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『蝕みの魔女』は『星読みの聖女』となり、異世界に既望をもたらす  作者:


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『星読みの聖女』は異世界に希望をもたらす

 シアが硬直した私に優しく語りかける。


「この決断をしたラディウスを責めないで。ラディウスはとても悩んだんだ。自分の命と引き換えにすることは、僕の命も奪うことになる。けど、僕もルーレナに生きてほしいから、ラディウスと一緒に頑張ることにした」

「……え?」


 頭では何となく分かっている。けど、頭が理解することを拒んでいて。

 空に現れた光によって落ち着いてきたイーンシーニスが息を整えながら呟く。


「光と闇は表と裏。どちらかが消えたら、残った方も消える、ということですか?」


 残酷な現実に私は声を荒げた。


「そんな!? それなら、私が!」


 身を乗り出そうとするけど、体が動かない。影のような黒く強い魔力が絡みついている。

 焦る私にシアがにこりと微笑んだ。


「ごめんね」


 絶望とともに徐々に光を強くして昇っていく六つ目の太陽――――月。


 前世の時より大きく動きの速い月。あっという間に天頂に昇り、今までで一番強く光を放つ……が、シアの体に変化はおきない。

 紺碧の瞳が丸くなり、焦ったように全身を見る。


「どうして? どうして、ラディウスに変わらないの!?」


 確かに星空の中で輝く姿は第六の太陽と言われてもおかしくない。でも、月は月。自ら光を放つ太陽にはなれない。

 それでも、暗闇よりは明るい。


 青い顔のまま、どうにか落ち着きを取り戻したイーンシーニスがシアに声をかける。


「光が弱いからでしょう」

「そんな!?」


 慌てるシアにイーンシーニスが淡々と事実を告げる。


「ですが、このまま太陽が昇ればラディウスの姿になるでしょう」


 そう言うと私の肩に手を置いた。私の体に絡みついていた魔力が離れ、動けるようになる。


「これから、どうするか。あなたに任せます」


 このまま太陽が昇ればラディが自身の命と引き換えに世界樹をよみがえらすだろう。けど、その前に私が動けば……


 差し迫る時間。


 でも、私の気持ちは決まっている。


 私は月光を浴びながら、導かれるように瞼を閉じた。


 砕け散った世界樹から記憶が舞い上がり私を包む。真っ白な灰が私の体を抜けて夜空へと広がっていく。聞こえない声が、見えない色が、私に囁き、導いていく。

 私の口から自然と言葉が零れる。


「複数の世界を巡った記憶を持つ魂が、世界樹をよみがえらす鍵になる」


 目を開けて正面に立つシアを見つめた。


「だから私は異世界に生まれ変わって、この世界に召喚された」


 紺碧の瞳に私の銀髪が映る。この世界の銀髪の意味は――――――


「銀は鍵。黒がすべてを終わらせ、金が新たな世界を創る。銀はそのための、鍵」


 やっとわかった。私のするべきことが。


「太陽が昇った後のことは、お願いね」

「ルーレナ!?」


 私はにっこりと微笑んだ。


「いろいろ、ありがとう。でも、これは私の役割だから」


 私はトンッとキノコを蹴った。


 シアの悲痛な叫び声が遠くに響く。


 真っ暗な世界へむけて自由落下していく体。でも、恐怖心はない。深層意識の世界に落ちていた時と似たような感覚。


「でも、あの時と違って地面があるのよね」


 世界樹があったところが真っ黒のため、深い穴のように見える。その中心に私の魔力が吸い取られていく。


「浮遊魔法は使えそうにないわね」


 地面に激突は免れそうにない。あまり痛くないといいな、と思いながら目を閉じる。


 論文を横取りされて、お酒に溺れて、生まれ変わっても処刑寸前まで追い詰められて。ボロボロなことが多かった。でも、ショタ沼にはまって、ラディに会えて……


「そこまで悪い人生でもなかったかな」


 結論を出したところで、レモンの香りが私を包み込んだ。


「置いていかないでください」


 変声期前の甘い蕩けるような少年の声。ここにいるはずがない……


「ラディ!? どうして!?」


 目の前には、光を弾くサラサラの金髪。


「太陽が、ほら」


 視線を移せば、黒い満天の空が濃紺から紫へと徐々に変わっていく。何重もの色が積み重なり、自然が作り出したグラデーション。その先にある地平線は白く鋭い光。


「夜明けが……」


 私の呟きにラディが頷く。


「これが、夜明けですか。とても綺麗ですね」


 一緒に見たかった光景……なんだけど。


「どうして……」


 景色が滲み、頬に涙が流れる。


「私はラディに生きてほしいから……」


 だから、一人で飛び込んだのに。


「ルーレナのいない世界に生きている意味はありませんから」


 小さな体が私を抱きしめる。


 そのまま二人で世界樹があった黒い空間へと呑み込まれた。


~※~


 さざ波の音が耳に触れる。目を閉じていても分かるほどの眩しい光。たまらず、瞼を動かした。


「おはようございます」


 低い声とともにサラサラの金髪と紺碧の瞳が真上から覗き込む。その顔は知っているけど、知っている少年ではなく青年の姿で。


「…………ラディ? どういうこと?」


