56話 気付かなかった
昨夜は大変だった。
マリウスが協会の関係者を呼んでの宴会となり、終始お祭り騒ぎだった。
確かに食べ物は美味しかったが、無駄に人から注目を浴びてしまった。
なんでも協会ただ一人のSSが来たと、マリウスの知らぬ間に協会上層部に話が広がり、いつの間にか人が集まったそうだ。
まぁ、お陰で協会関係の顔見知りも増えたし知らない情報も集まったから総合的には良しとしようか。
今は宿の一室に全員集まっている。
今日は早速ダルフのアジトへ乗り込むつもりだ。
ザスタイルで注文した装備が出来てからでも良いのだけど、無くてもなんとかなるだろう。
レイルは代わりの武器を持っているし、私には短剣もある。
「今日は私一人でアジトへ行こうと思うんだけど、皆んなは待っててくれないかしら?」
リューネがいればとりあえず大丈夫だろう。
何かあっても守ることくらいはしてくれるはずだ。
「いや、俺も一緒に行く。
足手まといかもミレリアにとっては知れないが、そんな場所に一人で行かせられない。」
レイルが手を上げた。
あまり大人数で行きたくはないのだが、一人くらいなら別に問題ないかな?
「じゃあ、足手まといにならない様によろしくね。」
気持ちはありがたいし、一人くらいならどうとでも守れるだろう。
「リューネは何かあったら二人をお願いね。」
二人をリューネに頼んで宿を出る。
昨日クエストを受注した時にアジトの情報は教えてもらっている。
どうやら極秘扱いのクエストらしく、別室で説明を受けた。
アジトの場所は宿から少し離れている。
路地裏にあるファンキーグラスと言う飲み屋の裏口が、ダルフのアジトへ繋がっているらしい。
クエスト受注時には入り口以外の大した情報はなかったが、昨晩の宴会で追加の情報を得ている。
ダルフのリーダーであるグランは、つい最近までクラスA程度の実力しかなかったらしい。
いつ頃からかクラスS相当の実力を得ていたとのこと。
考えられるのは、新たなスキルを獲得したか。
精霊との契約、もしくはシャルと同じ様に核石を取り込めるのか。
気負ったりはしないが、油断しすぎない様に注意しよう。
「レイル、ここからは隠蔽魔法を使うから、注意して進むわよ。」
正面突破でも構わないのだが、敵の頭に逃げられるのは困る。
出来る限り隠密に行動しようと思う。
「【不可視ノ光】」
アジト付近までやってきたので、私達は光と闇の複合魔法で姿を隠した。
「ここね。」
入り組んだ路地を進んでいくと、教えてもらった通りファンキーグラスとデカデカと書かれた看板を掲げた店舗が見つかった。
店の裏側に回りこんで裏口を探すと、それらしい入り口を見つけた。
ドアの前に二人の亜人が立っている。
如何にもって感じね。
「あの二人をどうにかして中に入りましょう。」
小声でレイルに伝えると、レイルは軽く頷いた。
「どうする?」
眠らせたり出来ればいいんだけど、どうやるかってイメージが湧かないのよね。
魔法を使うためのイメージが足りない。
麻酔みたいな効果を持つ魔法は?
これもイメージが難しい。
あ、シャルは木属性の魔法で植物を召喚してたわね。
都合のいい召喚魔法ってないかしら。
試しに人を眠らせる花粉を放つ花をイメージしてみる。
【植物召喚・睡蓮花】。
一つのワードが浮かんだ。
睡蓮花って、ウォーターリリーじゃなかったっけ?
まあ、魔法であって実際の花ではないから気にしなくていいか。
とりあえず発現出来ることを喜ぼう。
「【植物召喚・睡蓮花】」
魔法を発現すると、辺りに白い蓮の花が咲き乱れた。
まてよ?花粉で眠らせるってことは、下手すると私達まで巻き込まれるんじゃ?
そう思って慌てて【不可侵領域】を発現した。
亜人の二人組は突如咲き乱れた花に戸惑いを見せたが、あっという間に眠りについた。
よし、上手くいった。
これで中に入れるわね。
ドアノブを握ったが、鍵がかかっている様でドアは開かなかった。
何度かドアノブを回してみるが、ガチャガチャと音を立てるだけ。
「なぁ、ミレリアならこんなドアすり抜けられたりしないのか?」
レイルの言葉でハッとなった。
「冴えてるわね。」
全く考えが浮かんでいなかった。
実際今は【不可侵領域】を発現している。
魔力も物体も、私がすり抜け様と思えばすり抜けられる。
なんでこんな簡単な事に気付かなかったのか・・・。
反省・・・。
気を取り直してレイルと共にドアをすり抜けると、そこは通路になっていた。
奥には階段があり地下へと続いている。
足音を潜めて少しずつ前へと進む。
何度か亜人とすれ違ったが、全てをすり抜けて真っ直ぐ突き進む。
途中扉をいくつか見かけて覗き込んでみたが、部屋がちらほらあるだけで別の通路は無かった。
しばらくすると通路が終わりを迎えた。
目の前には鉄の扉がある。
レイルと顔を合わせて扉を抜けると広い部屋に繋がっており、そこには5人の亜人がいた。
「ボス、俺んとこの下っ端が昨日フォクシズを見かけたらしいぞ。」
グラスを片手に話をしている様だ。
全員同じか特徴の亜人。おそらくウルフィ種なんだろう。
フォクシズって、シャルの事ね。
何人か亜人は見かけたけど、既に見つかってたのか。
タイミング的にはちょうど良かったわね。
しばらく話を聞いてみよう。




