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75.二者択一

0話部分に、登場人物一覧をひっそりと足しております。

「二人とも、遅いよねぇ」


「……そうだな」


 ため息をつきながらこぼすと、男はうわの空な様子で返事をする。不審に思い、伏せていた顔を上げた。


「ディーン? どうしたの?」


 私の声など聞こえないかのように、男はじっと考え込んでいる。二人きりの部屋に、沈黙が満ちる。

 私もまた、もの思いに沈み込んだ。


 あれから。


 マイカちゃんとルークさんは、軍本部に行ったきり帰って来ない。私が稀人だと報告すると言っていたけれど、何か揉めているのだろうか。


 二人とも稀人の事を知らなかったらしく、半信半疑といった様子だった。


 当然だとは思う。

 いきなりこの世界の人間じゃない、なんて言ったところで、おかしいと思われるのが関の山だろう。


 でも……。


「マイカちゃんたちには……私の事、信じてほしいなぁ」


 信頼していて、大好きな二人だから。


 うつむく私の頭を、ディーンがぽんぽんと撫でてくれた。はっと顔を上げる。


「あいつらは立場上、無条件で受け入れるのに慣れていないだけだ。それでも、お前の事は信じてるさ。──大丈夫だ」


「そう、かな」


 そうだといいけれど。


 まだ不安が拭えない私に、男はぎこちなく微笑んだ。口を開きかけては黙り込み、ためらうように私を見る。


「ディーン?」


「……ユキ。二人で、王都から出ないか? マイカたちとは、また会う機会はいくらでもある。だから今は……」


 言いよどむ男に、ぱちくりと瞬きした。


(王都から、出る……)


 確かに、罪人じゃないのだから、どこにでも好きな所に行く権利はあるはずだ。

 私だって、好き好んで厄介事に関わりたいわけじゃない。


 けれど、私が王都から離れたら……。

 マイカちゃんとルークさんが、責められるのではないだろうか。


 私が悩んでいるのを察したのだろう、向かいのソファに座っていた男が、テーブルを回ってこちら側に移動してきた。静かに私の隣に腰掛ける。


「あいつらなら、きっとわかってくれる。……頼む、ユキ。自分の事を最優先に考えてくれ」


「……ディーン……」


 戸惑って、視線をさ迷わせた。

 すると、隣に座る男が力無く首を振る。がっくりとうなだれた。


「……違う、そうじゃない。俺が……嫌なんだ。もし、見た目が似てるだけじゃなく……()()に聖輝石と同じ力があるとしたら。そうしたら──」


 つぶくように言って、(くら)い瞳で床を睨みつける。

 そのこぶしは、固く握り締められていた。


「お前は……国にとって最重要の人間になるだろう。俺なんかに手の届く、存在じゃなくなる……」


「──そんなの!!」


 予想外の言葉に、驚愕して男を見つめた。はくはくと呼吸する。


(……嫌だ)


 重要人物として敬われたいわけじゃないし、そもそも目立ちたいわけでもない。


 最初は、ただ居場所が欲しかった。

 住む場所と仕事を手に入れて、平凡でも幸せに生きられればと思ったのだ。


 ──でも、今は。


「……私は、ディーンといたい。住む場所が無くたって、ディーンとずっと一緒にいられたら、それだけでいいの。離れ離れは、もうイヤだよ……」


 泣き出しそうになりながらも、必死に訴える。


 男は苦しそうに私を見つめると、勢いをつけて立ち上がった。私の腕を引き立たせると、きつく抱き締める。


「……俺もだ。だからユキ、今すぐここから──」


「それは駄目だ。軍人としても、一国民としても見逃せん」


 厳しい言葉と共に、音を立てて部屋の扉が開け放たれた。


 驚いてディーンから離れると、ギルバートさんと……後ろから顔を強ばらせたルークさんも入ってくる。


「少将……!」


 険しい顔をするディーンを横目に、ギルバートさんはどかりとソファに座り込む。私たちを見回した。


「叔父さんと呼べ。……お前たちも掛けなさい」


 ディーンは黙然と立ち尽くしていたが、私とルークさんは怖々と腰掛ける。そっとルークさんにささやきかけた。


「マイカちゃんは?」


「アイツは本部でガードナー長官と交渉中。金のロケットを渡した実績もあるし、多分通るとは思うんだけど……」


 言っている意味がわからず、首を傾げる。

 ギルバートさんが静かに私を見た。


「ユキコさん。今すぐここを引き払い、王城の客室に移って頂きます。軍警備部から腕利きの護衛もお付けしましょう」


「えっ……?」


「ディーン。お前は王城には入れん。王都を出るなり残るなり、お前の好きにするがいい」


 急展開する事態に、心臓が早鐘を打ち始める。

 固まったまま動けない私とは違い、ディーンの動きは素早かった。大股でギルバートさんに歩み寄る。


「ふざけるなよ……! 誰が渡すものか!!」


 その声は怒りに震えている。

 不穏な気配に、ルークさんが慌てて二人の間に割り込んだ。


「ディーン、落ち着けって! 白い種を調べる間だけの事だ。カラスの職分からは外れるけど、マイカとオレも護衛に加えるよう長官に頼んでるところなんだ。前例の無い事態だし、きっと認められると思う」


 ディーンはルークさんへと視線を移し、嘲るように笑う。


「……白い種を調べる間だけ? 黒花に効果があるか、実際に試すわけだろう。一体、どれだけの時間がかかると思ってるんだ」


「それは……!」


 言いかけて、ルークさんは言葉を失った。辛そうにディーンから顔を背ける。


 大きく深呼吸して、私も立ち上がった。

 ギルバートさんに近づき、彼をまっすぐに見つめる。


「ディーンが一緒じゃないなら、私はどこにも行きません。種にももう触らない。協力なんて、絶対しないんだから!」


「……ユキコさん。それは無理です。あなたが逃げたとしたら、誰が責任を問われると思います? この件に関わった軍部の人間……それから、わたしの兄もでしょうね。大切な友人やディーンの父親に、そんな事ができますか?」


「…………」


 返す言葉が見つからなかった。


 うなるような声が聞こえ、ディーンがルークさんを突き飛ばした。ギルバートさんをつかみ上げる。

 止めようとしたルークさんを、ギルバートさんは手を上げて制止した。


「ディーン、ユキコさんの安全は必ず保証しよう。……離れている間に、お前は黒花を狩ってくればいい。その方が借金完済に近づけるというものだ」


 殺気立った目で睨むディーンなど気にもかけず、抜け抜けと言い放つ。


「浮浪者のような生活をしていた罰が当たったな? 社会的身分の無い者など、誰が信用するものか」


「グレイ少将! あんまりです! ディーンは……っ!」


 気色ばんで詰め寄るルークさんに、うるさそうに手を振った。

 ギルバートさんは怒る私達を等分に眺めると、人の悪そうな顔でにやりと笑う。


「ユキコさんの側に居たいのならば、それなりの立場を手に入れる事だ。──例えば、軍人になるとかな?」


「……馬鹿な事を。俺はもう──」


 吐き捨てるように言うディーンを、ギルバートさんは面白そうに見やった。


「あの時の辞表は、わたしの一存で握り潰している。あくまで今のお前は休職中という扱いだ」


「……は?」


 ギルバートさんをつかんでいたディーンの手が、ゆっくりと落ちた。私とルークさんもあ然として動きを止める。

 ギルバートさんはソファに深々と座り直すと、呵々大笑した。


「可愛い甥っ子のため、職権乱用したわけだ。さあ、どうするディーン? ここでユキコさんと別れるか、軍に復帰するか。──道は、二つにひとつだけだ」

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