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12.彼女の事情

 金髪美人さんは目を見開いて私を見ている。


 やばいやばい……どうすれば……!?


 混乱していると、ぐいっと手を引かれてディーンに抱き寄せられた。そのまま流れるようにフードを被せられる。


「さて。そろそろ夕食に行こうか、ユキ」


 お前誰だよ、と突っ込みたくなるほどの笑顔全開のキラキラモードで肩を抱かれ、階段へエスコートされる。くっ……忘れてたけど、そういえばこいつイケメンだった……!


 いやいや、そんなんじゃ誤魔化せないでしょ!?


 案の定、はっと我に返ったらしい美人さんが「待ちなさいよ!」と声を荒げた。

 ディーンは私の肩を抱いたまま、チラリと振り返って冷たく告げる。


「騒ぐのはよした方がいい。下手に目立って、追手に見つかると困るのはあんたの方だろう?」


 ……追手?


「なっ……! どうして……!?」


 驚愕の声を上げて立ち尽くす彼女を、ディーンはもう振り返らなかった。そのまま無視して歩き出し、宿屋を出る。


「だっかっらっ、待ちなさいよぉーー!」


 うわ、追いかけて来た!


 ものすごい形相で走ってくる彼女におののく。

 美人が怒ると怖いなぁ……。


「どうして、追手が来るとわかったの!?」


 私たちに追いついて睨みつける彼女に、ディーンは面倒臭そうに答える。


「別に、単なる当てずっぽうだ。ドレスもカバンも高価な若い女が、供も連れずにひとりで宿に泊まるなどおかしいだろう。大方、金持ちのお嬢様が家出でもしているのかと思ってな」


 えっ、その地味なドレスは高価なの!?


 家出よりもそちらに驚く。

 同じ女なのにまったくわからなかった自分と、やすやすと見抜いたディーン。もしや、私ってば女子力で負けてないか……?


 図星だったのだろう、彼女はくっとうつむいた。


「……ばれたなら仕方ないわね。事情を話してあげるわ」


「いや、それはいい」

「結構です、興味ないから」


 ディーンと私の返事がかぶった。

 みるみるうちに彼女の綺麗な眉が吊り上がる。


「いいから聞きなさいよ! じゃなきゃ、その子の髪のこと、この場で力いっぱい叫ぶわよ!!」


 どうやら、厄介な相手に知られてしまったらしい……。



 ◇



「──それで、何があったかというと……」


「ユキ。何が食べたい?」


「うーん。私はよくわかんないから、ディーンが好きなのを注文していいよ」


「アンタたち、人の話を聞きなさいよっ!」


 ものすごく怒られた。


 宿からさほど離れていない『肉と酒亭』という簡潔な名の居酒屋である。

 ちょうど食事時なため満席に近く、周囲の人々もかなり盛り上がっている。これなら盗み聞きされる心配はなさそうだ。


 四人掛けのテーブルで、ディーンと私が隣に、彼女が向かいに座っている。


「改めて。セレナ・ペールマン、十七歳よ」


 注文を済ませ、落ち着いてから彼女が名乗った。

 十七歳かぁ、私よりも年下なのに大人っぽいなぁ。


「私はユキコ、ニ十歳。こっちはディーンで……ええと」


「ニ十七だ」


 ニ十七!? 三十ちょっとかと思っていた。こちらの世界の人々は西洋人風な顔立ちなので、年齢を予測するのが難しい。セレナの年齢も見誤っていたし。


「ニ十!? あなた私より年上なの!?」


 セレナが信じられないように私を見た。

 そんな驚かんでも。逆に言えば、あなたたちの方が老けてるんだからね?


「……まあいいわ。話を戻すけど」


 居住まいを正して彼女が話し出そうとしたところで、注文していた料理が続々と運ばれる。せっかく出来立てで温かいし、かなり空腹なので、食べながら話を聞くことにした。


「ペールマン商会って知っているかしら? ラザロの街を拠点にする、わりと名の知られた商会なんだけど。私はそこの一人娘で」


 根菜と牛肉の煮込みが柔らかくて美味しい!

 スープにパンをひたして食べるのもまた良し!


「真面目に聞きなさいよ!!」


 目の前の料理に集中しすぎていたようで、またも怒られてしまった。慌てて弁解する。


「ふぉふぇん、ふぉなふぁふぁへっへへ」


「なんて!?」


 ごめん、お腹が減ってて。と言いました。

 もぐもぐごっくんと飲み下し、「それで?」と続きをうながす。


「だからっ! 私は裕福な商家のお嬢様なんだけど、父から理不尽な結婚を命じられて、頭にきたから家出してやったのっ! 以上! わかった!?」


 思いっきりかいつまんで説明された。

 つまりは政略結婚ってやつ? しかし自分で裕福なお嬢様って言うかね。


「──それで、わざわざ街道を越えたわけか? たかが家出のために無茶をする」


 骨付き肉にかぶりつきながら、ディーンがあきれたように言う。

 怒りのためかセレナがカッと頬を赤くした。


「街道が危険なことぐらい知ってるわ。荷馬車の御者にお金を払って、こっそり同乗させてもらってこの街に来たの。歩いたわけじゃないんだから!」


「馬車に乗ったからといって、黒花の危険がなくなるわけじゃない。あんたは親へ当てつけるためだけに、自分の命を危険にさらしたわけだ」


 淡々と言うディーンに、セレナはますます顔を赤くする。バチバチと音が聞こえそうなほど睨み合うふたり。


(なんか、このふたり相性悪くない……?)


 美形同士がいがみ合うと、なかなか迫力がある。


 セレナは怒っているけれど、ディーンの言うことももっともだ。

 今日一日街道を歩く中で、人々がどれだけ黒花を警戒しているのか痛感した。何事もなかったから良かったようなものの、セレナのしたことは軽率だったと私も思う。


 しかし私までそんなことを言ったって、火に油を注ぐだけだろう。怒れるお嬢様をフォローすべき言葉が見つからず、仕方なく食べる方に集中する。

 ディーンの食べていたお肉がおいしそうだったので、彼の皿からこっそりくすねた。こんがり焼かれたスパイスの効いた骨つき肉。美味でございますー。


「あっ、こら! 最後のひとつだぞ!」


 チッ、気付かれたか。取り返そうとするディーン、そのまま食べ尽くそうとする私。

 軽い攻防戦を繰り広げていると、セレナから特大の雷が落ちた。


「アンタたちーーっ! 本当にいい加減にしなさいよーーっ!!」


 ……ますます怒らせてしまった。なぜに。

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