25話 旅の約束
クリュート村を出発してから四日後、ワタシたちは順調にテグナムの村へ近づいていた。
二日目の夜に一旦クリュート村へ帰り、各々の寝具を魔法で持ち運べないか試してみたのだが、【時空収納・間】と言う魔法で解決した。
要はサイズの大きい【時空収納・箱】である。
このお陰で旅がうんと楽になった。
私とリューネはベットを、レイルは布団をそれぞれ持ってきたのだ。
冒険者にはあるまじき快適な旅をして満喫している。
普通の冒険者が最初にぶち当たる障害は、生活環境の変化によるものが大きいと言ってもいい。
過酷なサバイバルで、いかに一日の疲れを取ることができるか。
始めのうちはこれが肝心なのだ。
だが、私たちのパーティーはその心配は皆無であった。
快適な簡易宿と、毎日のお風呂。
食事は保存食や自炊になるが、必要によって町で食べることもできる。
これが精神的な支えにもなっている。
そんなわけで、特にペースを落とすことなく進む事が出来ているのだ。
早ければ今日の夜か、明日の午前中には到着できそうだった。
昼ごはんを準備していると、突然魔物の叫び声が聞こえた。
『グオォォォォォォオオオオ!!!!!』
「助けてぇぇぇ!!!!」
それと同時に悲鳴が聞こえてくる。
私たちはすぐにその声の方へと向かった。
私はこの数日でリューネに教わった無属性魔法【身体強化・強】で身体を強化しその場を飛び出す。
リューネも私の後を追って飛び出した。
身体強化の使えないレイルは必死になって走って着いてくる。
この身体強化魔法は優れもので、身体の機能に合わせて動体視力や思考速度まで強化してくれた。
そのおかげで、高速移動でもしっかりと判断して動くことができる。
樹々の間をすり抜けて、すぐにそれを視界に捉えた。
七メートル近い巨大な蜘蛛の魔物が一人の子供を追いかけていたのだ。
子供は頭にニット帽を被り、ボロボロの衣服を着て逃げ回っている。
それを見て、私は躊躇なく魔法を発現した。
「【大地の咆哮】」
まずは確実な足止めだ。
この魔法は発動から効果が及ぶまでが早い、蜘蛛の魔物はそのまま押し潰されるように動かなくなった。
このままリューネに仕留めてもらいたいところだけど、村を出る前にした約束がある。
リューネをあてにせず、自分で仕留めるとしよう。
私たちが村を出る前日、リューネから言われていた事がある。
『旅に出る前に言っておくことがあるの。私は世界を見守る者であり、今回の目的は貴方の監視。
だから私は基本的に戦闘には参加しない。特に人間同士の争いには手を出すつもりは無いわ。
余り私の力をあてにせず戦闘行動を取って欲しいの。
もちろん、私の判断で助けることもあるだろけど、それでもなんとか貴方自身の力で乗り越えてね。』
世界へ影響を及ぼさない事象については、リューネは手を出さない。
それを思い出し、子供の救助に向かってもらう。
「リューネ、あの子をお願い!」
「任せて。」
リューネが子供を抱き抱えて跳躍する。
火の魔法では周りの森に影響を与えかねない、リューネ達が離れるのを確認して次の魔法を放つ。
「【暴風ノ斧】!」
超圧縮した風の刃が魔物を貫く。
魔物は魔法により両断され、少しの間足を動かそうと痙攣していた。
うげぇ・・・・
身体が両断されても動くとか、昆虫系ってこれだから嫌いだわ。
暫くして、魔物は少し大きめの核石を残して消えた。
魔物本体の大きさに比例するのか、それとも強さに比例して核石が大きくなるのかはよくわからないけど、とりあえず拾っておこう。
核石を拾い上げてリューネの元へ向かった。
リューネは保護した子供を落ち着かせるように抱きしめていた。
「おまたせ。キミ、大丈夫だった?」
私は子供の顔を覗き込む。
背格好から十歳前後だろうか、ニット帽からはみ出した綺麗な翡翠色の長い髪が泥だらけで汚れている。
着ている物も何処かで引っ掛けたのか所々破れてボロボロになっている。
ぱっと見は女の子の様だ。
その子は泣きながらこちらを見て
「助げでぐれで、ありがどぉ〜」
顔をぐずぐずにしながらそう言った。
「ミレリア〜、大丈夫かぁ〜!」
その頃ようやくレイルが追いついて、息を切れ切れ走ってきた。
「レイル遅いわよ〜。もう終わっちゃった。」
「いや・・・普通の人間にあのスピードは無理だ・・・」
レイルは私の理不尽な文句に、真面目に答えた。
全力疾走でやってきたのだろう、到着するや否や座り込んでしまった。
そんなレイルは少し休ませるとして...。
「貴方、お名前は?」
怖がらせない様に優しく聞く。
「シャルロッテ・・・です。」
フィレルも可愛いが、子供ってやっぱり可愛い。
前世では捻くれた様な子も多かったが、その点こちらは純粋な子が多くて安心する。
名前と声色からしてやはり女の子の様だ。
「そっか、私はミレリア。そこのお姉さんはリューネ、それでそっちにいるのがレイルよ。
シャルロッテはどうして魔物に追われてたの?」
私が聞くと、シャルロッテは黙り込んで下を向いた。
何か喋りたくない事情でもあるんだろうか?
