間話 その33 龍神 親龍の鱗が子龍を守るかのように。
いつも、つたない作品をお読みくださいまして、ありがとうございます。
m(_ _)m
長休に入ったはいいんですが、本編の執筆がまったく進んでいない件について。(^^;
とりあえず、予告通り間話を投稿いたします。
これからも楽しんでいただけると嬉しいですです。
転移門を抜けると、そこは峻厳な岩肌をあらわにした山の中腹であった。
そして、目の前には周囲の岩塊とは対照的な、優美な紋様が施された両開きの扉がある。
鍛治神は元が地崫人から昇神したからか、このような岩室に好んで住んでいるらしい。
同じ地に属する者でも、地母神や我が妻のように宮殿や迷宮に住むわけではないのだな。
まあ、他人の好みにとやかく言うまい。
『邪魔をするぞ。』
ひと声かけ、無造作に扉を開けて中に入っていく。
勝手知ったる他人の家、といったところか。
幾度も来ているから、どこになにがあるかはおおよそ分かっている。
迷いなく進み、熱気あふれる一つの部屋へとたどり着く。
鍛治神自慢の作業場だ。
『誰かと思えば、ヴァスキデオス殿か。
こんなところまで、いったい何用かな?』
作業の手を止めて振り向いたのは、長い髭と逞しい体躯を持つやや低い背の男。
だが、その体の厚みと力強く盛り上がる全身の筋肉から、小さいという印象はまったく受けない。
『ヴォルカルフタよ。ミルラーナの武具を作ると聞いたが、材料に困っているのではないかと思ってな。』
『うむ。たしかにわしが引き受けたが、材料なら充分に揃っておるぞ?
アンデッド化したエルダードラゴンの龍鱗を渡された上に、武器にはミルラーナ自身の角を譲り受けたからの。』
『……ほう。たしかに亜神の角ならば不足はないようだな。
だが龍鱗はどうかな?
アンデッド化したエルダードラゴンとはいえ、元はAランクの魔物。地上の素材として最上の部類ではあろうが、亜神の身を守るには心許なかろう。』
『まあ、そこは腕の見せ所というところかの。
それに、現状で望み得る最高の材料ではあるのでな。』
自身の腕を軽くたたき、握り拳を見せてくる。
誉高き鍛治神ならばそれも可能だろう。だが……。
『それならば、より良い材料ならばさらに高みを目指せるとは思わぬか?』
亜空間収納から袋を取り出すと、目の前の作業台に置く。
中から、微かに軽い金属が擦れるような音がした。
目で促すと、ヴォルカルフタは袋の中身を確かめ、驚きの声を上げる。
『こ、これはまさか……。』
『ああ。龍神である、わたしの鱗だ。
これならば、神々の武具としても不足はあるまい。』
『しかし、逆鱗まであるではないか!
よいのか?龍神よ……。』
たしかに通常の鱗どころか、逆鱗を自ら剥がしたため、わたしの神力は一時的に減衰していよう。
だが、それがどうしたと言うのだ?
多少弱体化したところで、わたしが直接戦えるわけではない。
それならば、健気にも自分の仇を討とうとしている娘に…………、いや今さら娘と呼べる立場ではないか。
かつて、娘とその婚約者を信じずに惨劇を防げなかった、愚かな父親にはな……。
だが、契約に従い助力する分には問題はあるまい。
それで、少しでもミルラーナを守れるのなら。
無言で頷くと、鍛治神も納得したようだ。
『ふぅむ…………。分かった。
最高の材料で最高の武具を作らせてもらおうぞ。』
『……よろしく頼む。』
これで、今度こそ我が鱗があの者を守るだろう。
親龍の鱗が子龍を守るかのように。
ようやく、龍神様のお名前が判明しました。
ヴァスキデオス=八大龍王ヴァスキ+テオス(ギリシャ語で神)
ついでに他の龍王のお名前も。
地龍王 サーガランディア
水龍王 ウォルトナーダ
火龍王 フラームナーダ
風龍王 マナスヴィンド
こちらも同じく、仏教の八大龍王の名前+属性で作りました。
ミラさんの前世(初世)の立場としては、龍王女(半神)ですね。
これもネットで調べたんですが、娑伽羅龍王の娘で善女龍王、娑伽羅龍王女という龍神がいまして、龍王の娘なら設定にピッタリじゃん!となり、親の地龍王の名前が決まりました。
もっとも、インド神話的には龍王は半人半蛇のナーガの王様ですから、これに当てはめると下半身蛇のラミア系のミラさんになるわけで。(^^;
……想像してみても、妖艶さとはほど遠い残念ラミアが脳裏に浮かびますね。