 半信半疑のまま上半身を起こした私に変声期前の少年の声が飛んできた。


「ルーレナ!? 大丈夫!?」


 長い黒髪を揺らしながら小さな体が抱き着く。紺碧の瞳をした六、七歳ぐらいの男の子。顔立ちはラディと同じだけど、雰囲気がまったく違って。


「……もしかして、シア?」

「そうだよ」


 足元には真っ黒になった世界樹の残骸。温かくも、冷たくもなく、ドロリとした見た目なのにフワフワな感触で。


「そういえば……魔力を吸われて……あれから、どうなったの?」


 ほとんどの魔力がなくなって体がものすごく怠い。ふらりと倒れかけた体を逞しい腕が受け止めた。


「無理はしないほうがいいですよ」


 青年になったラディが目尻をさげる。まるで愛おしい人を見つめるような視線に胸がドキドキしてキュッとなる。


「だ、大丈夫! 大丈夫だから!」


 自力で起き上がろうとするけど力が入らず。口だけでワタワタ言うだけの状態。


「遠慮しないでください」


 柔らかい微笑みとともに、筋張った手が私の頬に優しく触れる。


「やっと、あなたより大きくなれました」


 心身ともに成人越えの美青年! 私の好みはショタなのに! ショタ沼なのに!


(どうして、こんなに心がかき乱されるの!?)


 そこに無垢な声が体当たりしてきた。


「ダメだよ! 僕のルーレナなんだから!」


 私に抱きつき、可愛らしい顔が頬を膨らませてラディを睨む。


「ぐふっ!」


 外見、中身ともにショタ! これぞ完璧なショタ! 求めていた理想のショタ!


 私は鼻を押さえながら、これではいけないと頭を働かせる。


(そもそも私はラディと世界樹に落ちたのに、なにがどうなって?)


 考えても分かりそうにないため、私は二人に訊ねた。


「結局、何がどうなったの? どうして、二人がいるの? ここは天国?」


 私の言葉に二人が顔を見合わせる。それから、目だけで会話をしたのか、同時にこちらを向いた。


「天国の意味はわかりませんが、私たちの体が分かれたのは、ルーレナが世界樹に溜まっていた力を解放してくれたおかげです」

「世界樹に溜まっていた力?」


 私の疑問に対して、シアが嬉しそうに説明をする。


「世界樹はね、枯れる寸前で世界中から集まっていた魔力を堰き止めていたんだ。それをルーレナの鍵の力が解放して世界中に流れたんだけど、その一部の力が僕たちに流れてきて、それぞれの体ができたんだ」

「つまり、ルーレナのおかげですね」

「僕が言おうと思ってたのに!」


 シアがラディに怒りをぶつける。しかし、それは本気ではなく仲が良い兄弟という雰囲気で。


「……じゃあ、私も二人も生きているの?」


 言い合いをしていた二人が私に顔をむける。


「そうですよ」

「そうだよ」


 その言葉にドッと力が抜けた。


「……よかった」


 思わず震えてしまった声にシアが慌てる。


「どうしたの!? どこか痛い?」

「そうじゃないの。覚悟はしていたけど、やっぱり死ぬのは怖くて……」


 今さらだけど涙があふれてきた。ボロボロとこぼれる雫を隠すように両手で顔をおおう。


「前の『星読みの聖女』は世界樹にたまった大きすぎる力に吞み込まれて死んでしまったんだ。でも、今回は僕たちがいたから。ルーレナが吞み込まれる前に僕たちが体を分けるのに力を使ったから、平気だったんだよ」


 シアの説明に私は手を外して微笑んだ。


「そうなんだ。ありがとう。二人は私の命の恩人だね」

「えへへ」


 素直に照れるシア。その表情に恐怖で縮んでいた心が癒されいく。

 泣いていたことを誤魔化すようにシアと笑いあっていたら、体が宙に浮いた。


「いきましょう」

「へ?」


 ラディが私を横抱きで抱え上げた。小さくて、私の体を支えるのも難しかったのに。今では軽々と私を持ち上げている。


「え?」


 高くなった視界。その先に広がる湖と集まってくる人々が見える。


「魔力を回復させるためにも休みましょう」

「世界樹は? このままでいいの?」


 真っ黒に燃え尽きたような跡。何をすればいいのは分からないけど、このまま放置でいいのか気になる。


「大丈夫ですよ。すぐに育ちますから」

「育つ?」

「私たちの関係も、これから育てていきましょう」

「ふぇ!?」


 不意打ちのような言葉にビクリと体が跳ねる。そこに薄い唇が耳をかすめ……


「愛していますよ、ルーレナ」


 低い声に囁かれ、全身が痺れる。耳が熱くなり、顔が真っ赤になっていくのが自分でも分かる。


「なっ、なっ!?」


 言葉が出ない私にラディがふわりと笑う。


「やっと言うことができました」

「で、でも、私が好きなのはショタで……」

「大丈夫ですよ。私に惚れさせますから」


 その自信は一体どこから!?


 唖然としていると、シアが抗議するように声を出した。


「僕だってルーレナのことが好きなんだから!」

「こればっかりは譲れませんね」

「負けないよ!」


 対抗心むき出しのシア。その姿は可愛らしくて思わず目が細くなる。


(うん、うん。やっぱりショタは愛でるものよね)


 言い争う二人をラディの腕の中でほのぼのと眺める。



 そんな私たちの足元では、緑の新芽が顔を出していた――――




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