第2話
「あら、まあ!」
母も父と同じような反応だった。そんなに有名なのね、ここ。
「まさか自分の子供に特別魔法学校から手紙が来るなんて、夢にも思わなかったわ…」
父とは違い、母は驚いて言葉が出ないような様子だった。
「まあまあジェーン、話は朝ごはんの後にしよう。せっかくの美味しいご飯が冷めてしまう。」
「それもそうね。」
といって、母は僕がとってきたレタスを少しちぎり、洗って3人の皿の上に分けた。
「いただきまーす」
朝ごはんは焼いたパンと目玉焼きにソーセージ、そして畑や庭でとれたトマトやレタスなど。特段珍しい朝食じゃあないけど、僕にはこれがいちばん美味しい。
父はいつものように、食べ終わると棚からコーヒー豆を取り出して淹れる。勿論これも魔法で、だ。最近は市で買ったなんとやら、って豆にはまっているらしい。
「ゴホン」
と父がもったいぶって咳払いをし、しゃべり始めた。
「まず第一にエド、特別魔法学校と、戦闘魔術師について、知っているかい?」
「ううん、聞いたことはあるけど、意味はよく知らない。」
「まず第一に、この世界の大人たちはみんな、父さんや母さんのように魔法を使ってすごしているだろう?」
「うん、そうだね。」
「でもその中でも、「戦闘魔術師」と言って、各地に存在する「ゲート」で戦う人たちがいるんだ。」
「ゲートって何?」
「ちょっと前に、隣の山奥が封鎖になったことがあっただろう?あれはあそこにゲートができたんだ。」
「あれって、その「ゲート」ができたからなんだ。おじさんに聞いたら落石が起きたって言ってたけど。」
「まあ、子供には危ないからな。」
父はコーヒーを1口飲んだ。
「それで、その「戦闘魔術師」は誰だってなれるわけじゃないんだ。なんてったって戦うわけだからな。なるには特別な資格がいる。その資格を取るために勉強するのが…」
「特別魔法学校。」
「そういうわけだ。さらに、その特別魔法学校に入るのも簡単じゃない。よくわからんが、「とある理由」で選ばれた人だけが許可されるらしい。その1人がエドってわけさ。」
「とある理由って一体なんなの?」
「さあな。噂じゃ学校が適当に選んでるとか、占いで選んでるとか言われてるが、大方違うだろう。よくわからんからな。」
父はまたコーヒーを飲んだ。
「それで、エドはこの学校に入りたいかい?5日以内に出せと書いてある。だいぶ急いでるんだろうな。」
「結局、この「戦闘魔術師」ってすごい人たちなの?」
「まあ、そりゃそうだろう、選ばれた人にしかなれないらしいからな。一部を除いては、この手紙が届いた子たちはみんな通ってるとも聞くしな。」
「一部を除いて?」
「ああ、そうだ。子供達を戦わせるなんて危険な事はしたくない!」って親も多いみたいだ。」
それを聞いた母が驚いた様子で父に聞く。
「その戦闘魔術師って、危ないの⁉」
「そりゃあ、まあ一定のリスクは伴うだろうな。」
「私、そんな学校にエドを行かせるってなったら、少し不安だわ…」
「まあそんなに案ずることじゃない。ここ10年は関連の死亡者はいないみたいだし、重傷者も数えるほどだと聞く。」
「そう、それならいいけど…」
母は安心したようだ。父は再びこちらを向いた。
「エド、君はこの学校に行ってみたいかい?」
「うーん、いまいちこの学校のことも、職業のこともわかっていないんだけど…」
「それでも、この学校に選ばれたことは光栄なことだろうし、この学校にいったからといって、戦闘魔術師にならなきゃいけない、という決まりはないんだ。資格はとれるけどね。」
「そうなんだ…!」
「だがまあ、普通の学校で学べることもこの学校で学べるみたいだし、選ばれたのならせっかくだし行ってみるってのもありだと思うぞ。」
「うーん…」
しばらくの間、沈黙と父がコーヒーをすする音だけが流れた。
「それなら、行ってみようかな…」
「そうか、それがいいと思うぞ。」
「でも、「特別」だったらお金がいるんじゃ…」
「お金のことは気にするな。そもそも基本的な授業料とかは通常の学校とあまり変わらん。特別に買うものが増えるくらいだ。エド1人くらいなんとでもなるさ」
と言って母のほうを見た。母は立ち上がって、
「それなら、お昼から市に出て、入学準備をしないとね。」
「でも母さん、何がいるかわからないんじゃ…」
「ああそうそう、これを書いて魔法速達で送るんだった。エドは自分の名前をこの上の所に書いてくれ。」
エドは入念に自分の字を書いて、父に手渡した。
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ラズナー魔法学校 入学希望書
入学の要否 要
本人自署 エドワード・フォスター
保護者署名 ニック・フォスター
保護者続柄 (父)
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「これでよしと。」
父は紙を最初の封筒にはいっていた綺麗な封筒に入れ、封をし、さっと杖をふってポストに入れた。これで速達は完了である。
「それじゃあ、返信が来るのを待つかな。」
「そうだね。」
「楽しみか?エド。」
「うん、楽しみだよ。」