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1話 切実な思い

 ステータスを確認し終えて溜息まじりに協会を後にした。

 受付のお姉さんに身体に異常はなかったか確認されたけど、状態異常等は無かったとだけ伝えた。


 状態異常はないけど、大変なことになってしまった。

 スキルが変わっていた事を、もしも伝えたらどうなるか考える。

 まず協会に登録されているクラスが変動する可能性があるため、スキルとステータスを確認されるだろう。

 子供の私なら保護者の同意のもとにステータスを提示することになる。


 ステータス値として見ると恐ろしく高い数値が表示されるわけだが、それはそれでこれからの生活を脅やかしそうでなんだか怖い。


 スキルに表記された漢字自体はこの世界では伝わらないだろう。

 しかし、もしも読み方だけ伝わるとするとどうだろう?

 かっこいい横文字で伝わればいいが、運という字と呼という字が平仮名で伝わるとすると、ただ生き恥を晒す結果になる。


 考え過ぎかもしれないが、転生して16歳という若さで屈辱的な人生を約束されかねない。


 よし、もう自分なりに呼び名を付けよう。

運呼・・・・⦅うんよび⦆


 これはなんだか馬鹿っぽいな。

 英語は得意では無かったが、横文字にしてみよう。


⦅コールラック⦆


 なんかしっくりこない。


⦅カモンラック⦆


 なんだか中二病を発症しそう。


 あっ!


 なんならもう全く関係ないところで、フォーチュンってどうだろうか?


 運を呼ぶって言っても、それが幸運だと嬉しい。

 よし、フォーチュンにしよう。呼びやすいし!


 その名前を心に留めて、家へと向かった。


 それと同時に光がぶつかったあたりが淡く光ったが、彼女はそのことには気が付かなかった。



 家に帰ると丁度昼食の時間だった。

 母はテーブルに皿や料理を並べていた。

 現在父は森の奥にある坑道に出稼ぎに出ており留守にしている。

 あと一週間もすれば一度村へ戻り、その足で町の方へ採掘したものを売りにいくだろう。


「ただいま。」


「お帰りミレリア、あんた森に入ったんだって?

 しかもライトブルに襲われたって聞いたわよ?

 村には魔物よけの結果があるから大丈夫だけど、森には入るなってあれほどいったでしょ!

 怪我しなかったから良かったものの・・・」


 誰から聞いたのか既に母はその事を知っており、村の大人たちと同じようにくどくどと怒られた。


 その後昼食を食べて、食休みに庭で寝転がり空を見上げた。

 快晴の空の下で暖かい木漏れ日。

 こう言うところは、のんびりできるこの世界って最高なのよね。

 などと考えていると、いつのまにか寝て眠ってしまった。



 霧の深い森の中、樹々に囲まれた場所に少し開けた空間があった。

 その中央には直径三メートルを超える巨木が聳え立っている。

 ミレリアはその巨木の傍で天を仰いで横になっていた。



 え?ここは朝来た森の中?

 確か、庭で空を見ながら横になっていたはずだ。

 思考を巡らせ、一つの答えを出す。


 夢?


  そもそも夢と認識できるような夢なんてあるんだろうか?

 自分の思考に半ば呆れながら起き上がり、辺りを見渡す。


 静けさと、濃い霧が辺りを包んでいる。


 ふと隣に聳える巨木へと視線を移す。

 そこには朝見た光の玉がふわふわと浮かんでいた。


 咄嗟に、またぶつかって来るかもしれないと思って身構えた。

 しかしその光はその場でふわふわと浮かんだままだ。


  少しの静寂を保ったあと、光の方から音が聞こえ始めた。


『キィィィィン』


 微かな音が甲高く木霊した。


「貴方は何?精霊?

 生きてるの?」


 思った疑問を投げてみた。

 これは夢かもと思ったせいか、不思議と朝の様な恐怖心は無い。


『リィィィィィン』


 先程とは違う音が鳴り響いた。

  話は通じているのかもしれないが、どうやら此方に伝える術がないようだ。


「喋れる生き物ではないんだね。」


  フルフルと光が震え始めて、その場をグルグルと回り『リィィン』という音がピタッと止まった。

  私は朝のことを思い出し一歩後ずさる。


『あー、あー、あー。お、こんなもんかな?どう?通じる?聞こえてる?』


 と、光から少年のような声が聞こえてきた。


「喋れるんかい!」


  私は咄嗟にツッコミを入れてしまった。

 その事に、なんだかわからない羞恥心に苛まれて頭を抱えた。


『やぁ、元気がいいね。

 この状況でそんな返しができるとは、転生者だからかな?

