「第一話」
私は、たびたび「以前お会いしたことがありますよね?」と尋ねられることが良くあった。」
当時は、余り気にする事は無かったが最近は、そんなことがあったことすら忘れていた。
訳あって今は、東北の港町で働き、月に一度、東京に出張という日々を送っている。
一見、平穏な日常を送っているようにも思えるが、気持は毎日毎日同じことの繰り返し、変化の無い日々、殆ど会話も無くただ過ぎてゆく、そんな日常から抜け出したい。
もっと密度の濃い人生を送りたい。
そういう私にとって月に一度の出張は、単なる出張では無く、ある種のリハビリでこのおかげやっと一ヶ月間の精神の平衡感覚を保っている。
そんな出張の或る日、JR上野駅のアメ横側から高架下沿いに御徒町方面へ歩いていると。
私は、特に目的も無くここを歩くのが好き。
人気の無い地方都市にいると人混みや雑踏が恋しくなる。
ちょうど吉池の前当たりで突然、声をかけられた。
「あぁー」と手をあげて、こちらを見ている初老の男。
私は、周りや後ろを見渡してからどうやら私らしいと思った。
「久しぶり、お元気ですか?」と。
「どちら様でしたっけ?」
「ほら、もう随分昔になりましたがよくナベさんらと麻雀をやったじゃないですか」
確かに私は、学生時代麻雀が好きで授業も殆ど出ず雀荘に入り浸りだった。