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1話 出会い

プロローグの3週間くらい前からこの物語は始まります。

 煌びやかではあるがどこか目に悪そうな色の人工の光に彩られ、騒がしいと感じるレベルの音量が容赦なく室内を駆け回る。

 ここはショッピングモールのゲームセンター。

 普段なら学校の友達と一緒に来るよな場所だが、今は俺一人だ。

 今日は寄り道せずに家に帰る予定だった。

 しかし、ちょっと特殊な事情で家に帰れなくなった。

 火事である。


 家が燃えた。

 文字に起こすとたったのこれだけだが、事態はこの上なく最悪である。

 目的もなくゲームセンターに来たのは、他に行く場所がないからである。

 要するに現実逃避の真っ最中。

 こんなことをしている場合じゃないことは理解しているが、何をして良いかわからない。

 親は海外にいて月に一度電話するくらい。

 もちろん緊急だったから親父に電話したけど、わかったとだけ言われてすぐに切られた。

 親父が無口なのは昔からだけど、こういう時は非常に困る。

 児童養護施設とかに行くことになるのだろうか。


 単純に考えるのに疲れたので、俺はそれ以上考えるのをやめた。

 とりあえず、今夜は漫画喫茶にでも泊まるか。

 そうして俺は重い足取りで一番近い漫画喫茶に向かった。

 明日は学校が休みであることが不幸中の幸いと言えばそうなのかもしれない。






 トボトボと漫画喫茶のある通りを歩いていると、俺のすぐ隣に一目で高級だとわかる車が止まった。

 もの珍しさから、俺は足を止めて車を見る。

 その車から降りてきたのは一人の少女。凛とした空気を身に纏いつつもその顔はとても愛らしい。

 いかにも大金持ちの箱入りお嬢様といった雰囲気だ。

 思わず棒立ちになって彼女に見とれていると、ふと彼女と目が合った。

 なんだ? 俺の後ろに誰かいるのか?

 そう思って後ろを見ても、少なくとも見える範囲で俺に人間はいない。

 間違いなく俺を見ている。

 あまりにも真っ直ぐ見つめてくるので思わず唾を飲み込む。

 すると彼女が意を決したかのように動き出した。

 そして、スタスタと近づいて来たと思ったら、


「今日からアナタは私の奴隷よ!」


 ・・・なんて?

 いま、なんて言われた?

 聞き間違いでなければ、俺を奴隷にすると言ったな。

 少女は間髪をいれず続けた。


「あなたの親と話はつけたわ。今日からウチで働いてもらうわよ。分かったらこの車に乗りなさい」


 親と話がついている? 俺が売られたってことか? 信じられない。

 家にはたまにしか帰ってこないような人達だが、人を金にかえるような外道でないことは息子の俺がよく知っている。

 だとしたら他に考えられるのは誘拐か?

 適当な嘘で俺を騙して俺を拉致しようとしているのだろうか。

 でもそれになんのメリットがある?


