間話 その23 アセナ 前編 月神ルーナラーナとの謁見
いつも、つたない作品をお読みくださいまして、まことにありがとうございます。
これからもご主人様はじめ、わたしたちの活躍をご覧いただけると幸いでございます。
∧ ∧
( ❛ ᴥ ❛ )
その部屋は……。
神殿の奥深くにありながらも、地面からは草が生い茂り、そこに白く艶やかな石畳みが美しく並んでいます。
その中心に同じく白い祭壇があり、そこに立てかけられているのは、先端に人の頭の大きさほどの鏡が取り付けられた、派手ではありませんが優美な装飾の施された木製の長い杖でした。
これが『鎮魂の月鏡』ですか……。
聖域の中でも一際神聖さを感じますね。
巫女であるクリスティア様が祭壇に歩みより、跪いて聖印を切ると、わずかに目を閉じて祈られます。
そして目を開けると恭しく鏡を両手で手に取られました。
振り返ると、わたしに向けて言われます。
「ラン様、こちらにおいでください。
祭壇の前で月神様に祈るように、とのことです。」
『分かりました。』
わたしは祭壇に近づき、腰を下ろして祈りました。
ここは……?
さっきまでは、たしかに神殿の聖域にいたはずなのに。
今、わたしは聖域よりもはるかに清浄な空気に満ちた広大な空間にいます。
ここはもしや、ご主人様がおっしゃっていた……。
『さすがに察しが早いね。
その通りだよ。ようこそ、月神宮へ。
僕が月神ルーナラーナだよ。』
振り返ると、そこには見た目は若い人間の男性が立っていました。
……このお方が月神様……。
ミラお姉様の婚約者にして、眷属としての主でもあらせられます。
わたしは身を伏せ、頭をたれます。
『お初にお目にかかります。
わたしはミラお姉様の従魔、アセナのランと申します。』
『うん。君のことはもちろん知っているし、見てもいたよ。
ラン。いつも僕の愛するミラちゃんを助けてくれて感謝している。ありがとう。』
月神様から直接、感謝のお言葉を賜わるとは……。
『……大変光栄ではございますが、感謝されるにはおよびません。
わたし自身がご主人様のお役に立ちたいと思っておりますので。
当然のことをしたまででございます。』
『フフフ、そう言うと思ったよ。
相変わらず謙虚だね。
ラン、君を家族にできてミラちゃんも心から喜んでいるんだよ?』
……胸の奥から暖かくなってきました。
嬉しいですね。我知らず尻尾が揺れてしまいます。
『……ありがとうございます。
そのお言葉ですべて報われます。
月神ルーナラーナ様。
ご主人様の婚約者として、改めてあなた様にも忠誠をお誓いいたします。』
にこやかに頷く月神様。
『さてと!
ラン。君をわざわざ呼び出したのは他でもない。
君には進化して、ミラちゃんのフォローをお願いしたいんだ。
今の君たちでは、ミラちゃんとあの黒鳥の闘いに入っても足手まといにしかならないからね。』
なんと、わたしにさらに進化せよと?
進化するのは構わないのですが、それはつまり……。
『……ご主人様の相手はそれほどまでに危険なのでしょうか……?』
不安を覚えてお聞きしますと、丁寧にお答えくださいました。
『一対一ならば負ける要素はない、と思ってるんだけどね。
神気に満ちた神獣と、瘴気にまみれたアンデッドだからね。属性の相性もあるし負けはない。
ただ、ミラちゃんは優しいから……。
人間の街を攻撃されれば、かばわざるを得ないんだよ。
人間なんかほっとけばいいのにねえ……。
言ってみれば、街全体が人質のようなものさ。
それが枷になってしまって、主導権を握れずにいるんだ。』
ランちゃんの間話はなぜか長くなるのです……。
(^^;
会話が丁寧だからかな?
兎に角、後編に続くんじゃ。




