間話 その13 衛兵小隊長 ライネンだけど、頭の痛い今の話
素人の趣味の作品をここまでお読みくださり、ありがとうございます。
今日は、間話を二つ投稿して、お休みに入りたいと思います。
わたしこと、衛兵第一小隊長であるライネンは、今、大きな屋敷の3階にある、屋敷の主人の部屋らしき場所で捜索の指揮をとっている。
今日未明、当直の兵から報告があり、この屋敷に小隊を率いて赴いたのだ。
まず驚いたのは、門前に屋敷の主である商人の遺体が放置されていたことと、その懐には自分で書いたとおぼしき悪事の告白が書き連ねられた紙の束があったことだ。
商人は拷問でも受けたかのような全身傷だらけの状態だった。
そして、紙束の方はざっと読んだだけでも吐き気を催す内容だ。
中には、証拠がないために捜査を断念せざるを得なかった窃盗、強盗や誘拐などへの関与が疑われるものも多数ある。
よくもこれだけの悪事ができたものだ。
隊を率いて屋敷の中を探ると、さらに驚かされた。
使用人らしき連中が、軒並みベッドの中で苦悶の表情で冷たくなっているのだから。
わずかにメイドらしき女たちが生き残っていた。
怯えているものの、こちらの質問には正直に答えてくれているようだ。
彼女たちは、主と屋敷の連中が悪事に手を染めていると薄々気付いていたそうだが、怖くて訴え出ることは出来なかったらしい。
まあ、一介のメイドの身では無理からぬところだろう。
彼女たちの言い分はこうだ。
昨夜遅く急に頭の中に声が聞こえ、この屋敷の住人、主人を含む8割の人間を殺したこと、お前たちは直接悪事に手を染めてはいないから殺さないこと、朝になれば衛兵がやって来るから、捜査に協力すること、などをいい含められたという。
にわかには信じられない話だが、現実に主は死に、執事はじめ使用人の8割は死んでいるのだから、信じるほかないのだ。
ましてや、地下室からは拐われたらしい若い女性が三人見つかっているのだから。
違法奴隷取引にまで手を出していたとは、もはや呆れるほかないな。
せめてもの救いは、この三人が売られる前に助けられたことか。
この後に続く、悪事の裏付け捜査のことを思うと頭が痛くなってくる。
なにしろ10や20ではきかないのだ。
これらを調べるだけでも何ヶ月かかるか分からん。
そして、この殺戮を行い、あまつさえ悪事の内容を本人に書かせたのはいったい何者なのか?
わたしもこの屋敷の主であるツェンバルンのことは知っている。
欲深く、押しが強いから、とても自分の罪を認めるような男ではない。
武器をもって脅したとしても、ここまで詳細に書くものだろうか。
何か魔法的な方法で強制したのではないか?
魔法という言葉で、ある少女が連想されてきた。
ごく最近、近くの村で会った魔物使いの少女。
村を襲った賊を魔法と、従魔たちを使って撃退した上に、傷ついた村人を癒したという。
彼女なら、この事件を実行することができるだろうか?
しかし、わたしは頭を振って、その考えを打ち消した。
あの子は、確かに昨日には街に訪れていると聞いたが、来たばかりであの商人と屋敷の住人たちを殺す理由が無い。
あとで調べてみたが、その日彼女は、初めて訪れた街を歩いて疲れたためか、早くに宿に入って休んでいたという。
翌日も昼過ぎまで起きてこなかったと、ガルドたちが言っていた。
その間、宿から一歩も出ていないというのだから、犯人は彼女ではない。
では、いったい誰が?
しかし、まずは現場の捜査と後始末、それに裏付け捜査だ。犯人につながる証拠があればいいが。
それから、代官とご領主様への報告をしなければならない。
それも頭の痛い問題だが。