 ともかく、分からないことだらけだ。

 ノープランでこの少女の言う通りに行動するのはリスクが大きずる。

 真実が何であれ、ここは逃げるべきだ。

 そう判断して、来た道をダッシュで引き返そうとすると、

 目の前に俺より小ささな、メイド服を着た少女が飛び出てきた。

 てっきりガチムチのボディーガード数人に囲まれるかと思っていたが、これはラッキーだぞ。この子一人なら振り切れそうだ。

 そう考えて突っ込む。

 だがその考えは間違いだった。


「失礼します」


 グルン。

 世界が急に反転したかと思ったら、俺の体は地にふしていた。

 コンクリートの冷たさを肌で感じてようやく理解ができた。

 俺はこの華奢なメイド服を来た少女に投げられたのだ。

 信じられないが、それが事実。

 そのメイドは人を人と見ていないような冷酷な目で俺に告げた。


「大人しくしてください・・・でないと」

「うっ・・・でないと?」


 地面に押さえつけられながら、オウム返しで聞き返す。

 プロ(?)を甘くみていた。俺を誘拐しようと計画している時点で俺より力があると考えるべきだった。

 ここは投降したふりをして機会をうかがおう。

 指示を従順に聞くことで相手の油断を誘うのだ。

 敵を知るために、俺は相手のことをよく観察することにした。

 だがこのメイド、予想以上に変な奴だった。

 真剣な顔だったのが、急に気の抜けたような顔になって、とても誘拐犯には見えなくなった。


「罰を決めるのも面倒くさいです。とりあえずこのまま大人しくしていてください」

「適当だなオイ!」


 思わず叫び声を上げる。

 なんだろう、捕まった時は絶望を感じたけれど、こいつなら何とかなりそうな気がしてきた。

 それに、お嬢様の方がこのメイドより強いってことはないだろう。

 そう思って、お嬢様の方を見た。

 開いた口が塞がらないって事が現実に存在したんだって痛感したね。

 300年ぐらい時代を間違えている長物を持っている少女に、俺は絶句する他なかった。


「なんだ、私の出番は無いみたいね」


 例えるなら友だちに新しい玩具を自慢する機会を逃したような、そんな残念そうな無邪気な声でソレを袋にしまった。

 素人目に見て、日本刀だった。


「おい! 天下の往来でなんてもの出してんだよ!」

「なによ? 奴隷のくせにうるさいわね」

「奴隷になった憶えは無いんだが!?」


 ツッコミというか、悲鳴のような叫び声を上げて俺は考えを改めた。

 女の子しかいないから、なんだかんだどうにかなると考えていた数秒前の自分をぶん殴りたい。

 甘かった。

 最悪死ぬかもしれない。




「大丈夫ですよ」


 聞こえたのは、優しい声。

 死を覚悟したからこそ、そんな声をかけられるとは思ってもいなかった。

 声の方を見上げると、メイドの少女がいた。

 自分でも理由はよく分からないが、俺はその声にとても安心した。




「ようやく素直についてくる気になったみたいね」

「お嬢様が無駄に怖がらせ過ぎなのです」

「う、うるさいわね。悪かったわよ」


 車の中は空調が行き届いていて天国と間違えるほど快適だった。座席はフカフカで、座っているだけで眠くなる。

 だが少なくとも今は寝ている場合ではない。

 分からないことが多すぎる。


「じゃあ、自己紹介からはじめましょうか。

 私は長瀬詩音。今日からあなたのご主人様よ。

 そしてコッチがメイドの芳。あなたの上司だから仕事は芳の指示に従いなさい

 ああ、ちなみにあなたの紹介は要らないわ、もう調べてるもの」

「ちょ、ちょっと待ってくれ」


 ご主人様? 上司? 俺の事を調べてある?

 話に一貫性がなくてついていけない。

 俺が戸惑っているとメイドさんが助け舟を出してくれた。


「お嬢様は言葉足らずが過ぎます。要するに、修哉君は住み込みの執事としてお嬢様に雇われたということです。家が燃えたという事情は知っていますし、もちろん修哉君のお父様にも了承は取ってあります。当然断ることも出来ますが、あまりオススメしません」

「わ、私も今からそれを言おうと思っていたのよ」


 なるほど。

 疑問の全てが解決した訳では無いが、だいぶ理解してきた。

 あと、今まで気が付かなかったが親父からメールが来ていた。

 これからはこのお嬢様の世話になるようにと書いてあった。

 クソ親父め、こういう大事な事は電話で言えよ。

 だが、それにしても解決しない疑問が残る。


「なあ、お前が持っていた日本刀はホンモノ・・・なのか?」


 誘拐犯ではないにしても、武器を持っていたという事実にかわりはない。明らかな銃刀法違反だ。

 しかもそれが俺の就職先だぞ。

 不安しかない。

 すると少女は何故俺が驚いているのか分からないといった表情で、


「そうよ。何か文句あるの? 奴隷のくせに」


 と、平然と言ってのけた。

 コイツ、メンヘラさんかよ。

 途端に頭が痛くなってきた。

 これからお世話するお嬢様が世間知らず云々以前の問題であるとは、親父も想定外だったに違いない。


「大丈夫ですよ、修哉君」


 運転席に座っているメイドの芳さんが優しく微笑む。

 このメイドさんが唯一の良心なのかもしれない。

 少しポンコツそうではあるようだが、よく考えればそれも彼女の魅力なのかもしれない。

 優しいメイドさんは、そういえばと思い出したかのように付け加えた。


「あ、大切なことを忘れていました」

「大切なこと?」


 この後に及んでまだ何かあるのか。


「はい、私のことは親しみを込めて、『かおりお姉ちゃん』か『かおりたーん』と読んでください」


 訂正、やはりコイツもただの変なやつだ。

 初対面の人間に付けるあだ名としてハードルが高すぎるだろう。


「そうか、分かったよ・・・かおりん」


 全部無視して適当な名前をつけてやった。

 しかし・・・


「ポッ」


 この変なメイドさんは、かおりんと俺が呼んだだけで頬を赤らめて照れた。

 なんで?

 やはりよく分からない人だ。

 そうやって不思議がっていると、


「主人である私の前でイチャイチャしてんじゃないわよ!」


 お嬢様の方はお嬢様で、意味のわからない事にキレてくるし。

 俺の摩訶不思議な執事生活はこうして始まったのだった。












次回は退魔師する予定です。

なるべく早いうちに投稿します。

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