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13.旅は道連れ?

 宿屋に戻ると交代で沐浴を済ませ、あとは休むばかりとなった。


 あれから怒れるセレナに謝り倒し、なんとか機嫌を直してもらった。だが、家に戻るようにという説得は徒労に終わった。


「セレナさん、このまま放っておいて大丈夫なのかなぁ」


 剣の手入れをしている最中のディーンに尋ねると、手を止めてこちらを見る。気付かなかったが、彼は外套の下に剣を()いていたらしい。物珍しくて鞘ごと持たせてもらったら、なかなかの重量だった。


「どうせ明日俺たちはラザロの街に向かうんだ。そのペールマン商会とやらに、お嬢様を迎えに行くよう伝えればいい。この街から絶対に動くなと、念押ししてから出発した方がいいかもしれんな」


 なるほど、ここから南西の港町というのがラザロだったのか。

 それでやっと安心した。私たちは明日の朝早くにここを発つので、出発前にセレナの部屋に寄らなければ。


「……さて。それじゃあそろそろ寝るか」


 あくびをしながら立ち上がる男にどきんとする。

 やっぱり一緒の部屋で眠るのは緊張するかも……!と思っていると、ディーンはさっさと自分の寝台に潜り込んだ。


 ぐー。


 ……寝付くの早っ!?


 意識してるの私だけかい。

 アホらしくなり、灯りを消すと私も自分の寝台に横になった……と思ったら、あっという間に寝てしまったらしい。

 ディーンに起こされ、はっと目覚めるともう朝だった。うーん、やっぱり一日歩いて疲れてたんだな。


「おはよう。ぐーぐー寝てたぞ」


 すでに身支度を整えたディーンに言われ、思わず全力で枕を投げつけた。

 朝から余計なこと言うじゃん?



 ◇



「……おはよう」


 一階の食堂に降りていくと、テーブルに座っていたセレナがこちらを見る。


 ずいぶん早起きだなと驚いたが、部屋に寄って起こす手間が省けてよかった。挨拶を返して同じテーブルにつかせてもらう。

 セレナの顔色は冴えず、昨日のような威勢の良さはなかった。家出から一夜明けて、多少は冷静さを取り戻したのだろうか。


 パンとスープとサラダという簡単な朝食をささっと食べ終えると、食後のお茶を飲みつつ上目遣いにセレナを窺う。


「……あのね? 私たちはこれからこの街を発つんだけど、あなたは」


「──お嬢様っ!!」


 突然、私の言葉がさえぎられた。

 驚いて振り返ると、栗色のくせ毛に目がくりくりとした小柄な青年が、息を切らせてこちらに駆け寄ってくる。


「ちょっなんでっ……」


 慌てて立ち上がるセレナ。

 どうやら頼むまでもなくお迎えが来てくれたらしい。ディーンも席を立ち、私の肩を叩いて小声で言う。


「解決してよかったな。荷物を取って部屋を引き払ってくるから、俺たちもすぐ出発しよう。ここで待っていてくれ」


 了解して、少し冷めたお茶を一気に飲み干した。


「イヤよ。私は帰らないわ」


 おっと。揉めていらっしゃる……?

 怒りで震えているセレナの側にそっと近付き、説得を試みる。


「ね、もう帰った方がいいよ。ご両親もきっと心配して……」


 言葉の途中で、がばっとセレナに抱き締められた。

 これって別れの抱擁ってやつ?ときょとんとしていると、そのままグググッと力を込められる。


(痛たたたたた!?)


 意外と力が強いな!?と混乱していると、セレナが爆弾発言をかました。


「どうしても連れて帰るって言うなら、ユキコも一緒よ。ユキコが一緒じゃないなら、私は絶対に帰らないんだからっ!」


 ええええーーーっ!?


「落ち着いてください、馬鹿力のお嬢様! そんな華奢な少女を締めたら死んでしまいますよ怪力のお嬢様!?」


 いや、さすがにそんな簡単に死なんけど。

 てか「馬鹿力のお嬢様」ってすごい言い草だな。


「ユキコ。ラザロの街は賑やかだし、珍しいものもたくさん売ってるわ。ウチに泊まれば宿泊費はタダだし、もちろん来てくれるわよね?」


 栗色の彼の暴言は無視して、必死に私に言い募る。

 どちらにせよラザロには行くつもりだったのだし、同行しても特に問題はない……かな?

 宿泊費タダも魅力的だが、何より必死なセレナが可哀想になってきた。


「それ、じゃあ……お言葉に、甘えて……」


 息も絶え絶えになりながら答えると、馬鹿力のお嬢様は喜び勇んでさらにぎゅうぎゅう抱きついてきた。やばい……死……


「……何の騒ぎだ」


 あきれたように言いながら近付いてきたディーンが、ひょいひょいっとセレナの腕を私から外してくれた。た、助かった……。酸素おいしい。


「ユキコは私と一緒にラザロに行くことになったの。あなたは来ても来なくてもどっちでも構わないけど」


 ふんぞり返って宣言する彼女に「いやいやディーンも一緒だよ!?」と慌てて言う。


「一緒に……? 馬車でか?」


 なぜかディーンが眉をひそめた。

 そうです、と栗色青年が答える。


「お嬢様のお迎えですからね、馬車を御して来ました。わたしは昨夜この街に着いて、別の宿に泊まったんです」


 それを聞いて驚く。セレナは昨日の段階でもう追いつかれていたわけだ。


「昨日お嬢様の家出が発覚して、すぐにこのナルカの街に向かったんです。短絡思考のお嬢様の考えることなど、手に取るようにわかりますからね」


 目的地が大当たりでよかったです、と彼は得意気に言った。

 あ、セレナが怒りでふるふるしてる。こんだけ暴言吐かれたら無理もないだろうけど。


「アンタは使用人の分際でー!」「馬鹿力なのも短絡思考なのも全部本当でしょうが!」などと口論を始めるふたりを横目に、くいくいとディーンの袖を引く。


「ごめん、もしかして同行するの駄目だった?」


「……いや。馬車に乗ると、揺れと音のせいで黒花が出現する前兆を感じにくいんだ。俺は御者台に一緒に座らせてもらって注意しておく」


 そうだったのか……。

 勝手に誘いを受けてしまって悪かったな、とシュンとする。

 そんな私に軽く笑って、ディーンはぽんと私の頭を叩いた。


「馬車に乗るのは初めてだろう? かなり揺れて尻が痛くなるから頑張れよ」


 マジで!?

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