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3話 自分だけの力

 ああ、空が綺麗だ。

 雲がゆっくり流れていく様を眺めながら、呑気に現実逃避をする。

 俺は組手で女の子に負け続けの現実から目を背けていた。


 屋敷の仕事が終わった後の自由時間に、俺は退魔の修行を受けていた。

 昨日、詩音には絶対に退魔の仕事に関わらないようにと念を押されたが、俺はかおりんにしつこく頼み続けた結果、「攻撃のかわし方と受け身の基本くらいなら・・・」と渋々了承してくれたのだ。

 しかしこのメイドさん、稽古に全然乗り気じゃなかったくせにいざ始めると容赦がない。

 昨日まで武術経験がほぼゼロだった素人に、遠慮なく技をかけてくる。

 受け身の説明も、実際に体感した方が早いとか言って、いきなり俺の体に叩きこんできた。

 そのため、体力は同年代男子の並くらいはあるつもりだったがスパーリングを始めて一時間もしないうちに底を尽きた。


「どうします? もう終わりますか?」


 優しい声ではないが、俺を馬鹿にするわけでもない真剣な声のトーンでかおりんが俺に問う。

 まだまだ大丈夫、とせめて虚勢を張りたいが、それすらできないほど疲れ果てている。

 俺が返事をする前にかおりんに「今日はこのくらいにしておきましょう」と言われ、情けなくその言葉に甘えるのだった。




 数分した後、ようやく息の調子が整う。


「ふう、自分から頼んでおいてギブアップとは情けないよな」


 自虐気味に言うと、かおりんは俺の言葉を否定するでもなく


「そうですね。ですが、私は成長の見込みがない人に何かを教えることはありませんよ」


 と笑顔で俺を励ました。

 不意打ちなその笑顔が可愛くて、とても癒される。

 俺がかおりんにしばらく見とれていると、彼女はいきなり「そうです」と何かを思いついたかのようにこっちを見た。


「ただ受け身の練習ばっかりというのもつまらないですから、ちょっと遊んでみましょうか」


 そういっておもむろに彼女が懐から取り出したのは一本のナイフ。

 どこから出したんだよ、とツッコミを入れる隙もなく続いて林檎も出てきた。

 ・・・かおりんは四次元ポケットでもついているのだろうか。

 そんな疑問を抱いていると少し離れた場所に林檎が設置される。


「ナイフを投擲してあの林檎に当てる。まあ、一種の的当てですね。休憩がてら挑戦してみませんか?」


 天使のような無邪気な笑顔でそう提案してくる。

 普段冷静にメイドをやっている彼女のそんなお茶目な一面を知れて、俺は思わず顔をほころばせる。

 もちろん断る理由は無い。


「楽しそうだな」

「やってみると意外と難しいんですよ。まずは私がお手本をやってみせますね」


 そう言うと、かおりんはナイフをダーツ投げに似たフォームで投げ、見事林檎に命中させた。

 衝突の衝撃で少し飛んでいった林檎を拾ってみるとナイフが綺麗な形で突き刺さっている。


「おお、ナイスショット!」

「さあ、次は修哉君の番ですよ。ここら辺から投げてください」


 かおりんは得意げな様子で俺にナイフを渡し二つ目の林檎を設置し始めた。

 誰かに特技を見せられたのがよっぽど嬉しかったのか、彼女はいつになく上機嫌だ。

 そして次は俺の番。

 ビギナーズラックでも良いからここはかおりんに良いところを見せたい。さっきの組手ではかなり不甲斐ない結果を見せてしまったので、ここで名誉挽回を狙いたい。

 俺から林檎までの距離は2、3メートルくらい。かおりんがさっきやってみせた半分くらいの距離だ。これなら俺でも出来そうに思える。


「いけっ!」


 かおりんのフォームを真似て投げてみる。

 しかしナイフは俺の思ったような軌道を描かず、グルグル回転しながら飛んでいった。

 なんとか林檎にぶつかりはしたものの、刃の部分が上手く当たらずに林檎にナイフが刺さることはなかった。

 背後でくすっ、と笑う声が聞こえる。ちょっと恥ずかしい。


「いいですか修哉君、まず持ち方にコツがあるんです」


 そう言って、かおりんは俺の手を掴んでナイフを乗せ、優しく俺の指を動かす。

 いやでも伝わってくるかおりんの体温にドキドキがとまらない。


「握り方は、こうです」

「な、なるほど」

「あと、フォームも私のと似ているようで微妙に違っています。少し後ろから失礼しますね」


 すると、かおりんは俺の背後に立ち、抱きつくように俺の腕に手を回した。

 その際にむぎゅう、とかおりんの豊かな胸が俺の背中に押し付けられる。

 何やらかおりんがナイフ投げの説明を続けているようだが、背中の感触が心地よすぎて全く耳に入ってこない。


「・・・と、このように投擲します。理解できましたか?」

「え? あ、ああ。わかった」

「そうですか、ならもう一回投げてみましょう」


 本当は何一つ頭に入っていないのだが、今更聞き直すなんてことはできない。

 こうなったら適当にやるしかない。

 ええいままよ、と聞いたような、聞いてないようなやり方でナイフを投げてみる。

 すると、ナイフはさっきより少ない回転数で林檎に当たり、今度は完璧に刺さった。


 え? 刺さったの?


