プロローグ
いつも、つたない作品をお読みくださいまして、ありがとうございます。
m(_ _)m
そして、初めて読まれる方は、数ある作品の中からお選びいただきまして、ありがとうございます。
担当様(素晴らしい響き!)とご相談の上、プロローグを追加することになりました。時系列的には、アルミラージその22のあたりでしょうか。
作品の中身をチラ見せ的な感じですね。
あまり自信はありませんが、これからこの作品を楽しんでいただける、期待してもらえるようなプロローグになっていれば嬉しいです。
広い草原を一匹のうさぎが、こちらに向かって走ってくるのです。
灰色のマダラ模様の小柄なうさぎの額には細長い角が生えているのですよ。
そしてその後ろから、グギャグギャと訳の分からないことを叫びながら、数匹のこれまた小柄な人型の生き物が追いかけていくのです。
んー。いわゆるひとつの、ゴブリンさんたちですね。
濃い緑色の肌は、薄汚れていて。
粗末な布や毛皮を腰に巻き、ボロボロのナイフや木の棒を振り回して、角の生えたうさぎを追いかけているゴブリンたち。
その顔は食欲と、弱いものを追い詰め、なぶり殺してやろうという醜い欲望で歪んでいるのですよ。
ぶっちゃけ、キモい!
嫌悪感が半端ないですね!
ライオンや虎なんかの野生の肉食獣ならば、生きるために狩る対象をなぶるなんてことしないと思うのです。さっさとトドメを刺さないと逃げられてしまうのですから。
あるいは、狩りの練習をさせるために、猫が弱らせた獲物を子猫に与える時だって、それは目的があってやることなのです。傷つけ弱らせることに喜びを感じている訳ではないはずなのです。たぶん。
それに対して、このキモいゴブリン小隊は弱者を虐め、いたぶることに、この上ない喜びを感じているのですよ。生まれついての弱い者虐めの小物、と言ったところですか。
そんな目の前の獲物に夢中なゴブリンには、その獲物がけっして追い付かれないように、けれどもあと少しで捕まえられそうなくらいの速度で手加減して走っているなんてことは想像もできないですよね?
ましてや、自分たちが死地に誘き寄せられているなんてことも……。
『おねいちゃん! ごぶりんをたくさんつれてきたのよ!』
小柄な角の生えたうさぎから、思念が飛んで来たのです。
わたしは思念を返して労うと、巣穴に隠れるように伝えるのですよ。ここからは、わたしの出番ですね。
地面に掘った巣穴に潜むわたしの目の前を、ゴブリンたちがドタドタと通り過ぎるのです。わたしは気配を消したまま素早く巣穴から出て、ゴブリンを追いかけるのですよ。
そうして、自慢の角で後ろから一匹ずつ首筋を切り裂き、心臓を貫き、足を斬って機動力を奪う。途中で気付かれたのですが、問答無用で斬り裂くのです!
悪・即・斬!
ヒャッハー! ゴブリンどもは皆殺しなのです!
うむうむ。今回も完璧な奇襲作戦ですね。
あっという間に、六匹のゴブリン小隊は全滅。
足を斬られ転がっているのが二匹いるのですが、これは妹分の獲物ですからね。わたしがトドメを刺す訳にはいかないのです。
『おねいちゃん、おわったの?』
はいはい。終わったのですよー。
ただし、お前が殺る分は取ってあるから、頑張るのですよ?
『うー……。こわいけれど、がんばるの……。』
細長い角を使ってゴブリンの目玉や首筋を突き刺してトドメを刺す、一匹の角うさぎ。
可愛いうさぎが、ゴブリンの首から飛び出す血しぶきを浴びる姿がシュールというか、なんともギャップがあって微妙ですね。
怯みながらもちゃんと息の根を止めた妹分を、わたしは労うのですよ。頑張った後にはご褒美が必要ですからね!
サリサリと顔にかかった血を拭って毛繕いをしてやると、気持ちよさそうに目を細めるのですよ。
べっ、別に可愛いとか思ってないのです!
あくまでも労働の対価として毛繕いしてやるだけなのですから!
『おねいちゃん、ありがとうなの!』
嬉しそうにすり寄ってくる妹分に、わたしはため息が出るのを止められないのです。
さっきの親猫と子猫のたとえじゃないですが、わざわざ弱らせて狩らせるとか、ホント面倒臭いのです。
……まったく、なんでこんなことになったんですかねぇ……。
わたしは遠い目をしながら、今日、これまで生きてきて、いつ、どこから間違えたのかを考え始めたのですが…………頭を振って、思考を止めたのです。
たとえ間違った選択をしていたとしても、今日まで生きてきたことに対して後悔なんて無いのですから。
そう。一匹の角うさぎとして生きてきたことに。