28話 新たな仲間
夜が明けて世界に薄明かりが射し始めた頃、テグナムから少し離れた林の中で大きな黒い竜が鎮座していた。
竜は瞳を閉じて呟く様に誰かと話をしている様だ。
話をしている相手の姿は見えなかった。
『わかってるね?まだあの子に死なれては困る。上手く見守ってあげてくれ。』
「えぇ、わかってるわ。気がかりはもう一人の方ね」
『あぁ、フォクシズの同行はしっかりと監視してくれ、あの子の命を狙っている様なら、確証を持った時点で適切に処理を頼む。
くれぐれも、世界に影響を与えないようにね。』
「承知したわ。それじゃ、そろそろ私は行くわね。」
竜は会話を終えて、瞳を開く。
途端に黒光を放ち、巨体はみるみると小さくなっていく。
竜がいたその場所に、スラリとした長身の紅色の髮をした女性の姿が現れた。
女性はテグナムの村へと歩き出した。
「お姉ちゃん、朝だよ。
・・・・そろそろご飯だよ。」
朝、シャルロッテに起こされて布団を出た。
「おはようシャル。」
「おはよ、お姉ちゃん。」
ニッコリと微笑むシャル。
目覚めて一番にシャルの可愛い顔が目の前にあるなんて、今日も素晴らしい一日になりそうだ。
布団を抜け出て一階へ降りると、村長の奥さんが朝食を作ってくれていた。
「おや、やっと起きたかい?他の二人はとっくに起きて外に出て行ったよ。」
ゆっくりと優しい口調だ。
レイルはいつも通りの朝稽古だろう。
フィレルと契約してからと言うもの、より一層鍛錬に励んでいる様だった。
リューネは散歩でもしているんだろうか?
カランと音を鳴らして家の扉が開いた。
リューネとレイルが帰ってきた様だ。
「二人ともおかえり、リューネはどこへ行ってたの?」
「ただいま。朝ごはんの匂いに釣られて帰って来たけど、ミレリアが待ってくれてる家ってのは良いもんだな。」
レイルが何気ない調子で言った。
しばらくグイグイ来る事はなかったのに、急に来るのね。
不意打ちを食らった気分だわ。
「馬鹿言ってないで、顔を洗ってきなさいよ。汗でベトベトじゃない。」
私がそう言うと、レイルはそのまま洗面所へと向かって行った。
「私は少し散歩をしていたわ。
来たことのない村だから、よく見ておきたくて。」
リューネはクリュート村へ来た時もワクワクしていたし、人間の住む場所に興味があるのだろう。
暫くして食卓を囲ったのだが、この時一つの異変に気がついた。
「な・・・シャル、貴方・・・」
私は一瞬言葉を失った。
それを見て皆がシャルの方を向く。
「なんだ、どうした?」
レイルが焦った様にシャルを観察する。
「貴方、なんでそんな格好をしてるの!?白の・・・純白のワンピースは!?」
レイルが上手に椅子から崩れ落ちた。
そんなリアクションをいつ覚えたのやら。
「え?」
不思議そうに首を傾げるシャルに、リューネが口を挟む。
「昨日着てたんだから洗ってもらってるわよ。もう十分目に焼き付けたでしょ・・・。」
いつもの様な呆れ顔だ。
しかし、私のシャルへのこの気持ちはどこへ向ければいいのだ。
モヤモヤとした気持ちでシャルを観察する。
肘丈程の服に、デニム生地の様なショートパンツを履いている。
「でも、これはこれで有りね。」
そうしてシャルをおかずにして見つめながら朝食を平らげた。
食事が終わって一通り落ち着いたところで、片付けを手伝っていたシャルを呼んで話をする事にした。
流石にここでふざけたりはしない。
「シャル、ちょっと話があるの。こっちへ来てくれない?」
シャルにとっては辛い選択を迫る事になるのだが、村長達の気持ちも汲み取ってあげたい。
シャルがやってきてわたしの向かいに座った。
そして、私が話し始める前に彼女が口を開いた。
「何の話かは大体わかってるよ、ミレリアお姉ちゃん。
ワタシ、昨日の夜聴いてたんだ。」
そう言って、シャルは視線を外した。
私はその言葉に驚いた。
「起きて・・・たんだ・・・。」
まさか聞かれていたとは...。
「ごめんなさい。なかなか寝付けなくて、村長さんとお姉ちゃんのお話って言うのが気になっちゃって、こっそり聴いてたの。」
シャルは目に涙を滲ませる。
「そっか、全然気づかなかったわ。
ごめんね、コソコソと話をしちゃって。」
間を開けて、シャルを見つめて問いかける。
「どうせしなきゃいけない話だったし、聴いてたのなら仕方がないわね。
それで・・・・・・貴方はどうしたい?」
一緒にいて守ってあげたいが、勿論シャルの気持ちを優先するつもりだ。
「話を聞いた後、よく寝れなくて・・・隣で寝てたお姉ちゃんを見ながら考えてたの・・・。
ワタシ、お姉ちゃん達と一緒に行きたい。
この村の人たちに、これ以上心配も迷惑もかけたくない。
だからお姉ちゃん、ワタシを連れて行って!」
目に涙を滲ませたまま、泣きそうになるのを堪えて言葉を絞り出した。
「わかった。私たちは歓迎するわよ。
絶対、貴方を守ってあげるわ。」
それを自分に言い聞かせる様にシャルを見つめて言葉を返す。
この子の決断に口を挟んだりしない。
レイルとリューネを見ると、二人とも頷いてくれた。
そんなシャルを見て思う。
こんな選択を迫らせた輩を許すなんて、私にはできない。
この子には、何の罪も無いんだから。
こうして、私たちに新たな仲間が加わった。
シャルロッテ・ロズウェルド。
フォクシズ種の亜人で、翡翠色の長い髪を持つ十一歳の女の子。
彼女は、彼女を思ってくれる人達と別れを惜しんで抱き合っている。
「シャルロッテ、最後まで守ってやれないワシらを許してくれ。」
「村長さん、謝らないで。
私は皆んなが庇ってくれて嬉しかった。
これから少しずつ強くなって、皆んなにも恩返し出来るように頑張るね。」
私はその光景を、黙って見守った。




