44.放心
昼過ぎに、ミズリの街に到着した。
「いよっし、まずは昼メシだな! お前ら、何が食いたい?」
さも当然のように誘ってくるローガンさんに、なんと言って断るべきか迷ってしまう。角が立たないようにさりげなく、かつ上手に別行動を取るためには……。
「いや、ここで別れよう。俺はユキと二人きりがいい。むしろ他の人間はいらない」
大真面目な顔で告げるディーンにずっこけた。
もう少しマシな言い訳はないものか!
そしてなんか照れちゃうだろ!
「へえぇ。お前ら、やっぱりそういう関係……」
ニヤつくローガンさんに、真っ赤になって否定した。
「違います! 私たちは別にっ」
「ならメシぐらい一緒に食っても構わないだろ。なあ、お坊っちゃん?」
ローガンさんの言葉に、セオさんも笑顔で大きく頷いた。
「そうですよ! 昨日の野宿では本当にお世話になりましたし、食事ぐらいご馳走させてください」
さあさあ!とセオさんに腕を引っ張られる。
しまった、断りそこねたー!
隣でディーンが眉根を寄せていた。ごめんてー。
「特に希望がないなら、オレのお勧めの店でいいな。よっしゃ、ついてこい!」
意気揚々と先導してくれるローガンさんの後に続き、昼を過ぎた時間でも混んでいる店に入った。
「何でも好きなものを注文してくださいね!」
セオさんの言葉に、一生懸命メニュー表を眺める。今こそ修行の成果を試す時……!
……うん、やっぱりよくわかんない。
例によってパスして、ディーンにお任せした。
しばらくして運ばれてきた料理に、全員無言になって食べる方に集中する。
温かい野菜スープがしみるー。お肉挟んだパンもおいしー。
くうぅ。ほくほくじゃがいもに、溶けたバターが合うわぁ!
文明のありがたさを感じながら、黙々と平らげる。
お腹がいっぱいになると、野宿の疲れも吹き飛んだ気がした。
「ごちそうさん。これからオレだけ別行動でも構わねぇか? 黒花の換金がたまっててよ、軍支部に行かねぇと」
お前らは図書館にでも行っててくれ、と言ってローガンさんは立ち上がる。
私たちの返事も待たずに、さっさと出て行ってしまった。
「……ね、黒花の換金って何?」
険しい顔をして見送るディーンをつつくと、こちらに視線を寄こした。
「黒花の核のようなもの……俺たちは『種』と呼んでいるがな。それを持って支部で報酬を受け取るんだ。種の数だけ、黒花を駆除したという証明になるからな」
……種?
私は目をぱちくりさせた。
「以前、俺が黒花を倒した時。花の部分と茎を両断すると、茶色く朽ち果てていただろう? 他の部分が朽ちても、種だけは真っ黒なままでそこに残っているんだ」
そういえば、黒花を倒した後でディーンは何やら調べているようだった。あれは種を回収していたのか。
しかし、気になるのは……。
「……種からまた黒花が生えてきたりしないの?」
怯えながら尋ねると、ディーンは笑ってかぶりを振った。
「それはない。便宜上『種』と呼ばれているだけだ」
なぁんだ、と安心する。
持ち運んでる最中に、にょきにょき黒花が生えてくる光景を想像してしまったのだ。そこではたと思い当たる。
もしかして駆除師が敬遠される理由って、種を持ち歩いているからだったりして……。
確かめたわけではないが、なんとなく納得してしまう。
「それじゃ、ボクらも行きましょうか~」
セオさんが立ち上がった。
お店を出てから、「ごちそうさまでした」とセオさんにお礼を言った。そしてそのままの勢いで別れることにする。
「──じゃっ、私とディーンはこの辺で!」
「ええっ!? 一緒に図書館に行きましょうよぅ! トキメキ体験を共有しましょうよぅ!!」
私の腕に抱きつき、引き止められた。
ディーンが無言でばりっと引き離す。すると、セオさんはディーンに矛先を変えた。
「一緒に行きましょうよ~! ひとりじゃ寂しいじゃないですかぁ!!」
言いながら、ディーンの腰にしがみつく。
ディーンもぎょっとして引き剥がそうとするが、セオさんは気合いと根性で離れなかった。
「離しませんよー! 一緒に行くって言ってくれるまで離しませんよー!」
その情熱は一体どこから来るんだ。
別にひとりで行けばいいじゃん……。
「──わかった! わかったから離してくれ!」
珍しくディーンが降参した。
やるな、セオさん。
◇
「ジャジャジーン! ここが、かの有名なミズリ図書館でーす!」
「図書館では静かに!!」
入った瞬間に施設の人から怒られた。
セオさんはしゅんとする。やっと静かになってくれたか……。
図書館内は、静謐な空気で満たされていた。
きょろきょろと見回すと、背の高い本棚がぎっしりと並べられている。その量に圧倒された。
「……お二人は、何か読みたい本はありますか?」
反省したのか小声で問いかけてくれるセオさんに、私も小さな声でささやき返す。
「私は絵本が読みたいので。ディーンと行くから、セオさんは専門書を読んでていいですよ?」
「いえいえ、ボクも付き合いますとも。最低一週間は滞在するつもりですから、遠慮しないでください」
いや、別に遠慮しているわけでは。
セオさんは案内板を確認すると、嬉しげに私たちを絵本コーナーに連れて行ってくれた。ディーンは完全にあきらめた表情をしている。
セオさんみたいな人、苦手なんだね?
「さあ、ユキコさん! 好きな本を選んでくださいね」
満面の笑みを浮かべる。
絵本コーナーにはたくさんの子どもがいるので、大人の私が交じるのはちょっとだけ恥ずかしい。
とか思っていると、慌てた様子でお母さんらしき人々が寄ってきて、自分の子どもの手を引っつかんで連れて行ってしまった。セオさんをギロリと睨むおまけ付きで。
「……なんか、警戒されてません?」
「ええ、まあ。お年頃ですしね~」
さして気にした風もなく答える。
お年頃っていうか、セオさんの風体が怪しいからだと思いますよ……。
言えない言葉を飲み込むと、気を取り直して本棚を物色した。
パステルカラーの可愛らしい絵柄に惹かれ、一冊手に取ってパラパラめくってみる。クマの親子が虹色の湖を探しに行くという、ほのぼのした内容の絵本だった。
読める、読めるぞ……!
会心の笑みを浮かべる。
勉強の成果を自慢しようと、得意気にディーンを振り返ろうとしてはっとした。
ディーンが放心したように、子どもたちの姿を目で追っていたから。その表情は、どこか寂しげで──
「……ディーン?」
腕をそっとつかんで見上げると、ディーンは驚いたように私を見た。すぐに取り繕ったように笑顔になる。
「良い本があったか? 窓際の席で座って読めるみたいだぞ」
「うん……」
まだ本を物色しているセオさんは置いて、二人で閲覧席まで移動する。絵本を読みながらちらちらとディーンを見るが、ディーンはぼんやりと窓の外を眺めているだけだった。
なんだか、胸の中がもやもやする。
ディーンは……何を考えているんだろう……?




