アルミラージ その38 『ミラおねいちゃんをいじめたらダメなのー!!』
バキッと鈍い音を立て。
弧を描いて、回転しながら飛んでいく角。
根本から三分の一くらいのところで折られてしまったのです。
その上、かろうじて大剣をそらしたものの、右半身をザックリ斬られたのです。
具体的には右後足はわたしの体からおさらばしたのですよ。
もはや土槍に挟まり、右足のあったところから大量出血して身動き取れずにいるわたしを見て、初めてキングが高笑いをしたのです。満足そうに。
そりゃあこれだけ死力を尽くして戦えば満足もするのです。
こっちは敗北=死亡確定してガッカリなのですけどね。
悔しいですが仕方ないのです。
戦術も騙し合いも完敗したのですから。
むしろ格上相手によくここまでやれたと誇ってもいいくらいなのですよ。
わたし頑張った。よくやった。もう充分なのです。
不幸中の幸いなのは、リルだけでも逃すことができたことなのです。
キングも雑魚相手に追跡はしないと思うのですよ。
勝負にも大満足したっぽいですし。
わたしは諦めて動かず、キングは満足げにゆっくり大剣を振り上げたその時。
キングの足元に近づく小さな影が。
まさか?
リルなのです⁈
逃げていなかったのですか⁈
弱いながらも身体強化と魔力撃を駆使して自分からオークキングに突っ込んでいくのです。
『ミラおねいちゃんをいじめたらダメなのー!!』
キングも虚をつかれたのか避けもせず、リルの角はキングの左足に半分くらい刺さったのです。
キングはとどめを邪魔されて、めっちゃ不愉快そう。
大したダメージではないのですが、煩わしそうに右足でリルを蹴り飛ばしたのです!
やめるのです! リルに手を出すのは許さないのです!
『キュウン!』と悲鳴を上げて吹っ飛ばされるリル!
クソキング! やるならわたしが相手になるのですよ!
目の前が真っ赤に染まるほどの怒りを感じるのと同時に、覚えのない光景が脳裏に浮かぶ……。これは……なに?
大きな人影が誰かに拳を振り下ろそうしている。そして、それを止めようと駆け寄る小さな影。
逃げ場の無い狭い部屋の中、レトルトのカレーが床にぶちまけられ、半額シールの付いたポテトサラダの容器が隅に転がっている。野太い恫喝の声が響く。
魔物たちと戦い、オークどもを殺しまくった今のわたしにはそよ風ほどにしか感じないですが、その小さな影は恐怖に足を震わせながらも大きな人影の前に立ちはだかったのです。
「ママをいじめないで!」「うるせぇ! 俺に命令するんじゃねえ!」「やめて! 子供には手を出さないで!」「はっ! こんなガキ作るんじゃなかったぜ!」
フラッシュバックしたのは一瞬のことですが、駆け寄る小さな姿とリルの存在が少しだけ重なって見えたのです。
大切な存在を守るために巨大な敵に抗う姿が。
リル、リル! 無事なのですか⁈
生きていたら返事をするのです!!
『……お、おねいちゃん……』
良かった! 生きていたのです!
生きてくれてはいたのですが。
あの筋肉ゴリラに、本気ではないとはいえ蹴られたのですから重傷には違いないのです。
このまま放置しては死んでしまうかもしれない。
助けるには、まずわたしが生き延びて治療の算段をつけなくてはならないのです。
そしてそのためには……。
目の前のキングをなんとかしないといけないのです。
はっきり言って詰んでるのですよ。
しかし諦める訳にはいかないのです。
可愛い妹分である、リルの命がかかっているのですから。
2024年12月25日、ミラさんが、前世の記憶をわずかにフラッシュバックするシーンを加筆修正しました。




