21 笑顔(side Garret)
誰かに作為的に落とされた恋は、長続きするのか、否か。
俺が思うに、きっかけがどうあろうが、相手の内側を知れば知るほど好きになるのなら、それは本当に好きなのだ。幻滅するのなら、ただ外見や状況に流されてしまった必要がある。
そこで、自分の気持ちを間違えてはいけない。
もし、これの順序がいけないというのであれば、親に決められた婚約者を愛することも出来なくなるだろう。
だから、俺は婚約者となったローレンが好きで間違えていない。彼女と会うたび話すたびに、おかしくなるように好きになってしまう。
一国を背負う王になるというのに、これではいけないと理性ではわかってはいるが、止められないのだ。ローレンの名前を後世に残る傾国の美女にしてしまう訳にはいかないので、そこで自重はしている。
以前から、可愛い可愛いと思ってはいたが、ますます可愛くなる。これはおかしい。ローレンがおかしいのか、俺の目がおかしいのか……はたまた、どちらもおかしいのか。
恋に落ちれば人はおかしくなってしまうと聞いていた。これは、間違いない。証拠は見ての通りに俺だ。これまでには、簡単に出来ていたはずの計算が出来なくなってしまう。
それをもし怖いと尻込みするなら、恋愛は一生しない方が良い。上手くいく保証のある恋愛など、あるはずもないからだ。
何度も失敗を乗り越えて進む方が好きなのなら、絶対にした方が良い。
恋愛は人生の彩りであり、そこで人は苦楽を味わうことが出来るだろう。裏切り裏切られることだってある。それを楽しむ程度の気概がないのなら、あまりお勧めはしない。
ローレンは俺がもし心変わりをしたらという例え話をしたことがあったが、それは俺にだって同じことだ。
俺だってここまでのめり込んでいる存在のローレンが裏切れば、きっと正気ではいられない。
だから、元王妃アニータの罪は人は皆、あまり直視はしたがらないのかもしれない。誰だって罪を犯すし、誰だって裏切られれば人を恨む。
それはもう、どうしようもないことなのだから。
「おい……ギャレット。いい加減にしたらどうだ」
「え? ……あ。悪い。考え事をしていた。ガレス。何を話していたんだ?」
背の高いガレスは庭園のベンチに座り、ぼんやりとしていた俺を見下ろして嫌な顔をしていた。
「いや、お前の結婚式についてだ。王太子の結婚式だぞ」
「……何か、問題があったのか?」
「だから、一年はせめて準備期間を取れと言ったんだ。付き合いのある各国の国賓を招くし、先方の予定もある。色々あって急いでいるのはわかるが、自分の立場を考えろ」
いつものガレスの説教が始まったので、俺は立ち上がり歩き始めた。ガレスは口うるさくいってくれるが、それが俺にとっては救いでもあった。
立場上、王太子の俺に何かを意見しようとする人間は少なく……乳兄弟のガレスは、俺を心配してくれているから、こうして言ってくれていることも理解していた。
口にすることなんでも理解し、賞賛されれば、人は何も考えず馬鹿になる。だから、権力を持つ俺がそれなりに理性を守っていると思われているのなら、それはこのガレスのおかげなのだ。
「……国賓については、また違う機会を設ければ良いだろう。ローレンは俺の婚約者になって、そろそろ一年経つんだぞ」
それは元王妃の思惑だったらしいが、もうなんでも良い。彼女は色々と罪が発覚したが、元王妃という立場もあり、離宮に蟄居することになった。
きっと、もう生きている間に会うこともないだろう。
俺の義弟のアイゼアは全く何も知らなかった。これまでの母の罪を悔いて王位継承権を捨てようとしたのだが、父がそれを止めた。アイゼアは思いとどまり、今も第二王子のままだ。
あの二人で、どんな話をしたのかは俺は知らない。知る必要もない。
「お前は……本当に、恋愛に免疫がないから……だから、言っただろう。剣の練習ばかりせず、令嬢との会話も練習しろと」
「ん? ……あ。ローレンか? ああ。絵を描いているんだな」
前に蹲って泣いていたローレンを見掛けた場所で、彼女は絵を描いていたようだ。後ろ姿もおかしいくらいに可愛い。
「ああ……そうだな。ギャレット。手でも振ったらどうだ?」
そうだ。出会ったばかりのあの時とは、違う。こんなにも、二人の距離は縮まった。今、俺が呼びかけて手を振れば、きっと笑って手を振り返してくれるはずだ。
俺はずっと、あの子の可愛い笑顔が見たかったんだ。
お読み頂きありがとうございました。
もし良かったら、最後に評価していただけましたら幸いです。
また、別の作品でもお会いできたら嬉しいです。
待鳥園子




