29話 飛ばすと減るもの
「それでは、シャルロッテの事をよろしくお願いします。」
村長夫妻が前に立ち、村人達に見送られてテグナムを出発した。
長居していてもシャルの決心が鈍るかもしれないし、別れが余計に辛くなるかもしれないと思い、その日の昼には旅立ったのだ。
シャルの荷物は私が魔法で収納した。
なるべく身軽にして、村を後にする。
シャルは朝と同じ服装に、私と同様の大きめのマントを羽織っている。
「お姉ちゃんとおんなじマントがいい。」
シャルの言葉にニヤけてしまったのは置いておくとしよう。
私たちは聖都アラムへ向かっている。
テグナムの村から北に約100㎞進むと商業都市ザスタイルが見えてくる。
そこから更に北西へ50㎞程進むと、七聖都の一つで火の精霊王ラヴァが住まうとされるアラムへ到着する。
かなり遠い道のりではあるが、テグナムの村までたどり着いた日数を考えても一週間程度で到着できるだろう。
シャルは私が補助をしながら進む事になった。
まだまだ子供のシャルには流石に険しい道のりだ。しかし、必要な資材や食糧を仕入れるにもお金が掛かる。
ある程度魔物を倒してレベルを上げながら核石を回収して進むルートを選択した。
シャルを襲った一味は聖都アラムに向かっているわけで、早急に追いかけなければならない理由もない。
知り得た情報を整理して、ザスタイルでも相手の情報を集めて対策を練るつもりだ。
一時間程度歩くと、木々の林を抜け出て広大な草原が広がった。
クリュート村を出発してからと言うもの木々に囲まれてばかりであった為、地平線の向こうまで続く見渡す限りの草原は、私に世界の広さを物語った。
「広いわね〜!」
私は手を広げて空を仰いだ。
少し暑いくらいの日差しに、吹き抜ける風がとても心地いい。
まだほとんど進んでいないが、寝転んで休みたくなるくらいだ。
「ホントだな。これだけ見渡す限りの草原は初めてだ。」
レイルもそれに同意する。
クリュート村も森と湖に囲まれており、親交があるのはメルトクロードくらいのため、私たちにとっては新鮮な光景だった。
「お姉ちゃん達は、ここには来た事ないの?」
シャルの質問に私は首を振る。
「テグナムの村も、そこから先の景色も初めてよ!」
今朝から"ミレリアお姉ちゃん"ではなく、"お姉ちゃん"と呼ぶようになったシャルを見て、本当に自分の妹の様に思えて笑顔が溢れる。
『わ〜、本当に広いね〜!』
クロノアも出てきて飛び上がり、辺りを見渡す。
シャルと出会ってから、精霊達も頻繁に出てくる様になっていた。
「あ、空から眺めるのも気持ちよさそうね。私も真似してみようかな。」
そう思って魔法を発言する。
「【天翔ル風】」
上空に飛び上がり、ぐるりと見渡す。
後ろには旅立ったテグナムの村がまだ小さく見えている。
進む方角をみたが、見える範囲はどこまでも草原が続いていた。
チラホラと大きな動くものが見えたが、遠すぎてよくわからない。
大きな岩や、所々に木が生えてる他は特に変わったものは見えなかった。
一頻り景色を楽しんで、元いた場所へ降り立つ。
「いいなぁ、お姉ちゃんばっかり空飛んで。」
シャルが頬っぺたを膨らまして拗ねていた。
「俺も空から見たい!」
レイルも便乗する。
「はいはい、なら見ておいで。」
確かに私だけってのは二人は納得しないだろうから、二人にも体験させてあげることにする。
「リューネは?」
「私は遠慮しておくわ。」
まぁ、竜の姿でこう言う景色は見たことあるか。
「それじゃぁ、二人とも行くよ?
【天翔ル風】!」
魔法を発現して二人を空へと浮かび上がらせる。
二人ははしゃぎながら辺りを見渡していた。
「はい時間切れ〜。終了です。」
少しの間二人を楽しませて、地上へ降ろす。
「え〜、もう終わり?」
「もう少し楽しみたかったなぁ。」
二人して文句を言う。
人を浮かせるのって、自分を浮かせるよりも魔力を使うんだから、そんな事を言われても困る。
「文句を言うならもうやってあげないわよ。」
「いいじゃないか、減るもんじゃなし。」
「ぶー。」
「減るのよ!魔力が!」
そんな問答をしていると、クロノアが近寄っきた。
『ミレリア、このままザスタイルへ向かえば面白いものを見れそうだよ。』
「面白いもの?」
『行ってみてからのお楽しみさ!』
それだけ言って、クロノアは私の中へと帰っていった。
面白いものってなんのことだろう?