無理矢理聞くのもどうかと思うし、この子が落ち着くまでしばらく様子を見るとしよう。
私たちは準備途中だったお昼ご飯を食べるため、先程居た休憩地点へと戻った。
レイルを無理に動かすのも可哀想なので、帰りは【時空飛翔】を使った。
リューネと精霊たちに頼んでお昼を準備してもらう間に、私はメルトクロードの町へ行ってくる事にした。
今まで手に入れた核石を売って、シャルロッテの服を調達するのだ。
見ず知らずの子だが、女の子があんなボロボロの服を着ているのは堪え難い。
核石は思ったよりも高額で売ることができた。
魔法で倒さなければ獲得できない為、それほど流通が多くない様だった。
ライトブルやゴブリン等から出た核石が五十三個、全部で大金貨二枚で売れた。
蜘蛛の魔物から出た少し大きめの核石は一つで大金貨一枚だった。
お金は硬貨が使われており、銅貨と大銅貨、銀貨と大銀貨、金貨と大金貨、白金貨の七種類だ。
価値は銅貨一枚が日本円の一円くらいの感覚だ。
各十枚毎に一つ上の硬貨と同じ価値になる。
なので、
銅貨 ・・・一円
大銅貨・・・十円
銀貨 ・・・百円
大銀貨・・・千円
金貨 ・・・一万円
大金貨・・・十万円
白金貨・・・百万円
となる。今回たった四日間の旅で三十万円も稼いだ訳だ。
これ、下手な仕事をするより全然儲かるんじゃないだろうか?
そのお金で子供服を二着買って、すぐにみんなの元へと戻った。
戻った頃には既にみんな食事が終わった所だったので、私は食事は後回しにしてシャルロッテの着替えを勧めた。
私は精霊化してるので、食事自体はする必要ないから全く苦ではないのだ。
それより、可愛い女の子の着せ替えができる方が心をくすぐる。
「シャルロッテ、まずは身体の汚れを落としましょう。」
そう言って、地の魔法でお風呂場を作り浴槽にはお湯を溜めた。
シャルロッテはキラキラした目でそれを見ていた。
そして私とリューネとシャルロッテの三人で中へ入る。
「レイル、覗いたりしたら怒るわよ。」
ないだろうが、レイルに念を押しておく。
「しないって!」
お風呂場へ入り、服を脱がせようとするとシャルロッテが嫌がった。
あら、お風呂は嫌いなんだろうか?
それとも裸になるのが恥ずかしいのか?
私が魔法を使わないとシャワーを浴びれないのだから、一緒に入らないとしっかり汚れを落とさないのだけど、困ったな。
「シャルロッテ、大丈夫よ。私たちは貴方の事何とも思わないから。」
リューネが優しく語り掛ける。
どういう意味だろうか?
「貴方、亜人よね?あんな所で魔物に追いかけられていたのも関係があるんじゃない?
私たちは貴方に何もしないから、安心してちょうだい。」
亜人だったのか、そうか。亜人・・・。
亜人!?
シャルロッテの為に声に出して驚く事を堪え、私は目を大きく見開きリューネを見つめる。
この姉さんは何故さも当然のようにこちらを見て頷いているんだろうか?
私の知識にこの世界に亜人の存在は無かったはずなのだが。
いつの間に亜人の存在が世界に溶け込んでいたのか、それは後でリューネに聞くとしよう。
それよりも、亜人に対する興味がどんどんと膨らんでいる私だった。
誤字が多かったので直しました!
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