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『蝕みの魔女』は『星読みの聖女』となり、異世界に既望をもたらす  作者:


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教えて、偉い人!Part2

 こらえきれずに叫んでしまった私をシアが不思議そうに見つめる。


「どうしたの?」

「あ、ううん! なんでもない!」


 私は取り繕って話を戻す。


「ずっと側にいることはできないけど、こうして話ができるっていうのは分かったから。また話はできるよ」

「……うん」


 それでも、どこか不満そうで。

 シアがずっと表に現れていられるように方法を考えたいけど、今はそれより先に優先しないといけないことがある。

 私はシアの手を握って強く言った。


「全部の太陽が沈む日を計算して、その日までに『灯り』をこの世界に広めることができたら、みんな闇を怖がらないと思う。そうなるように、頑張るから」


 私の提案にシアが私を見つめる。


「みんな、怖がらないでくれるかな?」

「そうなるように、頑張ろう。シアも手伝って」

「……僕にもできることがある?」

「あるよ。シアにしかできないことが」


 闇の管理人であるシア。その力がどんなものかは分からないけど、夜の世界には必要なはず。


 ジッと見つめると、黒い髪が顔を隠すように揺れて頷いた。


「わかった。頑張るよ」


 そう言って、次に現れたのは満面の笑み。空気がほんわかと和む。


 けど、それを壊す音が……


 ぐぅ~


 私のお腹から。恥ずかしさもあるけど、空腹が地味に辛い。


「……そういえば、ずっとご飯を食べてなかった」

「それは大変! 早く食べて!」


 ずっと穏やかだったシアが焦って立ち上がる。


「急にどうしたの?」

「お腹が空いたら、力がなくなって、寂しくなって、大変なことになるんでしょ?」


 純真無垢な言葉。そうなるんだと疑ってもいない。


(これが天然培養のショタの威力……)


 感動に震える私の手をシアが引っ張ってドアの前へ誘導する。


「たくさん食べてきてね」


 その顔はどこか寂しげで。


(そうか。ドアを開けたら光が入るから、そうなったらシアは……)


 私はつま先を伸ばしてシアの頭を撫でた。


「いっぱい食べてくるから」


 柔らかな黒髪が指を滑る。名残惜しい気持ちもあるけど、いつまでもこうしてはいられない。


「またね」


 次への約束。大丈夫、ちゃんとまた会える。


 そんな私の思いを感じ取ったのか、シアの顔が綻ぶ。


「うん。またね」


 私は手に力を入れてドアをあけた。眩しいほどの光が差し込み、黒一色だった部屋が色づく。


「クッ……」


 小さなうめき声とともにシアがその場に膝をついた。


「大丈夫?」


 長い黒髪が短い金髪になり、体が青年から少年へと変わり、部屋に広がっていたミントの香りもレモンへと変わる。

 けど、ラディはすぐに動けず、両手で体を押さえたまま呼吸を荒くしている。


(これだけ体の大きさが変わるってことは、相当な負担があるんだろうな……)


 見守っていると徐々に息が落ち着き、小さな体がゆっくりと起き上がった。


 光を弾き太陽のように輝く金髪。私より低い背と、細い手足。シアとは違う姿だけど、紺碧の瞳は同じで……


(あれ?)


