2話 退魔師のおしごと
評価ありがとうございます。
上を目指して頑張ります!
車を走らせること15分。
かおりんが、「着きました」とそれだけ言って車を駐めた。
しかし駐めたのは駐車場というより、路上だった。
てっきり豪華で大きな屋敷の敷地内のガレージに車を入れるのだと思い込んでいたが、到着したのは野山の山道。
目の前にあるのは、大きいには大きいのだが随分年季の入った建物が一つあるだけ。
まさか就職先がこんな場所では無いと思うが、車を駐めたと言う事はここから歩くということなのだろうか。
「おいおい、お屋敷というのはこんな山の中にあるのか? でも、それにしては手入れが行き届いていないような」
手入れが行き届いていないというか、人が住んでいるのかも怪しい廃墟のような見た目の建物だ。
だが、俺の発言が詩音お嬢様のプライドに傷をつけてしまったようで。
キッ、と俺を睨みつけ、
「私を馬鹿にしてるの? そんなわけ無いでしょこのバカ!」
怒られた。
出会った瞬間からこのお嬢様には怒られてばかり・・・というか怒られてしかいないな。
だが、それに加えてどこかピリピリしているようにも見える。
出会ったばかりの俺が言うのも変な話だが、普段よりも緊張している、ような?
すると、かおりんが状況を飲み込めていない俺に説明をしてくれる。
「すみません修哉君。お嬢様が怒りっぽいのも今は仕方が無いのです。
今日は修哉君が入って1日目ですから、私たちの仕事について知って頂きたいと思いましていきなり現場に連れて来させていただきました。
道中で何も説明しなかったのは、仕事の特殊さ故に口で説明するより見せた方が早いからです。
ただ、慣れている私たちはともかく一般人である修哉君には命の危険があるので、安全にいつもの倍は気を使っているのです。
まあ、強めに言いましたが私たちが居る限り修哉君が危ない事になる可能性はほとんどないので、安心してください」
そう言うかおりんも冗談を言っている顔ではなく、俺を捕まえた時に見せた真剣な表情である。
まるで、周囲から何かに襲われないように警戒しているような。
こんな場所でする仕事? それに命の危険?
聞けば聞くほど怪しい。
危ないクスリの取引でも始まるのだろうか。
いや待て、まだ彼女たちを悪者扱いするのは気が早い。この世には、疑わしきは罰せずという言葉もあるのだ。
そんな見当違いな考えでいたからこそ、現れたそいつをすぐに受け入れられたのかもしれない。
心の準備などする暇もなく、そいつは現れた。
「奴隷! 下がりなさい!」
「修哉君。私たちの後ろにいてください」
二人は冷静に、かつそいつから目を離さずに言った。
俺もそいつから目を離さない。否、目を離せないでいた。
「ば、化け物!?」
そう、そいつはまさしく化け物。
白色の布を真ん中で摘んでフワリと持ち上げたような形をしている。
有り体に言えば幽霊。
普段なら幻覚だと一笑にふす存在であるそいつも、今日という日の非現実性が俺に紛れもない現実だと告げた。
コイツはドッキリとか、そういうチンケなものじゃ断じてない。
憎悪の塊。見ているだけで吐き気をもよおすような、生理的に受け入れがたいモノ。
だが、彼女たちは全くひるんだ様子を見せない。
もう言われなくてもわかった。これが彼女たちにとっての日常なのだ。
見せたい仕事というのは、これの事。幽霊退治なのだ。
正解という答えの代わりに詩音が取り出したのは、先ほど見せた日本刀。
幽霊に刀が効くのかだなんて、今更マヌケな疑問を持ったりはしない。
効くから、ここに来たのだ。
その証拠に幽霊はその刀を嫌がっているように見える。
幽霊が今にも襲いかかってきそうな雰囲気なのに、ある距離から近づいて来ないのはそのためだろう。
対して、詩音は刀を握りしめ前進する。
「根源の炎を司る精霊よ。来なさい、ヒノカグツチ!」
そういうと、詩音の持った刀がたちまち炎を纏い始める。
綺麗だと。
そう思った。
彼女がやっているのは戦い。
それに対してこんな感想を持つのはおかしいかもしれない。
しかし彼女はそれほどまでも美しかった。
「ヴオオオオオ!」
俺が見惚れていると、幽霊はついに襲いかかってきた。
速度は野生肉食獣のそれに近い。
不覚にも一番弱いと判断されたのか最初の標的は俺だった。
「あんたの敵は私よ!」
しかし、詩音が俺を庇うような位置に割り込んできて、刀で斬りつける。
その剣先の速度は、肉眼では捕らえられない。
幽霊とすれ違う間に見えただけでも三回は斬りつけていた。
彼女の動きはまるで流麗なダンスだ。
動作の一つ一つが洗練されていて無駄がない。
