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メタモルファルは寄り添う  作者: 甲斐 雫
第1章 犬型メタモルファルは未成犬
3/115

3 友人と友犬

 採集から帰って学院の研究室に薬草の束を保管した三吾は、疲れた体を引きずるようにして自宅に戻った。

 学院の教授たちの大半は敷地内の職員住宅を利用しているが、三吾は実家の持ち家が学院の直ぐ傍にあったのでそこを自宅としている。地下を書庫にすることが出来て便利だったからだ。

 やっとの思いで家のドアを開け、三吾は倒れ込むようにベッドに入った。


 翌朝は、当然のことながら猛烈な筋肉痛で目を覚ます。

 主に脹脛と腰だが、起き上がるだけで大変な苦労が伴った。

「・・・うぅ・・・運動不足の自覚はあったけど・・・流石にこれは」

 我ながら情けないと思いながら、それでも目覚めは爽やかだった。


 普段は夜遅くまで学院の研究室で過ごし、帰宅してからも書庫に籠ることが殆どだった。夜の方が仕事が捗ると思っていた。当然睡眠時間は短くなり、死に物狂いで起床することになる。濃いコーヒーで何とか覚醒し、あだ名通りの『寝起きの猪』となって出勤するのが日常だった。


「何時間、寝たんだ?」

 軋みを上げる身体を騙し騙し、それでも何とか顔を洗って身繕いを済ませる。するといきなり腹の虫が元気よく声を上げた。

「腹が減ったな」

 寝起きで空腹を覚えたことは、今まで無かったように思う。

 学院食堂は朝食利用者のためにもう開いてるだろう。三吾はコーヒーも飲まず、急いで学院に向かった。


 午前中の講義と昼食を終えた頃には筋肉痛も多少落ち着き、三吾はいつものように保冷水筒にアイスコーヒーを淹れて貰って外に出る。

 そこに、声が掛かった。

「お~~、三吾。来た途端に出会うなんて、こりゃ今晩は1杯やれっつうコトなのかねぇ」

 良く通る声の持ち主は、衛兵の制服に身を包み、傍らに精悍なシェパードを連れた男だった。

「ああ、久しぶりだな、テルル。元気だったか?」

 三吾は嬉しそうに近寄ってしゃがみこみ、犬の方に挨拶をする。

「・・・相変わらずじゃないか、テルルが先かよ」

「何だ?日頃からレディーファーストを実践しろと言ってるのはお前だろう?」

 三吾は文句を言われる筋合いはないと言いたげな顔つきで、けれど立ち上がって男の前に立つ。

「で、今日は何の用なんだゲン?また何かの調査か?」


 この男、名をゲン・ナイトロと言う、三吾の幼馴染だ。彼の数少ない友人で、レーエフの衛兵隊に所属している。衛兵と言っても城があるわけでは無いので、街中の治安維持や警備が主な仕事になる。その中でも、ゲンは1隊を任され、更に衛兵全体の秩序維持を目的とする憲兵のような仕事もしていた。

 仕事のパートナーとして、衛兵犬のシェパード、テルルをいつも連れ歩いている。精悍で大きな体を持つテルルは、有能で賢い雌犬だ。


「ああ、ちょいと内部告発があってな。ここの警備はうちの衛兵隊から派遣されている隊士がやってるだろ。その1人が不正をやってるらしくてな。様子を見に来たんだが・・・それよりお前、いつもよりずっと爺臭くなってないか?」

 学院の管理棟に向かって歩きながら、ゲンは三吾の様子をつくづくと眺めて言う。多少筋肉痛は良くなってはいたが、まだぎこちなさが残る歩き方で、確かに妙に年寄っぽい雰囲気だ。

「いや、これは昨日・・・」

 三吾がそこまで言った時、西門の方から犬の吠え声が聞こえた。

 傍にいたテルルが、ピクッと立ち耳をそちらに向けキュッと身体を引き締める。

「アルバの声だ。何があった?」

 走り出そうとする三吾より早く、ゲンが指示を飛ばす。

「テルル、GO!」

 黒灰色の大型犬は、弾丸のように飛び出した。


 テルルの後を追ってゲンも走り出す。日頃から訓練で鍛えているその足は軽く速い。三吾も追いかけるが、そもそも根っからのインドア派で駆けだすことさえ全く無い生活を続けていたので、転ばないようにするだけでも一苦労だ。


 建物の角を曲がって西門へ向かった1匹と2人の目の前に見えたのは、3人の男と2人の女性、そしてアルバだった。

 女性の1人は木の根元にぐったりと倒れ、それを守るようにアルバが立ちはだかり牙をむいて2人の男を威嚇している。

 もう1人の男は、白衣の女性の腕を掴んで引き寄せようとしているところだ。


「エルオリーセ!」

 三吾の言葉と同時に、ゲンがテルルに指示を出す。

「Attack!」

 テルルは数メートルを一気に跳び、エルオリーセを捕まえた男の背中に前脚から飛びつく。

 ドンッ!と重い衝撃を浴びた男がよろめくと、テルルはその袖に咬みついてグッと腰を落とした。

 その間にゲンは、アルバに威嚇されて手をこまねいていた男たちに向かう。腰の剣を鞘ごと外し、無駄のない動きで彼らを叩き伏せた。


 自由になったエルオリーセは倒れている女性に近寄ると、遅れて到着した三吾に告げた。

「狩人が使用する・・・眠剤を吸わされたようです。この子は、うちの・・・学生だと思います」

 どこか苦し気に話すエルオリーセが心配になるが、取り敢えず三吾は女性の傍に膝をついて、その様子を確認する。そこに、西門から警備にあたっていた衛兵2人が漸くやってきた。

「おい、お前ら!担架持って来い。医学棟の医務室に運ぶんだ!」

 ゲンが厳しい声で命令すると、衛兵たちはゲンの階級を見て取って、大慌てて走り去っていった。


 最後に1人残った男は、袖に咬みついて重心を落としているテルルと、ズボンの裾に同じように咬みついて動きを封じているアルバによって、逃げ出すことも出来ずにいる。

 訓練されたテルルの気迫と、それを見習って実践する2匹のコンビネーションは初めてとは思えないほど見事だった。

 ゲンは男に近づきあっさり昏倒させると、2匹に告げる。

「Release!・・・Stay!・・・Good」

 2匹は男の服を離し、テルルはその場で伏せの姿勢を取った。

 アルバはさっさとその場を離れるが、そんな黒白の犬をテルルはジッと見詰めていた。


 騒ぎに気付いて集まってきた学生たちの1人に、ゲンは声を掛ける。

「正門にいる衛兵に知らせてくれ。2人ほどこっちに来るように、とな」

 倒れていた女性が担架で運ばれてゆくと、ゲンは三吾に説明した。


「西門の衛兵の1人が、さっき言ってた不正をしているらしいという奴なんだ。金を貰って校内に部外者を入れていたんだな。小遣い稼ぎのつもりだったんだろうが、この3人もそうやって入ったんだろうよ。目当てはあの女性だったんだろうが、後で彼女から事情を聴いておかんとな」

 三吾はそれを聞いて、エルオリーセはどこに行ったのかと辺りを見回す。


 けれど彼女の姿はどこにも無く、それを追って行ったらしい黒白の毛皮が遠くに見えた。

 三吾は、建物の陰に消えたアルバの後を追った。


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