アルミラージ その32 バカリル!
なんとか追撃を受けずに逃げることは出来たのですが、油断はできないのです。
このまま距離をあけて、巣穴を経由して匂いを誤魔化すのですよ。
一つ目のスィートマイホームに到着したのですが、ここで誤算が生じたのです。
リル!?
何故、一番近い巣穴にいるのですか⁈
わたしの気配を感知したのか、巣穴から出てきて近寄って来るのです。
『ミラおねいちゃん! ぶじだったの⁈』
涙目ですり寄ってくるのですが、わたしは苦虫を噛み潰したように渋面になるのです。
うさぎに渋面が出来るかは分からないのですが。
『バカリル! なんでもっと遠くの巣穴に逃げなかったのですか⁈
ここはまだ危険なのです! 追跡を受けているかもしれないのですよ!』
『だ、だっておねいちゃんがしんぱいだったから……。……ごめんなさいなの……。』
……ハァ。そんな言葉を聞けば、これ以上怒れないのですよ。
とにかく、まだ危険は去っていないのです。
早くリルを他の巣穴に逃さなくてはいけないのですよ。
なんなら草原を抜けて森や人間の領域に一時避難してもいいかもしれないですね。
別の危険はあるのですが、目の前の危機よりはマシなのですから。
上手くすれば人間がオーク(?)を討伐してくれるかもしれないですし。
ダメでも人間に押し付けている間に逃げることも可能なのですよ。
人間たちには悪いのですが、今のわたしは魔物であるアルミラージなのです。
わたしにとって重要なのは、わたしとリルの命だけ。
そのためには他の命を犠牲にしても仕方ないのですよ。
もちろん、犠牲にせずに済むならそれでいいのですけどね。
レベルが上がったとはいえ、まだまだステータスの低いリルを連れて逃げるのなら、一刻の猶予もないのです。
早く次の巣穴に向かって走るのですよ!
リルを促して動こうとしたその時!
殺気と共に、また赤色の魔力が近づいてきたのです!
リルを巣穴に向かって蹴り飛ばし、その反動で逆方向に退避するのです!
すると次の瞬間には、さっきまでわたしとリルがいた場所から、土の槍が束になって突き上げたのです!
間一髪、ギリギリ回避!
しかし、避けられたのはいいのですが、状況は最悪なのです。
足の遅いリルと一緒では逃げ切れないのです。
最低でもわたしが足止めしなければいけないのですよ。
さっきまでのオークども相手の足止めとはわけが違うのです。
相手は未知の、魔法を使う強敵なのです。
最低でもジェネラルより格上、いわゆるオークロードとかキングなのですかね?
勝ち目は薄いと言わざるを得ないのですよ。




