34話 銘酒・竜殺し
外から聞こえる騒ぎ声で目が覚めた。
隣でシャルが寝息を立てている。
どれくらい眠ったのだろう?この簡易宿には光が殆ど入らない為、時間の感覚がわからない。
それにこの世界に腕時計なんてものはないし。
シャルを起こさないように静かにベッドから起き上がる。
石でできたドアを開けて外へと出ると、リューネと精霊達が騒いでいた。
「お〜、レムも真面目な顔して案外イケるわねぇ!
ダグリーも負けちゃダメよぉ!」
『ちびっ子ダグリーなんかに負けるわけないれしょ!わたしらって、凄いんらからね〜!』
『何言ってんのよ!あんたなんか既に呂律が回ってないじゃない!
こんなもん私が余裕で勝利するわよ!』
あれ、レムよね?
普段真面目なあの子が一体何をどうしたらあんなテンションになるって言うの?
それにダグリー、あんたどこ見て喋ってんのよ。
それレムじゃなくてバッタだから・・・。
二人の横には酒を両手に持ったリューネが二人の持つコップに酒を流し込んでいる。
これはあれか?椀子そば的な酒の飲み比べか?
空は明るく晴れ渡っている。
太陽の位置から丁度昼に頃だろう。
真昼間から酒の飲み比べですか・・・。
「あら、ミレリア起きたのね!見てみて、これ【竜殺し】ってお酒、私じゃなくて精霊が倒れそうよ!」
リューネはぷっと吹き出して笑った。
「そこへ直れぇぇぇぇえええええ!!!」
「リューネ、説明は?」
リューネと精霊三人組を目の前に並べて座らせた。
レムは既に酔い潰れて意識を何処かへ飛ばしてしまいそうだ。
酒を取り上げられてしょんぼりしているリューネに問いかける。
「ひどいわ!私の楽しみを取り上げるなんて!!」
クロノアをチラリと見つめる。
『僕は飲んでないよ!何もやってない!!』
クロノアは無実の罪を訴えたが、酒を出したのは紛れもなく彼らだろう。
それに、見て見ぬ振りはやっているのと一緒だ。
再びリューネを見つめる。
「全部割るわよ?」
「ごめんなさい。私が調子に乗りすぎました。」
リューネがひれ伏す。
まったく、人の精霊酔い潰して真昼間から馬鹿騒ぎとは呆れるわ。
「飲んだらダメとはいわないから、昼間くらいは我慢しなさいよ。
もしくは一人で静かに飲んで!」
「はぁ〜ぃ。」
リューネは項垂れながら返事を返した。
「それから、あんた達もリューネに言いくるめられない事!せめて私に確認しなさい!」
『『はい・・・。』』
レムの意識はここには無かった。
そして、クロノアは二人を引き連れて私の中へと帰った。
まぁ、リューネを一人で待たせていた私も悪かったが、少しは節度を持ってほしいものだ。
「ミレリア・・・お酒・・・。」
はぁ...。
深いため息が出た。
「少しは慎ましく飲んでよね。」
私はそう言ってリューネにお酒を返した。
私も甘いわね。
昼食を作るのも面倒だったので、保存食を取り出して食べた。
まぁ、食べなくても良いんだけど。
それから少ししてレイルが起きてきたので、保存食を渡し軽めの昼食を取ってもらう。
シャルが中々起きてこないが、そろそろ出発もしたいので起こしに行く事にした。
揺すって起こしても眠たそうにしているシャルを抱き上げて、造った簡易宿を取り壊す。
太陽の光を眩しそうに避けて、シャルは私の胸に顔を埋めた。
「よし!可愛いからこのまま進みましょう!」
レイルとリューネへ伝えて、私たちはザスタイルを目指して歩みを進めた。
シャルを抱えてはいるものの、【身体強化】を発現しているため苦ではない。
魔力の無駄遣い?
この天使を目の前にして、そんな台詞は無粋である。
微笑ましい寝顔を見つめながら、只管に平原を進んで行く。
歩き始めて10分ほどで、シャルは太陽の明るさに負けて目を覚ました。
「おはようシャル。いっぱい寝たわね。」
シャルを見つめて話しかける。
「おはよー・・・。あれ?もう出発しちゃったの?」
寝惚け眼だった目が見開いて、驚いている。
「ええ、ついさっきだけどね。
中々起きないから出発しちゃった。
もう少し抱かれててもいいわよ?」
シャルは自分の状況を理解して、恥ずかしそうに私の腕から降りた。
もう少しこのままでも良かったのに...。
そう思いながら、使っていた魔法を解除した。
「ごめんなさい。全然起きれなかった・・・。」
「いいのよ、シャルも疲れてたんだから仕方ないわ。
それより、お腹すいたでしょ?
歩きながらだけどこれを食べるといいわ。」
保存食と水筒を手渡した。
シャルは歩きながらさっと食べ終えて、水筒を私に返す。
狩人の祭りでの遅れを取り戻すべく、草原を進んで行った。