「リューネ、何か分かる?」
「さぁ、何かしら?」
ふむ、とりあえず進んでみればわかるか、どうせ道すがらなのだし。
「じゃぁ皆んな、とりあえず歩くわよ!」
「「おー!」」
レイルとシャルが拳を上げて同調する。
私たちは目印の少ない草原を、地図と方位磁石を頼りに進んでいる。
地図には所々に目印になる物が記載してあるが、変わった形の岩とか、立て看板だとかばかりで近付くまでそれご目的の物なのかよく分からない物ばかりだった。
無事にたどり着ける様祈りながら、前へと足を進める。
シャルが疲れた時には小休憩を挟みながら着実にザスタイルへ近づいていった。
その日は夕方になるまで歩きキャンプをした。
途中魔物に出くわしたが、シャルも頑張って闘っていた。
私とレイルで十分だったのだが、シャルが自分の為にとお願いをしてきたので、何度か戦闘にも参加させたのだ。
フォクシズ種は戦闘において優秀な種族だと聞いていたが、シャルもなかなかのものだった。
スキルで【身体強化】を使用できるうえ、いくつかの攻撃魔法も使えていた。
弱い魔物なら十分に倒すことが出来ていたのだ。
今日の戦闘だけで通常サイズの核石が27個も手に入った。
レイルはと言うと、持ち前の剣術で魔物を倒していた。一度フィレルと協力して剣に炎を纏いながら闘っていたのだが、魔力消費が大きすぎる様ですぐに使うのをやめていた。
レイルも着実に強くなっている様だった。
「【岩石創造】!」
私が地の魔法でいつもの簡易宿を作り、寝床と準備を行う。
その間にレイルとシャルが食事を作る。
食材を【時空収納・間】から丸ごと出して置いておいた。
何が出来るのか楽しみである。
リューネにはお酒を餌に、周囲の魔物をある程度片付けて貰った。
「さて、寝床とお風呂の準備完了!」
ご飯は後どれくらいで出来るかな?
仕事を終えてレイルとシャルのところへ向かう。
レイルがコトコトと鍋を煮詰めて、シャルがご飯を炊いていた。
「美味しく炊けそう?」
シャルの所へ向かう。
「うん!楽しみにしてて!」
彼女はニッコリと笑った。
笑顔が素敵だ〜!
私がシャルに見とれていると、レイルが鍋を煮込みながら此方を向く。
「ミレリア、もうすぐ出来るから皿を出してくれ!」
レイルに言われて【時空収納・箱】を発現し、皿を取り出す。
そんな私の動作をシャルがじっと見つめている。
「ん?どうしたの?」
私が聞くとシャルは驚いたのか、ハッとした様な顔をする。
「あ、ううん。お姉ちゃんてすごいなぁと思って。時空を操る魔法を使う人なんて、お姉ちゃんが初めてだから。」
前にリューネから聞いたが、最上位の時の精霊以外はそんなに力を持っていないんだとか。
その為、最上位精霊未満の精霊ではまともに魔法を使うことが出来ない。
一秒時を止めるだけでも並の魔法使い一人分の魔力では足りないらしい。
ましてや闇と光の魔法も必要とする時空魔法なんて、そりゃぁ使える人間なんてほとんどいないだろう。
そう考えてみると、あまりポンポン人前で見せない方がいいかも知れないわね。
「ありがと。シャルも凄かったわよ、あんなに戦えるなんて思わなかったわ。」
シャルは照れながら"えへへ"と笑った。
「そうだ、お姉ちゃん。今日拾った核石を一つ貰えないかな?」
魔物の核石、何に使うんだろうか?
「勿論いいわよ、貴方も倒したんだから。」
そう言って核石を取り出し、シャルに渡した。
シャルは核石を手に取ると、両掌に乗せて何か呟き始めた。
『命の輝きをこの身に・・・レルヴィ・・・ルーラス』
核石が輝き、シャルに溶け込む様に消えていった。
明日はおそらく夜に一話の投稿になると思います。




