間話 その10 月神 君がそばにいてくれさえしたら。
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つたない作品ですが、これからも楽しんでいただけたら幸いです。
(*゜▽゜*)
あの人を失ってから、どれだけの月日が流れただろう。
僕の最愛の人。龍神と地龍王の娘。
眩いストロベリーブロンドの髪。
勝ち気に光る真紅の瞳。
瑞々しいピンクの唇。
そのどれもが、今でもはっきりと思い出せる。
僕たちは婚約者だった。
と言っても、最初は仲が悪かったんだよね。
僕の親である太陽神と、彼女の父である龍神との間で取り決められた婚約で、僕たちの意思はそこには介在していなかったし。
彼女は気が強くて、真面目。
対して僕は軽佻浮薄。
いつも蔑んだ目で見られたものさ。
今となっては、それすら愛おしいけど。
……別にマゾじゃないよ?
彼女は僕の軽さが気に食わなかったらしい。
神としての自覚に欠けると。
けど、この性格は生まれついてのものだから、文句は父と母である、太陽神と地母神に言って欲しいところだよね。僕の責任じゃない。
僕が司るのは生と死、そして復活。
月の満ち欠けになぞらえて、とはよく言ったものさ。
正しく生きて、正しく死ぬ。
アンデッドにならないようにね。
そして、魂は輪廻を巡って復活する。
それを監視して、導くのが僕の仕事ってわけだ。
神として授けられた能力があるから、簡単とは言わないが無理なくこなせるのさ。
いつかミラちゃんが言っていた、並列思考(神)とか、言い得て妙だね。
まあそんなわけで仕事に誇りは持っていたし、眷属も助けてくれるけど、若干の寂しさ?は感じていたんだ。
僕は数多の生と死を見つめている。
その悲劇と喜劇をね。
神だから耐えられるけど、普通の生き物だったらあっという間に発狂しているだろう。
それを一人で見つめ続けることに、少しだけ疲れていたのかもしれない。
そのわずかな変化を見てとった太陽神は、輪廻が乱れないように、僕に伴侶をあてがったというわけ。
あてがわれた人には悪いけど、これも世界を正しく廻すためだ。
お互いに諦めてくれれば良かったのだけど、彼女は大人しくは従わなかった。
月神宮にやって来ては、くどくどとお説教をしてくるし、馬鹿なことを言えば遠慮会釈もなくツッコんでくる。時には頭を叩かれた。
僕、神様だよ?
こんなんでも、序列第三位の月神だよ?
僕に対等な口を利けるのは同じ神くらいなのに。
そして、神々はそれぞれに仕事があるから、なかなか直接話したりはしない。
だからかな。婚約者とはいえ、対等に話してくれる彼女に惹かれていったのは。
それに、話してるうちに僕の性格形成が、僕の責任じゃないって分かってくれたし。
一緒に怒ってもくれた。
決定的だったのは、彼女が僕の眷属たちと戯れているのを垣間見た時だ。
その時、彼女はそれは優しい目をして眷属たち、つまりは兎を膝にのせ、撫でていた。
眷属たちはうっとりと目を閉じている。
周りには順番待ちがぎっしり。
おいおい、僕が撫でてもそんな顔するかい?
と、若干の嫉妬心を感じていると、兎達に気づかれた。
そして、彼女にも。
パッとこっちを見た彼女の顔がみるみる赤く染まっていく。
逃げようにも膝の上に眷属がまだ乗っているから動けない。
僕が近づくと、しどもどと言い訳をしてくるんだ。
真っ赤な顔で。
その恥じらいの愛らしさに。
眷属たちを見つめる優しい瞳に。
僕は胸を撃ち抜かれてしまったのかもしれないね。
そして。
幾星霜を経て、ようやく見つけた彼女の魂を持つ者。
幾百、幾千と数多の転生を経ているのだから、もちろん僕のことなど覚えているはずもない。
それでも構わない。
君がそばにいてくれさえしたら。
この展開にするかはさんざん迷いましたが、月神がミラに援助する理由付けとして結局、採用しました。
先に言ってしまいますと、この先、ミラが過去の記憶を取り戻すことはありません。
ミラの前世は地球の人間ですが、それ以前に数百、数千回の転生をしているからです。
最初の生を受けた時の感情の残滓が、僅かに心の奥底を揺さぶった、それだけなのです。




