないので、とりあえず背中は思いっきり椅子に預けた(重かったら言ってね少し太ったかもだから)。元カノかぁ。その日はその言葉で頭がかき乱された。別に今カノでもなんでもないけど、言わなくてもいいのに。そんな一方通行の気持ちをぶつけたかったけど、嫌われるのが嫌だったから辞めた。どんな人なんだろ。私はダメとは思いつつもスクロールした。手の写真、影の写真、首下の写真……その子の顔の写真は無かった。けれど、少ない情報からでも可愛い人だろうなと思えた。
見たかったけど見れなくて良かったとも思った。幸せそうな彼女の顔が想像できたから。モヤモヤは残ったけど一旦落ち着いた。
入学して4ヶ月目、屋上の写真が増えてきた。「なんで?」と聞いたことがある。「元カノがね」また元カノの話。今回は察したような♡は残さず話を逸らしたけど彼女は話した、いや話し始めた。長かった、これがまず第1に来た。リアルで重い話は削除する所もなく、まるで事情聴取かのように一言一句一体、言ったことした事まで全部話してた。(私は刑事かよ)そう思えるような感じだった。彼女の話をまとめる。元カノと彼女が付き合ったのは中学の時らしい、周りに言わないようにはしてたけど何かの拍子でバレてしまい元カノが虐められるようになったらしい。彼女はと言うとその容姿から男子に人気があり、女子の標的にはならなかったのだとか。イジメは1年続き元カノさんは次の年の夏屋上から飛び降り自殺をした。その時何も救えなかった自分が嫌いで、彼女の後を追う勇気も出ずグダグダ生きて、今も未練がましく夏になると屋上に手向けの花を持っていくのだとかなんとか。「そんなの自分勝手に死んだだけじゃん」「勝手じゃないよ私が見殺したもんだよ」「関係ないじゃん、気に病む必要ないよ」「人を愛した事ある?」何それ。私気にしてんじゃん、心配してんじゃん。なんで私が何か足りてないように言うの?もういい。♡すら残さなかった。こんな私が嫌い。その日の夜、「ごめんね」と@に私の名前が記されていた。許すかバカ。そう思って無視して床についた。次の日の朝、ニュースで少女が死んでいた、「線路に飛び込むなんて勇気あったじゃん」その時私は初めて彼女の実の名前を知った。家なのに床が濡れた。
入学してから初めて秋を迎えた。冬も迎えたかも。だってなんか寂しかった。机下の会話はなくなり知らない人の♡のみ。クラスには居場所がなかったし、それがこんなにもキツいとは思いもしなかった。変わらず男子校の話かと思っていたのも気づけば彼氏の話に話題は変わっていた。キスはしたとか、初めてはどうだったとか、経験したやつが偉そうに語ってるのがなんか嫌だった。でも、屋上には行かなくなった。行きたくなかった。返信が来るのを期待したくなかったから寝たフリをした。「今日も学校つまらなかった」同じ事ばかりみんなに話してた。
気づけば1年が過ぎようとしていた。「夏がまた来るなぁ、思い出しちゃうなぁ」呟きながら自転車を走らせた。いや、ポストだっけ?なれないなぁなんか。ポストしたって誰にも届きはしませーん。そう叫んだ。1ポストにつき配送料かかるなら私溜まる一方じゃんwだって伝えたい相手はこの世にいないんだもん。なんか最後悲しくなったのが嫌に思えた。何かを考える度に最後に着くマイナスは彼女に関係したマイナスなのが嫌だった。んーん、違う、だって彼女じゃないじゃん告白した事だってないのに、彼女っておかしいじゃん。じゃあ何?初恋の人?想いも聞いてくれず勝手に死んだメンヘラ女が?やめてよそんなの。悔しいじゃん、勝手に期待して勝手に我慢して勝手に好きだった私が馬鹿じゃん。考えるのやめだやめ。今日はいっぱい寝てやる。
2度目の夏が来た、彼氏が変わった子も振られた子もいた。話だけは寝たフリしても聞いてたから知ってる。気づけば、私もグダグダ生きてた。あの日返せなかった罪悪感と、なら言っとけば良かったっていう後悔に念押され生きてた。この頃には屋上に上がるようになってた、彼女はいないけどここで好きに踊ってやろうかな。そう思っては上がって誰も居ないのを確認してから好きに踊った。なんか楽しかった。友達もいないけど、この時だけは彼女の事で盲目にならずに済んだ。何度も助走をつけて柵に受け止めって貰ったり踊りと言うより偶然に死のうとしてる感じが強い、ただこれが私に出来る彼女への当てつけ「お前のために死んでやらないから」そういう意味でもあったかも。ただ悔しかったから。気づけば8月が近づき始めていた。彼女の命日が近づいた。明日花でも近くの線路に手向けてあげようかな。ふざけんなって一言吐いてやろうな、、、もう聞こえてないなら聞こえないなら好きだって言ってやろうかな。人を愛するのって大変だって今なら返信してあげるのに。
2度目の夏8月がまだ過ぎない頃、私は変わらない日常と部屋でポストする。「今日も死ねなかった」と。
この後、少女が後追いするのか、それとも生きるのかそれは読者の皆様に委ねます。会話。それは言葉をなさずしても今も昔も文として、伝える事が出来る。そういった意味ではこの社会はより良くなったとも言える。言い換えると便利になったと言える。けれど、知り合う事はやはり直接会わないと分からない事もある。そういうのって何か一つが欠けたりするとすれ違いが起きる。便利であり不便でもある。今の世の中を体現したかのような話を書きました。実際にあったら結末は変わっていたかもしれない、いや、変わらなかったかもしれない。でも1つ言えるのはタラレバになるよりかは実行した方が良いと私は思います。