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『蝕みの魔女』は『星読みの聖女』となり、異世界に既望をもたらす  作者:


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幼女に対抗するショタ

 鼻を押さえて悶えている私に冷ややかな視線が降り注ぐ。


「あなたの方はどうなんですか? 夜が来る時期は判明しましたか?」


 その質問に私は顔をあげた。


「十日後に来るわ」


 あっさりとした私の言葉に対して、イーンシーニスが水色の瞳を伏せる。


「思ったより早いですね。準備が間に合うか、どうか」

「あ、そのことで吉報があるのよ」

「吉報って、何?」


 フランマの問いに私は持参した紙を見せた。


「これを見たら分かると思うんだけど、夜が来る場所は限定的なのよ」


 横から覗き込んできたイーンシーニスがエカリスを腕に抱いたまま目を鋭くする。


「ほぼ真っ黒で解読できませんね。そもそも、これは字ですか?」

「あ、そっか。前の世界の字で書いたから読めないのね」

「いえ。この紙に書いた文字は自動で翻訳されるので普通なら読めます」

「……私の字が普通じゃないってこと?」

「それだけ字が崩れているということですね」


 つまり字が汚い、と。確かに前世の時は手書きのノートやメモ帳は解読が必要って言われたけど、違う世界でまで言われるなんて。


 クッと落ち込む私の手に温もりが触れる。


「大丈夫ですよ。私が代わりに説明しますから」

「……フォローしてくれているんだろうけど、私の字が汚いことは否定してないのね」

「細かいことを考えたらダメですよ」


 ニッコリと微笑むラディ。

 最近はずっと太陽の軌道が書かれた書類と計算式と紙とにらめっこをしている時間が多かったから、久しぶりのショタ成分は強烈、新鮮で。


(それだけ尊いんだけど、誤魔化されない。誤魔化されないんだから!)


 目に力を入れて睨む。その先には神々しいほどの光を放つ絶世の美少年。


(誤魔化されない……誤魔化されな…………誤魔化され………………てあげるわ!)


 心の中のショタ沼が盛大に白旗を振る。呆気なさすぎるけど、仕方ない。


 黙って一歩引くと、ラディが宙に右手を出した。その上に大きな青い星と小さな五つの光る星が浮かぶ。


「こちらは分かりやすく星と太陽の軌道を立体に表したモノです」


 五つの太陽が青い星の周囲をクルクルと回る。その軌道は私が持っている紙に書いたモノで。


「こんなことが出来るの!?」


 驚く私にイーンシーニスが平然と説明する。


「正しく紙に書いていれば再現できますよ。何が書かれているか解読できませんでしたが、一応ちゃんとしたことが書かれていたのですね」

「なんで、いちいち引っかかる言い方をするの?」

「普通に言っているだけですが」

「だから余計に腹が立つのよ」


 睨み合う私たちの間にフランマが入る。


「はい、はい。話が進まないから、それぐらいにしてちょうだい」


 私は大きくため息を吐き、ラディの手の上に浮かんだ球体に視線を移した。


「夜が訪れるのは、ここからここの範囲。だから、対策をするのも、この地域だけでいいの」


 私の説明にフランマの低い声が一層低くなった。


「……よりにもよって、ここなの?」

「え?」

「本当に場所は合っていますか? ズレているということはありませんか?」


 イーンシーニスの問いにラディが残念そうに首を横に振る。


「これで合っています」

「なに? ここに何かあるの?」


 この世界の地理に疎い私は意味が分からない。

 ラディが浮いている球体を引き延ばすように手を動かした。

 夜が来る場所だけ大きくなり、上空から見下ろしているような光景が映る。緑の森に囲まれた中心にある大きな湖。その真ん中には……


「木? けっこう大きい?」


 全体的に緑の葉が多いけど、一部が紅葉して枯れている。どこかで見たことがあるような。


「……あれ? この木って」

「世界樹ですよ」


 ラディの声が耳に刺さる。この世界の命の半分が生まれる重要な樹。


「よりにもよって、世界樹があるところに闇が来るなんて……トドメを刺すようなものね」


 光がなければ枯れるという世界樹。もう、生命を生み出すことはできなくなっているけど、この世界の人々の拠り所になっているはず。


(その樹が枯れるということは……)


 そっとイーンシーニスを確認する。すると、意外にもしっかりとした顔で前をむいていて。


(もっと悲壮感というか落ち込むかと思ったのに)


 私の視線に気づいたエカリスがムッとした様子で言った。


「シーニスは私のお婿さんで(しゅ)からね! あげま(しぇ)んよ!」


 そう言ってイーンシーニスの体に抱き着いた。小さな手がキュッと服を掴む、その仕草。もっちりとした柔らかな頬を膨らました、その顔。動作の一つ一つが可愛らしい。


「そうだね。エカリスちゃんのだもんね」


 笑顔で同意すると、エカリスが真っ赤になって恥ずかしそうにイーンシーニスの胸に顔を埋めた。


(可愛い!)


 ほのぼのとその様子を見ていると、袖を引っ張られた。視線をさげるとにっこりと微笑んだラディ。


「何かあった?」


 首を傾げる私に紺碧の瞳が真剣に告げる。


「私はあなたのものですから」


 ボンッ! と頭の先が噴火したような熱が噴きあがる。


「な、なななん、なにを!? 突然、なに!?」


 言葉が出ない私を置いて、ラディが何事もなかったように世界樹の映像の方へ体をむけた。


「これで夜が来る範囲は分かりましたから、あとは対策をするだけです。このランプと光の魔法を必要な所へ配置してください」


 あまりに淡々と平然とした態度。いつもなら、もう少し甘い言葉を続けるのに。


 微かな違和感に心の中で首を捻っているとフランマが頷いた。


「この範囲なら準備にさほど時間はかからないし、暗獣も魔法で対処できるわ。世界樹は……仕方ないけど」


 言葉では諦めているけど、その声には悔しさが滲む。それはイーンシーニスたちも同じらしく暗い空気が部屋に満ちる。

 ここで私はずっと気になっていたことを訊ねた。


「もし、光があったら世界樹は枯れない?」


 フランマが赤い髪を揺らして考える。


「どうかしら? 世界が闇に包まれたら枯れるって伝わっているから……」


 たしかに本にそう書かれていた。それは、私も読んだ。


「だから、闇に包まれなければ枯れないかな、と思ったんだけど」

「何か妙案でもあるのですか?」


 イーンシーニスが疑惑の視線をむける。

 これまでのことを考えたら、いろいろ貢献しているし、もう少し好意的にしてくれても……と好意的なイーンシーニスを想像してみた。


(うん、無理)


 この冷徹が好意的になるなんて想像でもできない。


 気持ちを切り替えた私はずっと考えていた案を話した。

 神妙な顔で最後まで聞いたフランマが顎に手を置いて考える。


「できないことはない……かしら。夜が来る範囲が限定的になったから、その分をまわして……」


 前向きに検討しているフランマに対して、イーンシーニスが眉間にシワを寄せる。


「世界樹の大きさを考えると、かなり難しいと思いますが」

「そこは出来るだけやりましょ。何もせずに世界樹が枯れるのを見ていくだけより、ずっといいわ」

「……わかりました」


 こうして夜へむけての準備を進めていった。



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