詩音の攻撃を喰らった幽霊は、余程のダメージを受けたのか形を保つので精一杯という様子だ。徐々に隅のほから崩壊が始まっている。あと数秒で消え去りそうだ。
「成仏しなさい」
詩音は感情を込めず短く言った。
「イヤダアアアア! キエタクナイ! キエタクナアアアア・・・」
幽霊は断末魔の叫びをあげると、塵一つ残さず消えていった。
夕焼けを背に受け、詩音は刀を鞘に収める。
俺はその姿を見て、確かに彼女に憧れを抱いたのだった。
帰りの車の中でも、俺の興奮は冷めなかった。
「なるほど、お前らの仕事がどんなものかはよく理解したよ。それで俺も戦闘に参加すれば良いんだな。だけど、詩音の刀見たいな武器は支給されるのか? 相場とかよく知らないけど日本刀を自腹は流石にキツそうだな」
連れられてきた時とは打って変わってノリノリである。
そりゃそうだ、あんなカッコイイ出来事が現代にまだ残っていることを知って男として黙っていられるわけがない。
しかし俺の読みは丸外れだったらしい。
「はあ? アンタやっぱり馬鹿?」
「えっと、修哉君の気持ちは大変嬉しいのですが・・・」
詩音は顔をしかめ、かおりんは困り顔をして言葉を詰まらせる。
「芳。いいわ、この馬鹿には私からハッキリ言ってやるから」
詩音はグイッ、と俺との距離を詰めてきて、俺の胸に人差し指を突き立てる。
俺はその動作にドキッとするが、詩音の口調は荒い。
「今回連れてきた理由は、アンタが間違っても現場にノコノコ現れることがないようにするためよ!
戦場には人払いの結界を張るから一般人が侵入する可能性はゼロに近いけど、人払いの結界が完成する前に侵入されるとどうしようもないの。アンタみたいな素人に場をかき乱されるとコッチも迷惑なのよ!」
「な、なんでだよ。そりゃあ最初は無理かもしれないけど、誰だって最初からできたわけではないんだろ? 練習すればいつか・・・」
俺が反論しても、詩音は首を横に振る。
「いいえ、アンタは何もわかっていない。
今回は私の圧勝だったけど、いつも上手くいくとは限らない。むしろ、いつ死んでもおかしくない危険な仕事なのよ!」
「なら、仲間はたくさんいた方が良いんじゃ・・・」
「しつこい! 邪魔だって言ってるのよ。なんでわからないの!」
詩音はついに激怒した。
何が何でも俺に戦わせたくないらしい。
しかし俺も素直に食い下がれない。自分と同じ年くらいの女の子たちが危険な仕事をやっていると聞かされて、危ないから関わらないようにするだなんてそれこそ男が廃る。
結局、俺たちの対立が解消されることはなく、険悪なムードのまま詩音の屋敷に到着したのだった。
それ以降、詩音と言葉を交わすことは無く、かおりんに屋敷の案内と執事業務の説明を軽く受けて1日が終わった。
本当に長い一日だった。
俺は屋敷の中の、俺にあてがわれた部屋に用意されたベッドに倒れこむ。
俺が普段使っていたような安物のベッドではなく、快適な睡眠を約束する上等なマットレスと、頭がちょうどイイ深さに沈み込む大きな枕。
眠気はすぐにやってきた。
消えゆく意識の中で、俺が詩音に雇われた理由について考える。
人に何かをしてあげるという事は、すべて見返りを期待しての行為だ。
思春期特有の捻くれた考えと思うかもしれないが、それが真実であり、俺もそれが悪い事とは思っていない。
だとしたら、彼女が俺に対して戦わせるわけでもなく、ただ執事として働かせる事で得るメリットがわからない。単純に執事が欲しいのならもっと有用な男が他にいくらでもいるだろう。
なぜ俺なのだろう。
ただ家を失った俺を哀れんだだけなのだろうか。
結論はでないまま、俺は深い眠りについた。
遠くから声が聞こえる。
小さな女の子の声だ。何かあったのかひどく泣いている。
「イヤ! 死なないで」
これは夢?
俺の目の前で力なく横たわっているのは昔の俺。見た目からして6歳くらいか。
血をだいぶ流して、今にも死にそうだ。
そして俺のそばで泣いている少女にはどこか見覚えがある。
小さな・・・詩音?
だけど、それは絶対有り得ない。
詩音とは今日が初対面のはずだし、昔こんな大怪我を負ったようなことは無い。
この出血量だと、助かったとしても入院が必要になるだろうが、俺の入院経験はゼロだ。
考えられるのは、俺の妄想。
詩音が俺を助ける理由が分からないあまり、適当な理由を自分で作りだしたのかもしれない。
その夢はすぐに終わった。
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登場人物の強さ
長瀬 詩音<能力:ヒノカグツチ>
攻撃力 4
耐久力 3
持久力 3
瞬発力 4
射程 2
成長性 4
(5段階評価)
あくまで目安程度でお願いします。途中でガバガバになったらごめんなさい。