ボルシチもどき
今日は2月5日
息子の命日と誕生日だ
三つ子だった
一人は産まれたとき息をしていなかった
あとの二人は無事に産まれてきたが病弱だった
私は、一人で体の弱い二人の子供を育てて行けずに、一人は母に預けて、一人だけを自分の手元で育てた
しかし、この判断は間違っていた
母に預けた子供は『ボクはお母さんに捨てられたんだ』と思うようになったし、手元で育てた子供は、いつも母に預けた子供のことを考えている私をみて、『ボクはお母さんに愛されていない』と思うようになり、とうとう、十五才のときに家出をした。あれから、十五年が過ぎたが、未だに見つかっていない
あのこは、ボルシチが好きだった
今日のお昼ご飯はボルシチにしよう。と、言っても、この町のスーパーには、ビーツが売っていないから、ビーツの代わりに、トマトとトマトジュースを入れる
鍋に油をひいて、牛肉を炒める。乱切りにした、じゃがいも、にんじん、たまねぎを入れて炒める。そして、キャベツとトマトを入れて、水を少なめに入れて、塩コショウを少々と、スープのもとを入れて、トマトジュースをいれる。あとは、このまま、煮込むだけだ
煮込んでいる間に、買ってきた、イチゴのショートケーキ、プリン、ヨーグルトと、日本酒を仏壇に供える
そして、同じものを三人分用意する。一つは私の分、もう一つは、今は、他県で暮らしている息子の分。そして、あと一つは、未だにどこにいるのか、生きているのか、死んでいるのかもわからない息子の分だ
そろそろ、できたかな。
私は鍋のフタを開けてみる
うん、大丈夫だな
私は、できたボルシチを四人分盛りつける
一つは仏壇に、一つは私の分、あとは、二人の息子の分だ
いつまで、こうして、陰膳を続けなきゃないのかな