53話 新たな戦術
しかしコロシアムへと入ってふと思ったが、決闘ってどこまでやって良いのだろう?
それに相手はクラスSだ、どんな攻撃をしてくるか予想がつかない。
例えば物理的な攻撃は私に通用しないが、精神攻撃だとどうだろう?
魔法で試したことはないが、そう言った攻撃もおそらくあるはずだ。
精神に攻撃するとなると、媒介とする物は何か。
何に訴えかけるのか。
短い時間で思考を巡らせる。
やり方はいくつか考えられる。
魔力を媒介とする場合。
視覚や嗅覚、聴覚に訴えかける場合。
思念等で直接脳に攻撃される場合。
色々なパターンが挙げられるが、大きく二つのパターンに絞れそうだ。
魔力で身体を操られる場合。
これは自分の意思はあるが、強制的に操られる状態。
次に脳を攻撃される場合。
これは意思を奪われる、又は脳からの電気信号に弊害を与えられる可能性がある。
つまり、魔力を断ち切る結界や、脳を守る結界のようなものを作れば良い。
魔力を断ち切るのはなんとかなりそうだが、脳を守るなんてどうすれば出来るのだろうか?
具体的なイメージが浮かばない。
魔法な発現はイメージが全てだ、これができていなければ思った魔法は発現しないし、発言すらできない。
これからの事を考えると、未知の敵に対して何らかの防衛術は必須だ。
案外そういう事を考える為のいい機会だったかもしれない。
あれこれ思考を巡らせているうちに、マリウスもフィールドへと現れて中央で対峙した。
マリウスは両手剣を背中から引き抜き、その剣の巨体を露わにする。
2メートルくらいはあるだろう大剣を、マリウスは片手で構えている。
「この機会を与えてくれた神ロウェルに感謝する。
悪いが、俺も負けるつもりはない。
大怪我をさせるつもりは無いが、少々の怪我は許してくれ。
なるべく一瞬で片をつけさせてもらう。」
切っ先を此方へと向けてマリウスは宣言した。
一瞬でって、相当素早さに自信があるのだろうか。
それとも魔法?
「その前に、一ついいかしら?
勝負はどちらかが戦闘不能になれば終わりでいいの?」
とりあえず勝敗については聞いておかなければならない。
「あぁ、君はこういう事をあまりした事がないのか。
俺がコインを投げて、コインが地面についたら勝負開始だ。
勝負は一本、どちらかが戦闘不能になるか降参した時点で終了とする。
他に質問はあるか?」
ん〜、降参させるってのも難しいわよね。
出来れば不戦勝が一番好ましいんだけど、ちょっと脅しをかけてみようかしら。
「じゃあもうは一つ、マリウスさんはクラスSって言ってたから総合値は50万以下よね?
私は200万を超えてるけど、それでも本当に勝負しますか?」
もちろん実践は値が全てでは無いが、引いてくれるならそれに越したことはない。
どうせ私のクラスを知っているんだし、値知られたところでどうってことはない。
「な、200万だと・・・!?」
マリウスは驚愕の余り自分の耳を疑ったかのように固まった。
「ふ、流石にそれは言い過ぎだろう。
そんな虚仮威しで俺が引くと思ったのか?
俺は君の実力を見られるとあってこれ程になく昂ぶっているんだよ?
もし、仮にそれが本当だとしても、引くことは無い。」
いや、本当なんだけど。
信じてくれて無いし、そもそも闘うのをやめないってどんだけよ。
この人実戦で確実に死ぬタイプじゃない?
相手の力量を見るのも戦術だと思うのだが。
まぁ、私が言えた口じゃないわね。
相手の力量なんて全くわかってないし。
「わかったわ。なら、さっさと終わらせましょう。」
いくつか対人で試したいこともあるし、新しい武器を持った時の戦略とか色々ね。
闘うなら自分の為にやってやろうじゃないの。
私の言葉に、マリウスが左手にコインを取り出して空中へと放り投げた。
コインは二人の中央あたりに向かって飛んでいき、地面を跳ねた。
「【麻痺電導】!」
コインが地面に落ちると同時に、マリウスは魔法を発現した。
私に向かって光が蜘蛛の巣の様に広がりながら放たれた。
光は私の後ろ20m付近の壁まで放たれていた。
おそらく中距離の範囲型魔法攻撃で、魔法名から察するに広範囲の敵を麻痺させる物だろう。
しかし、こう言った攻撃は戦闘前に考慮していた。
もちろん対策もバッチリだ。
私は魔力と物理攻撃両方を遮断する魔法【不可侵領域】を発現していた。
全ての攻撃は私をすり抜ける。
匂いや音に対する効果はないが、熱によるダメージも与えられることは無い。
「次は私の番でいいかしら?」
【不可侵領域】《インビンシブル》や【時空結果・身】にも欠点はある。
此方から物理攻撃を仕掛けた場合も相手をすり抜けるのだ。
インパクトの瞬間だけ認識したものに触れる事は可能だが、その間その部位は無防備になる。
そこで考えたのが遠距離武器だ。
ここは丁度荒野を設定したバトルフィールだ、手頃な石がゴロゴロ落ちている。
私は拳大の石を一つ掴み上げた。
「な、全く聞いていないだと!?」
マリウスの動揺をよそ目に魔法を発言する。
「【身体強化・強】、【硬岩化】」
魔法で身体を強化し、持ち上げた石を地の魔法で包み込む。
そして仕上げの魔法。
「【神出鬼没ノ悪魔】」
発現と同時に、直結30センチほどの黒い球体が出現しフィールドを埋め尽くした。
そして、自分の幸運と相手の不運を念じて手に持った石の塊を全力で投げつけた。
「な!」
マリウスは予期せぬ攻撃を咄嗟に躱す様に横っ跳びに避けた。
放たれた石は出現した球体に触れふと、吸い込まれる様に消えていった。
「何かと思えば、ただ石を投げただけか!
俺を馬鹿にしているのか!?」
叫ぶマリウスを余所に、石は他の球体から出現し、別の球体に当たってまた吸い込まれ、別の球体から出現する。
マリウスはそれを見切って躱しながら、私の方へ剣を構えて突進してきた。
「こんなもの、見切るなど造作もない!」
クロイツ支部長ほど早くはなかったが、その距離を一気に詰め寄ってくる。
「【閃光ノ雷】!」
マリウスが光魔法の雷で私を打った。
それとほぼ同時に剣戟を放つ。
しかし私に魔力や剣は通らない。
「これを見切っただと!?」
いや、全然見切ってないですけど。
避けようと思えば身体強化している今の身体なら可能だと思けど、不要だし。
「ぐあぁぁぁぁああああ!!?」
驚愕の表情を浮かべていたマリウスが、突然悲鳴をあげて崩れ落ちた。
よく見ると、彼の急所にさっき投げた石がめり込んでいる。
キョロキョロと周りを見渡すと私の足元、踵あたりに【神出鬼没ノ悪魔】で作り出した球体が浮かんでいるではないか。
丁度私の身体で死角になっているところから石が飛び出して、【不可侵領域】《インビンシブル》で私の身体を貫通して攻撃に至ったようだ。
鎧である程度守られているとはいえ、魔法で固めた石があそこまでめり込んでいれば・・・。
ご愁傷様です。
私はそっと手を合わせた。
我ながら恐ろしい戦術を編み出したものだ。




