19話 父の不安
協会から出たその足で、私は真っ直ぐ家へと向かった。
父が帰ってきてまだ一日だが、決心の鈍らない内に二人を説得するのだ。
時刻は丁度昼に差し掛かるあたりで、二人とも家にいるはずだ。
登録証を愛用しているポーチに入れて帰宅した。
家に入ると母が昼食をテーブルへ並べていた。
台所には父が立っている。
今日は父が調理をしているようだ。
父は家にいるときはかなりの頻度で料理を作る。
普段家におらず、迷惑を掛けているからと進んで家事をしているのだ。
「ただいま。」
真っ直ぐ食卓に向かい、定位置へと座る。
「帰ったか、もうすぐ出来上がるから待っててくれ。」
「はーい。」
ジュウジュウと音を立てて、美味しいそうな匂いが広がっている。
テーブルには、サラダにスープ、肉と野菜の炒め物、食後のフルーツまで揃っている。
前世で見たことのあるような形の果物が多く存在するが、味には若干の差異がある。
リンゴと思って食べた物が、レモン風味で吐き出した事をよく覚えている。
色も型も全く違う物も多々あるが、味は基本的にどれも美味しい。
主食はお米が存在していた為、とてもありがたかった。
というか、これだけ作ってあれば十分なんだけど、まだ何か作っているのか。
今日の昼食も楽しみだ。
しばらくすると、父が最後の一皿を持ってきた。
骨つき肉を豪快に焼き上げ、ザ・肉!といった見た目だ。
上からタレと香辛料が振りかけられて、添えられたハーブが高級感を漂わせる。
「美味しそう!いただきます!」
出来立て熱々のお肉を豪快に頬張り、香ばしいスパイスの香りと肉の旨みが口の中一杯に広がる。
想像以上に美味しい。
「美味しい!」
「なら良かった。喉に詰まらすなよ?」
家族団欒を楽しみながら食事は続いた。
いつ話を切り出そうかと考えていると、あっという間にフルーツまで食べ終えてしまった。
「今回は心配をかけてすまなかったな。
同じことが無いように、俺ももう少し用心していくよ。」
話の切欠は父が作ってくれた。
「お父さんの所為じゃ無いわ。でも、これからは気をつけてね。
それと・・・私からも二人に話があるの。」
一拍置いて、私は自分の決意を告げた。
今回の事で感じた思い。
これからやっていきたい事など、とりとめもなく話をした。
一通り話し終えると、母が立ち上がる。
「何いってるの、貴方にそんな事出来るわけないじゃない。
それに・・・。」
「まぁ、待ちなさい。ミレリア、それはお前が決めた事なんだな?」
母の言葉を遮って、父が問う。
私は小さく頷いて父を見つめた。
「いつの間にか、大きくなったんだな。確かに、お前ももう立派な大人だ。これからは自分で考えて選んで行かなければいけない。
親として、勿論考え直して欲しい気持ちはある。
ただ、それをしてミレリアは納得して諦める事ができそうか?」
真剣に此方を見つめている。
「いいえ、もう決めたから。」
自分の決意を表す。
「一人でやっていけるのか?」
父の言葉を聞いて、私は先程手に入れた登録証をポーチから取り出し、そして父の前に置いた。
「今日、登録してきた。」
「なっ!?」
登録証を手に取り、それを見て父が驚きを表す。
「私は一人でもやっていける。」
更に母がそれを覗き込み、同様に驚愕した。
「な・・・貴方、これ本当!?」
実の娘があり得ない様な力を持っていれば、普通は驚くよね。
この反応は想像通りだ。
私はしてやったりとニヤケそうになるのを堪えて二人を説得する。
「あまり人に知られて騒がれたくなかったから黙ってたの。
お父さんやお母さんにも黙ってたことは申し訳ないって思ってる。
でも、私が世界を回ることを認めてほしい。
自分の力を少しでも役立つことに使いたいの。
村にも定期的に帰ってくるから。」
父と母はお互いに向き合って、父が答える。
「お前が一人でもやっていけることは分かった。
心苦しいが、ミレリアを諦めさせる方法は思いつかない。思う通りにやってみるといい。
でも、無理をするんじゃないぞ。」
登録証の効果は大きかったと思うが、父がこれほどすんなりと受け入れてくれるとは思わなかった。
「ありがとう。絶対に無理はしないし、ちゃんと帰ってくる。」
そして、心配そうな母を見つめる。
「それとね、旅って言っても一人旅の予定じゃないの。
相棒を連れてくるから少し待ってて。」
そう言って、二人の前で初めて魔法を使った。
リューネを連れてくるのだ。
それに、魔法を使える所を見せた方が少しは安心してもらえる気がした。
「ゲート」
ミレリアは《ゲート》を発現し、二人の前から消えた。
ミレリアが突然家から居なくなって、母が口を開く。
「本当に驚いたわ。いつの間にこんな事を出来るようになってたのかしら、全く知らなかった。
母親失格かしらね。」
「そんなことはないさ、君は十分やってくれているよ。俺も驚いたが、あの子の事を誇らしく思うよ。
俺たちは、無事を祈って見守っていよう。
だが相棒って、まさか男じゃないだろうな?」
ミレリアの言葉に、父は先程までと別の不安を抱いていた。