 それとも強い精神をもっているのかな。』


  そんな私を横目に光は淡々と話を続ける。

 というか、私の聞いた質問の答えは何処へいったのやら。


『あぁ、そういえば僕は精霊ではないよ。』


 私の心を呼んだかの様に光は答える。


「だったら貴方は何?」


  無理矢理平常心を保ちながら、光に問う。


『僕はこの世界を作った存在だよ。

 いわゆる神さまってところかな。

 今まで人と干渉することがなかったから、使う言葉を探すのに時間がかかっちゃったよ。』


  神さま出てきたぁぁ!

  あれ?今からまさか、いや、とうとう私の王道異世界転生ライフが幕を開けると言う事だろうか!?


  16年間出会うことのなかった神さまに出会え、使命とチート級の能力を与えられて最終的には悠々自適な毎日を約束されて暮らしていく。的な!?


「あ、私チートな能力とか特別な使命はいりませんので、お引き取りください」


 だが、私は16年の月日をこの村で過ごした。

 それなりに楽しく暮らしている。

 レイルが優秀なのは少し嫌だけど、新しい能力と引き換えに使命とか与えられるのも面倒だ。

 考え方すら凡人だと思うけど。


『えっ?まだ何も言ってないけど・・・。』


 神さまは私の返答に少々戸惑っている様だ。

 やはり図星だったのか。


『なんか勘違いしてるみたいだから、とりあえず僕が出てきた訳を一から説明するね。』


 え、違うの!?

  再び羞恥心に苛まれて頭を抱える。


『まず、君がこの世界へ来てしまった経緯からだね。』


 と、神さまは語り出した。

 話の内容はこうだ。


 まず、私がこの世界に来たのは目の前にいる神さまに招かれた訳ではないそうだ。

 地球の神の所為でこちらの世界へ飛ばされたとのこと。

 元々私は死んだあと輪廻転生を果たして、また同じ世界のどこかで生まれる予定だったらしい。

 地球の神は一人ではなく複数存在するとこのこで、その中の一人が酒に酔った勢いで私をこの世界へ飛ばしたんだとか。


 酒の勢いで人の一生どころか魂を弄ぶってどうよ?とは思うが神さまから見たら人一人の魂なんて玩具程度の感覚なのだろうか?


  ちなみに転生は迎える側の世界の神が行うため、こちらの神が招かない限り通常ではなし得ないそうだ。

 だが、地球の神の力が強すぎて拒めなかったらしい。


 で、ここからが肝心な話のようだ。


『この世界はまだ誕生したてで、転生者なんてのは当分招く予定ではなかったんだよ。

 そこへ君がやってきたわけだ。

 君は特に大きな力も与えられず、ごく平凡な能力でこの世界へ渡った。

 その所為で魂が何処へ飛んで行ったのか発見することができなかったんだ。

 それこそ全ての生き物に直接会って見ないと判断ができなかったんだよ。

 ただ、今朝になってようやく君を見つけたのだけど、想定してなかった事が起こってしまってね。』


 そこで話を区切った。


 ここまでの話を聞く限り、私は何も悪くない。

 それどころかある意味被害者じゃないだろうか。


「想定外の事って、なにがあったの?」


  含みをもたせなくていいから率直に教えてほしいんだけど。


『この世界が君の存在を受け入れてしまったんだ。』


 それってダメなの?

 逆に世界として異世界人を歓迎してくれたんじゃないの?


『僕は君がこの世界に影響を与える前に、魂の概念ごと君をこの世界に馴染ませようと思ってたんだ。

  異なる世界の魂が混在してしまうと、世界が異世界の理を認識してしまうんだ。

 わかりやすく言うと、赤い絵の具に青い絵の具を一滴垂らしたとしよう。

  混ぜ合わせると赤ではなくなるだろ?

