46話 待たされて
「それにしても遅いわね。」
私はかれこれ一時間以上もヴェラを待っている。
公爵と話をしている間、レイルとシャルは私の言いつけ通りに大人しくしていた。
しかし流石にこの待ち時間はそうは行かなかった。
シャルはガネットの付き添いで庭に遊びに行ってしまったし、レイルに至っては部屋の隅で素振りをし始めた。
真面目に座って待っている自分が馬鹿らしくなってくる。
あまりに退屈で、出されていたお茶菓子を食べ過ぎてしまった。
いい加減出直そうかしら。
「お待たせして申し訳ありません。
まもなくお嬢様が参られます。」
ようやく部屋のドアが開き、執事が顔を出してそう言った。
長かった。
本当に出直す所だった。
執事は一礼して部屋を退出し、程なくしてガネットとシャルが部屋へ戻ってきた。
「お庭が広くて楽しかったよ!」
退屈が凌げて満足そうに笑っている。
「時間が潰せてよかったわね。」
シャルのお陰で気持ちが和む。
私も一緒に行けばよかった。
ドドドドドドドッ!
急に外の廊下から走る足音が響いてきた。
足音がどんどん近づいてきたかと思うと、客室の扉が勢い良く開かれた。
部屋へ入ってきたのは待ち侘びていたヴェラだった。
想像していた公爵令嬢とは感じさせない風貌に少し驚いた。
ヴェラはまさしく冒険者と言った格好でやってきた。
動きやすそうなズボンと薄手の上着を着て、胸当を付けている。
手には籠手を装備しているが、なんとも身軽な格好である。
「悪いわね、支度に手間取った。
何故だかわかんないけど、なんにも話をしてないのに家を出る許しを貰っちゃった。」
嵐の様にやってきて、待たせた事に全く悪びれた感じもなさそうだ。
「あのね、こんだけ待たせたんだからそこはしっかり謝りなさいよ。」
目を細めてヴェラを見つめる。
「だから、悪かったって言ったじゃない!
ちゃんと気持ちもこもってたわよ。」
そうは感じないんだけど・・・。
「ジェイス公爵がさっきここへきて話をしてたけど、貴方とは違ってそう言う所はしっかりしてたわよ。」
無礼ではあったけど。
「お父様ここへ来たの!?」
知らなかったのか?
あまり時間に余裕の無さそうな人だったから、必要のない事は娘にも伝えてないのか。
「えぇ、もう一時間近く前だけどね・・・。
私達に貴方の事をお願いしに来たのよ。
隠密みたいな側近も連れていたし、貴方の事なんて多分全部筒抜けなのね。」
待たされた嫌味を込めて言うと、それを聞いたヴェラの顔色が悪くなった。
「側近・・・
まさかロズ!?
全部筒抜けって、私と貴方は昨日の夜しか会っていないわよ。
まさかロズに聞かれてたの!?
お父様の前では行儀よく振舞ってたのになんて事なの!」
自分の本性を隠し通せてると思ってたわけか。
あの様子だと多分昔からバレてたと思うわよ?
あの公爵にはそんな隠し事は出来ないだろう。
「でも、ガネットさんの前で本性出してていいの?
ここにいるけど。」
外交の場ではいざ知らず、父親が知っているのなら今ここで偽っても無意味ではあるだろうけど。
「彼女はいいのよ!」
ヴェラは不貞腐れたように怒鳴った。
元から知っているのか?
ガネットを見ると小さく頷く。
「まぁ、公爵は間違いなく知ってるだろうから、もう本性を隠す必要無いんじゃない?」
ヴェラは頭を掻き毟るような仕草をして、諦めたように肩を落とした。
「もう家を出るし、どうでもいいわ・・・。」
小声で自分を納得させる様に呟いて、私に向き直った。
「終わった事は今更どうでもいいわ!
これから、よろしく頼むね!!」
元気のいい声で、楽しそうに笑う。
そんな彼女に釘をさすわけじゃ無いが、これだけは言っておかなくてはいかない。
「連れてってあげるんだから、ワガママは言わないでよ!」
ヴェラをしっかりと見据える。
「まかしといて!」
彼女は親指を立てて答えた。
本当に伝わってるわよね?
小さな疑問を抱きながら、新たな仲間を受け入れた。
彼女は身軽な格好をしており今は荷物を持っていないが、メイドや執事に頼んで外に準備させているらしい。
どれほどの荷物があるのかわからないけど、また収納魔法でしまっておく必要があるわよね。
そう考えて、準備している荷物のところへ案内してもらった。
そこには想像とはち違って馬車が準備されていた。
豪華な作りの物では無いが、荷馬車としては十分な大きさである。
三頭引きの馬車で、10人は余裕を持って座れそうな大きさだ。
準備をしていた一人の執事が出迎えてくれた。
「準備は整って御座います。
くれぐれも、お気をつけて行ってらっしゃいませ。
皆様も、お嬢様の事をよろしくお願い致します。」
深々と頭を下げられた。
「それと、皆様のお連れ様も既にご乗車されてお待ちになって御座います。」
執事にそう言われて馬車を覗き込むと、お酒を大量に買い込んだリューネが楽しそうに一人で一杯始めていた。




