37話 表と裏
ん!?美味しい!
海からは相当離れているはずだが、魚介類が豊富にならんでいる。
刺身を食べるのなんて久しぶりだ。
魔法で凍らせるか、転送でもしているのかな?
転送はないか、時魔法は難しいらしいし。
そんな事を思考しながら箸を進める。
「お口に合いますでしょうか?」
ヴェラ公爵令嬢が尋ねる。
「はい、とても美味しいです。」
私の答えに笑顔で続ける。
「それはよかったですわ。
それでは、食事を取りながらで結構ですのでお話をさせてくださいな。」
見た目の印象とイメージから、もっと口調のきつい人かと思ったのだが、割と優しそうな雰囲気の人だ。
私が了解すると、令嬢が話し始めた。
「先ず貴方方の案内ですが、明日の朝先ほどここまで案内してきた者をお付けいたします。
何故こんな場を設けたのか、薄々感じているかもしれませんが、貴方の実力を見込んでひとつ頼みがあるのです。
強い冒険者が来た時に、私に情報を入れる様にと案内所に頼んでおいたのですわ。」
令嬢が軽く手を挙げると、テーブルの後ろを囲っていたお世話の者たちが部屋から退出して行った。
最後の者が部屋を出たのを確認して
「ふぅ・・・。ようやく解放されたわ。」
ボソリと呟くと、令嬢は目の前に置かれた骨つき肉を豪快に掴んで食べ始めた。
行儀やマナーなど御構い無しだ。
「えっ?」
レイルとシャルは目を丸くしてそれを眺めた。
あー、そう言う感じの人か。
「なるほど、肩身が狭そうですね。」
私の言葉に令嬢が続ける。
「あ、わかってくれた?
公爵令嬢なんて立場は私には性に合わないのよ。
お願いって言うのは、私をこの街から連れ出して欲しいのよ。」
立場に縛られて自由がない、それを受け入れることが出来る性格でもない。
良くありそうな話だ。
「お嬢様を連れ出して、どこへ連れて行けばいいのでしょう?」
「あぁ、堅苦しいのは無し!ヴェラでいいわ。周りの者がいない時は敬語はやめて、話しにくいから。」
ヴェラは不機嫌そうに眉を顰めた。
「わかったわ。で、どこへ連れて行けばいいのかしら?」
近くの揚げ物に手を伸ばしながらヴェラは答える。
「場所は決まってないの。とにかく、ここを出たい。それが第一よ。
貴方達は何処へ向かっているの?」
「私たちは今、聖都アラムに向かってるわ。その後は各地を巡るつもり。」
まぁ、今更人が増えることは然程問題無いのだが、家出の公爵令嬢となると話は別だ。
間違いなく面倒臭い。
各地で指名手配されるような事は勘弁してもらいたい。
「ちなみに、断ったら?」
「適当な罪を付けて罪人として捉えようかしら。
まぁ、力は貴方達の方が強いでしょうけど、嫌がらせくらいにはなるんじゃない?」
おいおい、それはどっちにしろ指名手配されるような物ではないか。
選択の余地すらないのね。
「それじゃあ、お願いとも交渉とも言えないわね。」
「それもそうね。まぁ、運が無かったと思って諦めてちょうだい。」
そう言われて思い出す。
【幸運】使っとけばよかった!
最近魔法ばかりでスキルの事を全く持って忘れていた。
こうなったら、今更だけど使ってやる・・・。
「ちなみに、連れ出してもいいけど公爵の了解のもと家を出ることは出来ないの?」
それさえ出来れば特に問題なく旅を続けられるのだが。
「無理よ、お父様は私にそんなことを許してくれるはず無いわ。」
「と言うことは、まだ話をしてないのね?」
ヴェラは頷く。
確かめてすらないようだ。
とりあえず、話をしてみる様促してみるか。
「私が付いて行ってあげるから、一度説得してみましょう。
貴方の身を案じているだけなのなら、私が力を示せばどうにかなるんじゃない?」
ヴェラは少し考えて、そして口を開く。
「そうね、許してもらえなくても出て行くつもりだけど、もし許して貰えるのならその方が良いわよね。
よし、明日話をしてみるわ。
案内が終わった後に宜しく頼むわ!
お父様も明日はこの街にいるはずだから。」
割と物分かりが良くて助かった。
あとはうまく事が運ぶように幸運を祈る。
「私一人じゃ絶対無理だから、必ず一緒に来なさいよね!」
こうして、ヴェラに半強制的に協力する事になり、私たちはその夜高級ホテルの一室に宿泊する事になった。
ちなみに、食事の間はシャルもレイルも全く話に入って来る事はなく、ただ黙々と満腹になるまで食べ続けていた。
リューネはと言うと、我関せずと言った様子で只管色々なお酒を飲み比べており、私の忠告を守ってか一人で静かに味わっていた。
「俺はあの会話に入れないって。
そもそも彼女の目的はミレリアだったじゃないか。」
私一人で対応させた事に文句を言ったところ、レイルは無理だと首を振った。
確かに案内所で登録証を勝手に提示した私が原因なのだが、言葉でくらい守ってくれてもいいと思うんだ。
レイルの頼りなさが一際目立った夜だった。
次の日、これまた豪華な朝食を頂いた後、私たちの
元に昨日の黒服の女性がやってきた。
「昨日に引き続きご案内をさせていただきます。
ガネットと申します。
昨日は名乗る事もせず、大変ご無礼を致しました。」
ガネットと名乗った女性は、昨日と同じ黒服姿に身を包んでいた。
「いえいえ、お気になさらなくて結構ですよ。
今日は宜しくお願いします。」
「ありがとうございます。
それでは換金と装備品の購入と伺っておりますが、間違いありませんでしょうか?」
ガネットは眼鏡の縁を左手でクイッと上げて確認を取る。
「はい、まずは換金からお願いしたいです。」
そして私たちは昨日と同じ馬車に乗り込んだ。