 林檎を手にとって見てみると、今度は正確に刺さっていた。

 かおりんが、感嘆の声を上げる。

 はっきり言って成功の喜びよりも背中の感触の名残惜しさが大きいとは、口が裂けても言えない。


「まさかいきなり成功させるとは思っていませんでした。私の教えが良かったからでしょうね」

「そうだな。ありがとう」

「す、素直に肯定されるとは思っていませんでした。とにかく今の感覚を忘れない事です。それじゃあ、これを片付けましょうか」


 その後、俺はかおりんが剥いてくれた、的にした林檎を美味しく食べてから別れた。






 その後、夕食までまだ時間が余ったのでちょっと屋敷内を探検してみることにした。

 豪華な照明で彩られた客間や、個人の家としては現実離れした長さの廊下を見ているとお金持ちなんだなあと思い知らされる。

 2つ目、3つ目と知らない部屋に入っては出てを繰り返していると、明かりのついている部屋を見つける。

 電気の消し忘れだろうか、と部屋の中に入ってみると、人の気配があった。

 そこにはこの屋敷の主人である詩音が俺に背を向けて座っていた。

 先ほどから俺の方を一瞥もしないというのは気づいていないからなのか、はたまた無視されているからなのか。


 まあ、どちらでもいいか。

 嫌われているなら嫌われているで、これから仲良くなれば良いだけの話だし。

 そのためには相手の趣味や考えていることを知らなければ。

 俺は詩音の手元に目をやった。


 手に持っているのは本だ。

 見た感じは雑誌?

 見出しに書かれているのは『モテモテコーデ特集』

 お嬢様だからもっと世俗離れした本を読んでいると思っていたが、意外と普通の女の子なんだな。

 なるほど。と勝手に感心していると、詩音がこっちを向いて石化していた。

 口を開けて金魚のようにパクパクさせている。


「どうした? どこか体が悪いのか?」


 詩音の明らかに挙動がおかしいので心配になって声を掛ける。

 何かを伝えようとしているようだが、喉が詰まって声が出ないという感じだ。

 まさか、呼吸ができないとか?

 そうなってくるといよいよ一大事だ。とりあえず救急車を呼べばいいのだろうか。

 俺が対応に困ってオロオロしていると、いきなり詩音にビンタされる。

 普通に痛い。

 身に覚えのない暴力に首を傾げていると、詩音の顔がみるみるうちに真っ赤になる。


「あ、あなた、何でいきなり他人の部屋に入って来てるのよ! ノックくらいしなさい、このバカ!」


 ああ、俺が突然入ってきてびっくりしていたのか。

 確かに女の子のプライベート部屋に勝手に他人の男が入るのはおかしいかもしれない。

 人の気配がした時点でノックくらいはするべきだ。もし詩音が着替え中だったら本当の犯罪だし、就職して二日目に変態行為でクビとか恥ずかしすぎる。

 配慮が足りなかった。俺の落ち度だな、これは。


「悪かった。許してくれ」


 素直に頭を下げると、詩音はもう怒っていないのか「まあいいわ」と軽く俺を許した。


「それで、何か用かしら?」


 凛とした様子で、お嬢様が執事にするような態度で話しかけられる。

 ・・・確かにこれが本来のあるべき形なのかもしれないが、仲良くなりたい俺としては寂しい。


「いや、別に用ってほどのことでもないんだけど、何を読んでいるのかが気になって」

「何よ。私にお洒落な服が似合わないって言いたいの?」


 何やら自嘲気味に詩音が笑う。


「いや、似合うに決まってるだろ。お前みたいな美少女に似合わなかったら誰に似合うんだよ」


 隠すようなことでもないので、思ったことを口に出す。

 まあ、口説いているように見えなくもないけど褒められて気を悪くすることもないだろう。

 そして、それが正解だったのか、詩音は顔を再び赤らめて小さな声で「ありがとう・・・」と言った。

 何この小動物みたいな生き物。可愛い。

 昨日の怒られたことで、どこか気難しい女の子ってイメージが俺の中に出来ていたのだが、それは間違いだったようだ。

 きっと俺のことを本気で心配してくれているからこそのお説教だったのだろう。


 なら、強くなって見せれば今度は手伝いを許してくれるかもしれない。

 退魔師のプロが邪魔と言うなら、それが事実なのだろう。

 悔しいが、俺の実力不足は明白だ。

 俺には詩音みたいに炎の日本刀は無いし、かおりんみたいにナイフ投げのような特技を持っているわけでも無い。

 なら、俺だけの何かをこの屋敷で見つけようと思う。

 幸いかおりんは俺に基礎体力の修行をつけるのには積極的だし、退魔師の教科書的な本もきっとこの屋敷のどこかに眠っているだろう。

 俺に才能がなくたって、霊の弱点や特徴を勉強すればできることは必ずあるはずだ。

 しばらく詩音と取り留めのない話をした後、かおりんが「夕食の支度ができました」と呼びにきたので、3人で一緒に食べた。






 そして、夜。俺の部屋。

 俺は元物置だった自分の部屋を掃除して、ある本を見つけていた。


 『召喚魔術の初歩』?


 何やら怪しい本が出てきた。

 いや。退魔師が存在するなら魔術も存在する、のか?

 そう思い、好奇心に負けてページをめくってみる。

 すると、1ページまた1ページと進めていくうちに本自体が光を発し始めた。

 めくればめくるほど強くなる光に、本の内容よりも最終ページに到達したらどうなるのかが気になってくる。

 というか、内容は専門用語ばかりでよくわからない。

 眩い光で目の前が真っ白になる。

 ・・・ようやく止まったか?

 そう思って恐る恐る目を開くとそこには、


「我を呼んだのはお前か?」


 現れたのは金髪の・・・幼女だった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

登場人物の強さ


長瀬 芳<能力:???>


攻撃力 3

耐久力 4

持久力 3

瞬発力 4

射程  4

成長性 3

(5段階評価)





アニメ面白い。YouTube面白い。ゲーム面白い。

幸せですね。

投稿頻度は下がるけど・・・

次回は近所の桜が咲く前に作りたいです。よろしくお願いします

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