第1話
「…う、うーん…」
窓から差し込む明るい光が目に入り、赤髪の少年はゆっくりと目を覚ました。
「エドー 起きなさいー」
1階から声が聞こえてくる。
「うん、いまいくよ…」
と少年は声を上げ、体をゆっくりと起こした。少年の名前は「エドワード・フォスター」。父と母から受け継いだ赤髪が特徴の少年だ。
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ぐしゃぐしゃになった毛布をたたみ、僕は1階に降りた。すでに父も母も起きており、母はキッチンで朝食を、父は家の前の掃除をしていた。
「おはようエド」
「おはよう、母さん」
エドワードとよく似た茶色を帯びた赤髪を、肩まで伸ばしたこの女性こそ、母のジェーン・フォスター。母は杖で火を出して、それを昨日父が割った薪につけてくべた。フライパンには目玉焼きが3つとソーセージが6本、ジュージューとおいしそうな音を立てて焼けている。
「エド、お父さんに畑にレタスをとってくるようにいってくれない?」
「わかった」
エドはドアを開け、外で洗濯を始めていた父のもとへ行く。
「父さん、おはよう」
「ああ、おはよう、エド。昨日の夜はすごい風だったけど、今日はよく晴れていてよかったな。家の前が葉っぱだらけだったよ」
「きょうは眩しいぐらいに晴れてるね。ところで父さん、母さんが畑にキャベツをとってきてっていってたんだけど…」
「おお、そうかい。でもすまないが、父さんは洗濯をはじめてしまったから、取りにいってくれるか?」
父は泡を出している杖を見せながら言った。エドワードより少し明るい赤髪を短くしているこの男性がニック・フォスター。エドワードの父。
「いいよ、もってくるね。」
「すまんな、ついでに手紙も見てきてくれ。」
「はーい」
エドは畑にいくと、大きく育ったレタスを収穫する。ニックが昨日カバーをつけておいたので野菜たちは安心だ。1つとって、もってきたカゴに入れる。
「よいしょっと」
なかなかに重いカゴの持ち手を肩に掛け、門の近くにある手紙受けを見た。友人かららしき母の手紙が2枚に、町のお知らせの紙が1枚、飼料のチラシが1枚。一番下に、見慣れない上質な紙の封筒に入った手紙が1通。赤い印がついており、裏には
「エドワード・フォスター様 ラズナー魔法学校より」
と青色の文字で書かれていた。
「ラズナー魔法学校…?」
名前も聞いたことのない学校だ。わけが分からないエドはそれを持ち帰って父に見せることにした。
「なんてこったい!」
変な手紙が届いていたと、父に見せるなり、父は大きな声をだした。
「『あの』、『ラズナー魔法学校』だって⁉」
「父さん、知ってるの?」
この世界では、人々は「魔法」を使って生活している。両親のように、魔法を使って料理をしたり、洗濯をしたり。魔法を使ってモノを作ることを生業としている人もいる。
人々は普通の学校で勉強をしたり、基礎的な魔法を学習する。しかし、とある理由で選ばれた人たちは「特別魔法学校」で学習をするのだ。
その「特別魔法学校」の1つが「ラズナー魔法学校」である。
「ああ、もちろんだ!ラズナーは国内でもトップクラスの学校だ!」
「でも、なんでそんな学校から僕に手紙が…」
「まぁ、開けてみるといいさ」
父の言葉に促され、僕は丁寧に封を切った。中にはこれまた上質な紙が、3枚ほど入っていた。1枚目の文字が多く書いてある紙を広げてみた。
「入学…候補証…?」
「やっぱりな。」
「父さん、知ってたの?」
「ああ、そうだ。特別魔法学校は、『とある理由』で選んだ、とある理由が何かはわからんが、エドのような年頃の、子供たちにはこうやって手紙を送ってくるんだ。」
「ふーん…で、この候補証って一体なんなの?」
「まぁそれは、読んでみりゃわかる。」
僕は再び紙に目を落とし、小さめの字で書かれた文章を読んだ。そこにはこう書いてあった。
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エドワード・フォスター様
この度、貴殿は特別魔法学校「ラズナー魔法学校」の入学候補生に選出されました。つきましては、入学の要否、貴殿と保護者の署名を別添の紙に記入ののち、また別添の封筒に入れ、5日以内に魔法速達でお送りいただきますよう、お願い申し上げます。入学をご希望される場合は、1週間以内には別途詳細をお送りいたします。ご入学をお待ちしております。
ラズナー魔法学校長 ルーク・エリオット
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「…んんん…なるほど……」
「要は、エドがこの特別魔法学校に入れるってことだ。」
正直僕は、「特別魔法学校」が何なのかあまりよく知らなかった。来年から始まる学校も、街の子どもたちと一緒に市の普通学校に通う予定だった。
「うーん…つまり、この学校に入れる人たちに僕は選ばれた、ってことなのかな?」
「ああ、そうなんだろう。」
父も僕もしばらく手紙を眺めていた。しばらくすると家から
「ニック〜 エド〜 朝ごはんよー」
と母が僕達を呼ぶ声が聞こえた。
「とりあえず朝ごはんを食べて、その後3人で考えようか。」
「そうだね。」
僕は手紙を他の手紙と一緒にポケットに入れ、父と家に戻った。