 同じはずの紺碧の瞳がジッと私を見つめる。ずっと会えなかったような、懐かしんでいるような目。

 いつもは淡々としているのに、ふわりと緩ませて微笑む。


 その表情にドキリと胸が跳ねた。そのまま全力疾走したようにドキドキと鼓動し続ける。

 思わず胸を押さえると、ラディが不思議そうに首を傾げた。


「どうしました?」


 自分でも分からない状態を振り払うように、慌てて首を横に振る。


「ううん、なんでもない。おはよう」


 誤魔化すように言った言葉にラディが反応した。


「『おはよう』とは何ですか?」


 そういえば、今まで言ったことがない。


「『寝る』をした後の挨拶、かな」

「『おやすみなさい』と同じような言葉ですか?」

「そう、そう」


 頷く私から視線をずらしたラディが天窓を見上げる。


「……時間軸の太陽が真上に。そんなに時間が経っていましたか」


 シアが現れている間のラディはあまり時間の感覚がないのかもしれない。そこも、どうなっているのか確認したいけど、それよりも今は……


 ぐぅ~。


 再び鳴ったお腹を慌てて押さえる。前世の感覚だと夜と朝と昼ご飯を食べていない状況なので仕方ないのだが。


 ラディが思い出したように話す。


「食事の時間が過ぎてますね。すぐに準備しますから、こちらへどうぞ」


 早足で案内された先にあったのは、明るい陽射しが降り注ぐ、半円形状の部屋だった。鈍い銀色の窓枠で作られた細長い窓が並び、その間には真っ白な壁。


 まるで、上流貴族のお屋敷のサロンのような豪華ながらも落ち着いた雰囲気。


 その中心には、白いテーブルクロスがかかった円形のテーブル。


「どうぞ」


 ラディにすすめられて椅子に座ると、フワフワと皿が飛んできた。しかも、未知の物体をのせて。

 私の前に着地した料理の内容をラディが説明する。


「今回のメインはリヴァイアサンの八重霞(やえかすみ)かけと、クラーケンの藍微塵(あいみじん)漬けです。保存食しかなかったので、口に合うといいのですが」

「海の神獣のリヴァイアサンが保存食……」


 平らな皿には虹色の切り身に何重にも重なった霞が浮かび、スープ皿には青紫の花々と……そこから飛び出す真っ赤なタコの足先。


「……クラーケンってタコだったの?」


 知ってる名前なだけに味が不安になる。でも、空腹には勝てなくて。


 真っ赤なタコ足にフォークを刺して口に入れる。やはり前世のタコとは違う味と触感。シャクと端切れがよくも、まったりコッテリと濃厚な味。

 これはもう別の食べ物だと割り切るしかないし、割り切ってしまえば、問題ない。


「どうですか?」


 ソッと私の様子を伺うラディ。


「うん、美味しいよ」

「よかったです」


 花が咲いたような満面の笑み。ショタの外見でその笑顔は私の性癖を刺しまくって、鼻の血管がヤバい。


(ショタとの食事ってだけで、ご飯三杯はいける状況なのに)


 残念ながら、この世界では白米と出会っていない。たぶん、存在しない気がする。


 ちょっと残念な気持ちを流すようにお茶を飲み込むと、ラディが訊ねてきた。


「もう一人の私と話をしました?」

「うん。シアと話したよ」


 私の呼び方にラディが食事をしながら考える。


「シア? あ、アニパルクシアのシアですか?」

「そう、そう。そんな長い名前。あれ? どうして、ラディが知っているの?」

「なんとなくです。同じ体のせいか、考えや気持ちが流れてくることがあるので」

「そうなんだ。そういえば、ラディばっかり愛称で呼ばれてズルいって言ってたけど、それも知ってた?」


 ラディが手を止めてフッと声を漏らす。


「それは知りませんでした。そうですか……ズルい、ですか」


 どこか悲しげな、それでいてホッとしたような声。


「そういえば、ラディはシアが現れている間は、どうしてたの?」


 私の質問に小さな顔が窓の外を向く。


「真っ白な世界に窓のような物があって、景色が見えました。たぶん、アニパルクシアが見ているものが映っていたのでしょうが、物体の認識もできないほどの暗闇でした」

「そう……あれ? でも、途中から灯りが見えなかった?」

「『灯り』?」


 ラディが首を傾げる。中身が年上とわかっていても、ショタの動作はそれを吹き飛ばすほど可愛らしい。


(何度見ても見慣れない)


 私は心の中で喝采しながら説明をした。


「灯りは暗闇を照らす光のこと。夜に道を歩く時とか、作業をする時は灯りで周囲を照らしてたの」

「暗闇を照らす……」


 そう呟いたラディが何かを思い出したように手で口元を隠して顔をそらした。


「どうしたの?」

「……いえ、なんでもありません」


 微妙な間。明らかに何かある。


 もやっとした私は一歩踏み込んでみた。


「隠し事はしないんだよね?」


 私の言葉に小さな肩が軽く跳ねた後、固まった。それから大きく息を吐いて……


「わかりました」


 そう言ってこちらを見た紺碧の瞳は据わっていて。


「え?」


 ラディが椅子から立ち上がり、私に近づいてくる。

 思わず身構えていると、小さな手が私の頬に伸びてきた。


「真っ暗だった世界に小さな光が現れ、ルーレナの顔が見えました」


 可愛らしい少年の顔なのに、甘くとろけるような少年の声なのに。その奥にある、世界の裏も表も知っている、大人な雰囲気が私を包み込む。


「ふぇ!?」


 突然のことに思考が停止するが、そんな私にお構いなしでラディが言葉を続ける。


「その中で浮かぶ紫の瞳がとても綺麗で、その先に映るアニパルクシアに嫉妬したほどです」


 そう言って小さな指が頬に触れる。そのまま小さな体が迫ってきて……子ども特有の高い体温を感じる。


(ちょっ!? 中身は年上だけど、外見はショタだし、傍から見ればアウトな光景なんだけど!? これって、セーフなの!? アウトなの!? 教えて、偉い人!)




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