36話 公爵令嬢
黒服の女性に連れられて、私たちは案内所を出た。
外には馬車が停めてあり中へと案内される。
部屋を変えるって言ってたけど、場所まで変わるようだ。
「これからお連れいたしますので、今しばらくお待ちください。
到着する頃には食事の準備も整っていると思いますので。」
黒服の女性はそう言って馬車のドアを閉めて、馬車の横に控えていた別の馬へ飛び乗った。
馬車が走り出し、小さな窓から景色が流れ始める。
「綺麗ねぇ。」
夜に浮かぶ街明かりがとても美しかった。
街の外には光を蓄えた水晶がその蓄えた光を放って輝いていた。
この世界の水晶は魔法の力を刻む事が出来る。
通信に用いられたり、火を起こしたりする事も可能だし、この様に光を放つ事もできる。
私は特に必要ないから持ってはいないのだが、電気がないこの世界ではとても重要な代物だ。
水晶の大きさや種類によって、刻める魔法は限られているが、生活に使える程度の魔法は使用可能だった。
馬車はガラガラと小さな音を立てながら走っているものの、整備された町の歩道のお陰で揺れは少ない。
馬車に乗ったのは初めてだが、心地いい物だ。
実際、舗装もされていない道だったらそうは思わないのかも知れないが、今はどうでもいい事だ。
それから20分程度馬車に揺られていたが、目的地に着いたようだ。
結構な距離を進んだと思う。
そこは都市の中心部に程近い場所であった。
先程の黒服の女性がドアを開けて、私たちは馬車を降りた。
そして目の前に広がる大きな建物に圧倒される。
東京と比べてしまうとなんて事ない筈だが、十八年間この世界で生きてきた私にとっては十分刺激的だった。
「凄いわねー!」
「うん!凄いね!大っきな建物ばっかり!!」
シャルが目を輝かせて建物を見渡している。
おや?都市に入ったばかりの時は然程感動していなかったのに、ここへは来た事がないのだろうか?
「シャルはこの辺りは来た事ないの?」
「うん、街の真ん中は普通の人じゃ入れないってお母さんが言ってた。」
なんですと!?
そんな場所に招かれるとは、一体何事・・・?
「ん〜、ますます嫌な予感しかしないわね。」
私が悩んでいるとレイルが肩を叩く。
「まぁ、なる様になるだろ。
何かあっても俺が守るよ。
ま、ミレリアの方が強いんだけどな・・・。」
途中までいい事言ったのに、最後に何で弱気になってるのよ。
男ならビシッとしてよね。
「はいはい、頼りにしてるわよ。」
「リューネは、お酒飲み過ぎないでね。」
念の為に言っておく。
「大丈夫よ。私はお酒には負けないから!」
いや、全く伝わってないわよ?
ほんと、神様にはこの人を止めることのできる人物をよこしてほしいと思う。
「さ、此方です。」
私の心境など知る由もなく、黒服の女性は案内を始める。
そして私たちは目の前の建物へと入った。
「会場は最上階に準備しております。」
女性は掌で上を指す。
簡単に言ってくれがこの世界に電気は無い、エレベーターなんてないのだ。
つまり、この高い建物を階段で登らなければならいと言う事。
エレベーターのない場所で最上階なんて、優待ではなく虐待じゃなかろうか?
冷たい視線を送りながら着いて行くと、女性が扉を開いた。
扉の向こうは四畳半くらいの小さな部屋だった。
部屋の奥に大きめの水晶玉が置いてある。
女性が扉を閉めて、部屋の奥にある水晶玉に手を当てると部屋がガタンと揺れた。
暫くすると再び部屋が小さく揺れた。
そして女性は玉から手を離して扉を開く。
部屋を出ると、先ほど通ってきた廊下ではなく大きな部屋へと繋がっていた。
なんとなく察しはついたが、今のはおそらくエレベーターみたいな物なのだろう。
窓から見える景色が高い。
電気も無いのにどうやって?と不思議に思ったが、水晶玉に手を当てていたところを見るとおそらく魔法によるものだ。
物を浮かせる魔法や、引っ張り上げる魔法を水晶に刻んであるのかもしれない。
あれだけのサイズの水晶は見た事がない。
普通の店では購入すらできないだろう。
案内された部屋には、三十人は座れそうな程の長い大きなテーブルと、それを埋め尽くす程の料理が置かれていた。
私たちは向かって右手の席へと案内された。
黒服の女性はここで待つ様私たちに伝えて、部屋の外へ出て行った。
「お姉ちゃん!ご飯がいっぱい!」
シャルが目を輝かせて浮かれている。
「ほんとね、もうすぐ食べれると思うから、少し待ってて。」
今にも食べ始めそうなシャルを制止して、私たちをここへ呼び出した人物を待った。
先ほどの黒服の女性がそれと言うわけではないだろう。
すぐに奥から別の女性が歩いてきた。
豪華なドレスに身を包み、輝かしいアクセサリーを纏っている。
うわ〜、こういう人出てきちゃうんだ・・・、
てっきり協会関係の人か、商人系の四、五十歳の男性が出てくるかと思ったのに。
出てきたのは二十歳前後の金髪の女性だった。
女性は悠々と歩みを進めて、私たちの席に近い上座へと座った。
「ようこそおいでいただきました。
私はザスタイルを統治するジェイス=フローレス公爵が一人娘、ヴェラ=フローレスと申します。
お見知り置きを。」
まさかの公爵令嬢の登場とは、一体何事だと言うのだ。
既に私の想像の斜め上を行っている。
しかし、無礼を働いて目をつけられるのは避けたい。
「初めまして。ミレリア=ファレノイアと申します。
本日はこのような場にお招きいただき感謝いたします。」
こんな切り返しで大丈夫かしら・・・?
あんまりこう言う場でのマナーとか知らないんだけど、向こうから招いたわけだし悪いようにはされないだろう。
堅苦しいのは挨拶くらいで勘弁してもらいたい。
「あまり畏まらなくて結構ですわ。
時間も遅くなってしまいました。お話は食事をしながらするとしましょう。
さ、どうぞ召し上がれ。」
シャルを見て気を使ったのだろうか、令嬢は微笑んで食事を進めた。
「それじゃあ頂きます!」
既に待ちきれなくなっていたシャルが一番に食べはじめた。
「じゃあ、俺も遠慮なく。」
レイルも続いて食べ始める。
はてさて、どんなご用件が待っているのやら。
私はモヤモヤとした気持ちになりながら、食事を取りはじめた。