 世界も同じさ、異世界の魂が混ざると全く別の物へと変わってしまう。

 だから、僕は君の魂がこの世界に混ざりきってしまう前に、君の魂をこの世界の色に変えようとしていたわけさ。』


 なるほど、伝えたいことはなんとなく理解できた。


「つまり、それが出来なかった・・・?」


『その通りだよ。

 それを行う前に、僕の存在に君の魂が共鳴してしまってね。

  君の魂が急速にこの世界に混ざり合ってしまったんだ。

  その時、君は大地が大きく脈打ったのを感じたはずだよ?』


  朝の地震のことかな?

 あれはそう言うことだったのか。

 勝手な解釈だけど、私の魂がこの世界に混ざり合ったために、この世界に溶け込んだ私だけがあの地震を感じたということなのだろうか。

 だから既にこの世界に存在していた村のみんなは何も感じなかった。


『さすがにこのタイミングで世界に混ざってしまうなんて、極小分の一程度の微かな確率だったから僕も切り捨ててたんだ。

  君を見つけることができた所まではよかったんだけどね。運が悪かったよ。』


 まさに微運。

 まさかここに来て私の微運がマイナスの方向に働いたなんてことはないわよね?

  いいえ、そもそも私は悪くない!

  絶対に被害者よ。


『で、森で君の魂に干渉を試みたんだけど、どうやら手遅れみたいだね。

 君も気づいてると思うけど、世界が君を受け入れると同時に君に能力を授けてしまっている。』


 あのスキルのことかな?

 【フォーチュン】と名付けたあのスキルの。

 思い出して少し悲しくなる。


『それだけじゃないんだよ。

 君が世界へ溶け込んで異世界を受け入れたことで、この世界は加速度的に変わりつつある。

  例えば生まれるはずの無かった新たな魔物が誕生したり、今までなかった理が生まれてくる。

  これはもう止めようがないんだ。』


 つまりはこの世界がそっくりそのまま違う世界に変わるということ?世界がまるごと異世界になるようなものかな?

 存在するはずのない亜人みたいなのが生まれたり、はたまた魔王が誕生して勇者が現れるような?

 突然変異の大天才が現れて急激に近未来化したりもするのだろうか?


 大変だなぁ・・・と、人ごとではないんだよね。

  私はもうこの世界にいるんだから。


「つまり、私にどうしろと?」


 私がこの世界に送られた経緯も、それによる影響も概要は理解できた。

 だけどこの神さまは私になんの用事があってこの話をするのだろうか。


『あまり身構えなくても大丈夫だよ。

 僕はこのことを君に伝えるために、君の前に現れただけだから。

  つまりは認識しておいて欲しかったんだよ。

 君自身には何の非もないことなんだけどね、無関係ではいられないだろうから。

 君がこの世界に波紋を産んだ。

  だから、君を中心に世界は変わり始めるだろう。

 そのことを伝えに来たんだよ。

 特殊な能力はいらないって言っていたけど、僕は定着してしまった魂に刻まれた能力を書き換えることなんてできないよ。

 無論、生まれる前の純粋な魂であれば可能なんだけどね。

 それに、君に宿ったその力は凄まじいものだと思うよ?

 今この世界の中心となっている場所で生まれた力だからね。』


  その言葉を聞いて、脱力感が全身を巡る。


 つまり、私は今の生活を続けていればいいと。

 ただし身の回りで何かは起こるということだ。

  私のスローライフは、これからも続いていくんだろうか?

 この話を聞く限りでは、私の周りでは奇想天外、摩訶不思議のオンパレードになりそうな予感しかしない。

  ふと巨木に目を移すと、それは巨大なフラグにしか見えなかった。


「あの、せめてスキル名は、なんとか表記を改名とかできないんでしょうか・・・」


 切実に、祈るように問う


『スキル名?』


 少しの静寂の後、言葉を濁しながら神は答えた。

『あぁ、ごめん。魂に刻まれちゃってるから無理だよ。大丈夫、スキルは優秀だと保証するよ。』


 今の間は何?

 誤魔化したわよね?

 なんか若干同情されたような気がする。

  いいわよ、呼び方はフォーチュンて決めたから。

 心なしか、ヒューと風が吹いたような気がした。


『あれ?なんかスキルがまた増えてるね。

 これも便利なスキルだから、また確認しとくといいよ。

 じゃぁ僕の目的は一通り達したから、そろそろ行くね。』


 じゃあね、と一言告げると目の前から光が消えていった。


 一方的に伝えるだけで、フォローとかは本当に何もないんですね。


 日が少し傾き始めた頃、私は庭で目を覚ました。

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