33話 二人言
ミレリア達が休んでいる場所から百メートル程離れた場所に、一際大きな岩が佇んでいた。
その岩の陰で、リューネは竜の姿となった。
周囲には魔物避けの結界を張り巡らせ、ミレリア達の身を守っている。
あの子達に気付かれないように、早めに戻らなきゃね。
「ロウェル様、報告が・・・。」
その問いかけに何処からか声が帰ってくる。
『その名前はまだしっくりこないな。それに様付けされると何だか変な気分だよ。』
「ふふふ、まだ名前が付いてから一年も経っていないものね。
それに神様なんだし、様を付けた方がいいでしょう?」
実際、私もまだこの名前を呼ぶ事に慣れていない。
ミレリアが世界に混ざり始めた影響で、神という存在が人々の中で信じられ始めた。
それまで祈りを捧げる相手と言うのは、漠然とした何かだった。
しかし、神ロウェルという存在を人々の深層心理が作り上げたのだ。
神への信仰など無かった世界に、神という定義が生まれた。
それが一年の時を経て定着し、ロウェルはその名を自身に宿した。
まだ他に神はいないが、人々の祈りによってこの世界に新たな神が誕生するのも時間の問題だろう。
『まぁ、追い追い慣れていくとするよ。
それで報告って言うのは何だい?』
ロウェルが尋ねる。
「あの子についてよ。
とりあえず予防線は張っておいたわ。
ただ、それもいつ駄目になるかわからないけどね。
無いよりは大分マシになったはずよ。」
『そうか、早急に対処してくれありがとう。
気は休まらないだろうけど、しばらく様子を見ていてくれ。』
「わかっているわ。ま、目覚めた時にどうなるか、今はまだわからないわね・・・。」
リューネは黙り込んだ。
ロウェルもそれ以外の追求をしない。
暫くすると、ロウェルが思い出したように話を切り替える。
『そうだ、リューネに伝えることがあるのを忘れてたよ。
実はね、僕に身体ができたんだ。
見た目は人間の青年だよ!
これも彼女の影響あってこそさ。』
ロウェルは少し嬉しそうに伝える。
「あら、それは見てみたいわね。」
人々が信仰し、その姿を想像した結果が神を形作る。
青年という事は、この世界にとっての神とは女神などのイメージでは無かったようだ。
神に性別はない。
ただ見た目がそうであるだけで、そこに性別による違いは存在しないのだ。
まぁ、信仰する対象が魔物や植物の姿をしていなかっただけ良かったわね。
中身は変わらなくても、若干の抵抗があるもの。
「それはそうと、他の三人には伝えたのかしら?」
他の三人とは、リューネと同じ使命を持つロウェルに造られた存在のことである。
『あぁ、彼らにはまだだよ。
これから久しぶりに会いに行ってみてもいいかな。
時間が作れるなら君も一緒に行くかい?』
ロウェルに誘われたが、私はあまりあの三人とは馬が合わない。
「遠慮しておくわ。私もそろそろ戻らないといけないし。」
『そうか、残念だ。まぁ、君はそちらをよろしく頼むよ。
三人にも宜しく伝えとくから。』
宜しく伝えてくれなくても良いのだが・・・。
『それから遅くなったけど、君の役目の特性も考えて能力の制限を一部解除しようと思う。
他の三人も納得してくれるだろう。
何が出来る様になるかは、何となくわかるはずだ。
僕に思念を飛ばして連絡出来るようにもなるから、今みたいな手間はかからないはずだよ。』
「それは便利になるわね、了解したわ。
それじゃ、そろそろ行くわね。」
『あぁ、宜しく頼む。』
会話を終えて、リューネは目を開ける。
太陽はまだ頂点まだ頂点に向かって昇っている最中だ。
暖かな日差しに、心地よい風が吹き抜ける。
静かな平原に佇む大きな岩の陰で、リューネは人間の姿へと戻った。
彼女はゆっくりと歩き出し、ミレリア達が休んでいるキャンプへと向かう。
昼になるまではもう暫くかかりそうだ。
リューネはキャンプまで戻ると、腰を下ろして空を見上げた。
「能力の制限解除か、あの三人が素直に納得するとは思えないけど。」
特に北にいる黄竜ラドラムの親父は文句を言っていそうだ。
青竜と赤龍は案外大丈夫かもしれないけど。
どちらにしても癖のある面々だし、全部が落ち着いたらまた制限をかけてもらう事で納得してもらうしかないか。
リューネは他の三人を思い出してため息を吐く。
まだミレリア達は起きてきそうにない。
何をして待っていようか。
思考を巡らせて一つの答えにたどり着く。
そうよ、戦闘前にミレリアと約束していたお酒を貰ってないじゃない!あの子は寝てるし、仕方ない・・・。
「クロノア、レム、ダグリー!」
クロノア達を呼び出してお酒を出してもらう。
あの子が用意したお酒は夜まで取っておくしかないか。
「どうせ暇なら晩酌ならぬ昼酌で、ぱーっとやりますか!」
この前テグナムの村で仕入れたお酒をコップになみなみと注ぎ、一気に飲み干す。
「お、これは行けるわね!甘くて柔らかい飲みごたえ。
豊富に色んな種類を買ってみた甲斐があるわ。
また買っておかなくちゃ、なんて名前のお酒かしら?」
チラリと瓶のラベルを覗き見る。
『竜殺し』
「・・・・・・・・・・。」
こんなので死なないわよ・・・。




