20話 聖騎士という設定
「リューネ、一緒に来て!母を安心させる為に顔を見せるだけでいいから!」
「ちょっ、いきなりどうしたの、何のこと?」
《ゲート》で直接リューネの部屋に移動して、腕を引っ張る。
「落ち着いて、何のことか説明して頂戴。」
リューネは呆れ顔だ。
「旅に出る事は納得してもらったんだけど、母が一人旅って事を不安に思ってそうだったから、リューネも一緒だって教えて安心させるのよ。」
簡単に説明し、急いでいるアピールをして見せる。
「ん〜と、旅に出たいと言ったらお母さんが不安を抱いた。
それで、貴方のお母さんの不安を取り払うために、一緒について行けばいいの?」
私は大きく頷く。
「いきなり過ぎて驚くじゃない。
まぁいいわ、そういう事ならちょっと待ってて。
私にも準備って物があるの。」
リューネは一度自室に戻ると、見慣れない格好をして部屋から出てきた。
銀色の鎧に全身を包み、いつもの白いバンダナをしている。
腰には剣を差しており、女騎士と言う雰囲気であった。
だが、その鎧の胸の膨らみは大き過ぎではないだろうか?
私への嫌がらせか?
「じゃーん!どう、似合う?」
私の冷たい視線を物ともせず、その場でクルリと回ってポーズを取ってみせた。
鎧を着ていても何故こんなに威圧感がなく美人なんだ、本当に腹立たしい。
しかも何故か妙にしっくりくる。
「似合ってるけど、何その格好?」
わざわざ着替える必要があったのか?
少しでも私は闘えます的なアピールのためだろうか?
というか、何故そんなものを持っているんだ!
ツッコミどころはさて置いて、リューネは一枚のカードを手渡してきた。
「これが私の仮の姿よ。」
"ふふん"と腕を組んでこちらを見る。
渡された物をよく見ると、協会の登録証のようだ。
何々・・・
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(リューネ=ロズウェルド)
年齢:27歳
性別:女
クラス:A
レベル:87
職場:聖騎士
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何じゃこりゃ。
仮の姿って、ちゃっかり人間社会に馴染んじゃってるわけ!?
クラスAって、本当だろうか?
これ、SSなのを偽ってるんじゃない?
「あ、クラスとかレベルは目立ち過ぎないように適当に弄ってるわ。」
やっぱり。
だがそれよりも・・・
「クラスって弄れるの?!」
なんて事だ、それなら私だって変に注目せずに登録できたのに!
「私はこれでも神の使いみたいなものだから、それくらいは出来るわよ。
でも、他人のクラスとかを弄ったりはできないわよ?
魂に干渉して、擬似情報を植え付けなきゃいけないから。」
なんだ、どの道私には無理だったのか。
でもこれで納得した。どうりで協会への登録についてリューネが知識を持っているわけだ。
だが、母を安心させるには十分な相方に見えるだろう。
「そっか。まぁ、私の登録は終わっちゃったし、どの道手遅れだったからいいのだけど。
とりあえず、家まで着いてきてもらっていいかしら?
あと、貴方との関係は適当に口裏を合わせてもらえる?」
「構わないわ、さっそく行きましょう。
実はあんまり人の集落に顔を出さないからワクワクしてるの。」
落ち着きのない様子でリューネはニッコリと微笑んで、私の手を握った。
私は《ゲート》を開き、リューネを連れて家へと向かう。
「ただいま。」
リューネと共に先程まで居いた食卓へ戻ってきた。
食卓には父と母が座って私の帰りを待っていた。
「おかえり、その方がミレリアの言っていた人かい?」
先程驚かせ過ぎたのか、少し落ち着いている様子だ。
「えぇ、この人はリューネ。各国を旅して回っているそうなんだけど、以前偶然知り合ってね。
私と一緒に世界を回ってくれる事になったの。」
本当のことを言うと色々と面倒臭いので、適当にリューネの事を紹介する。
「初めまして。リューネ=ロズウェルドと申します。
今は訳あって各国を巡る旅をしておりますが、嘗ては東の王都クルムスカイにて聖騎士をしておりました。」
む、そんな設定なのか。
王都クルムスカイとはメルトクロードのさらに東にある王国である。
この世界は七つの聖都が存在し、その下に更に八つの国が属している。
クルムスカイ王国は聖都アラムに属しており、ここクリュート村はクルムスカイ王国の管理下にある。
七つの聖都が支配する土地には、時の精霊を除く七精霊の力がそれぞれ宿っている。
その精霊の力が一番強い場所にそれぞれの聖都が造られており、聖都アラムには火の精霊王が住まうと言われている。
また、聖都アラムに属する地域は火の精霊の力が強い。
そんなわけで、私の住んでいるこの地でも火の精霊の力は強まっているのだ。
そのおかげで火の魔法は本来よりも強力なものになっている。
なので、アラムに属する土地では鉱石などの熱処理による加工技術も発達しているし、武器や防具などの名産も多い。
父が出稼ぎに出るのも、需要が大きいこの地ならではだ。
おっと、話が逸れてしまった。
クルムスカイ王国の聖騎士という設定だったわね。
聖騎士とは国直属の騎士で、全員がクラスA以上の超エリートと聞いている。
そんな元聖騎士だった人が共に旅に出てくれるなら、十分に安心させられるはずだ。
「ご丁寧にどうも。ミレリアが相棒を連れてくるなんていうから、どんな人かと思ったのだけど。
元聖騎士様を連れてくるなんて、驚きました。でも貴方はとても優しそうな方で安心しました。」
母の受けは上々だ。
リューネの設定に感謝しなきゃ。
「だからお母さん、安心して?私はやっていけるから。」
母と二人、そのまましばらくお互いの目を見つめる。
「わかったわ。目の届かないところに行くのだから、安心しきるわけにはいかないけど。
それでも、貴方なら大丈夫と信じる事にする。
ちゃんと、顔を見せに帰って来なさいよ。」
母は仕方ないという表情で、目を逸らさずに答えてくれた。
「ありがとう。約束する。」
そして、私の旅立ちが両親の同意の上で決まった。
反対されても出て行くつもりではあったが、しっかりと向き合って話ができて良かったと思う。
「ところで、いつから出発するんだ?」
「え、今から?」
父に聞かれたが特に決めていなかった、流石に急すぎるかな?
「これから!?それは急すぎるだろう。村のみんなに挨拶もなく出発するつもりか!?」
そう言われればそうよね、
「じゃぁ、明日にする!」
父と母は溜息を漏らし、半ば呆れ顔で見つめてくる。
私は気にしない。
だって、一刻も早くあのスキルを変えたいから。
その後父は村長に話をしに行くと言って家を出て、母は荷物の準備を手伝ってくれる事になった。
もちろん、村のみんなには私の力のことを言わないで、とお願いをしておいた。