17話 認めて下さい!
リューネの元を後にして、一旦村へと戻った。
その足で協会へと向かう。
ステータスを自分で確認できるようになってからは、ほとんど縁のなかった場所だ。
まさか自分が冒険者の仲間入りをする事になろうとは、あの時は思いもしなかった。
協会は入り口が広いロビーとなっており、真ん中に大きな円卓がある。
それを囲うように丸椅子が並んでいる。
そこは冒険者達の情報交換の場でもあり、休憩場所でもあるらしいのだが、この村はそんなに頻繁に冒険者も来ない。
広い円卓が埋まるほどの人数はやってこないだろう。
円卓の右横の壁には依頼書が貼り付けてある。
平和な村だけあって、村自体からの依頼書は少ない。
協会本部からの依頼書が徐に貼り付けてあるくらいだ。
円卓の奥には受け付があり、昔と変わらない女性が座っている。
元々この村出身のイルタナさんだ。
真面目で優しいお姉ちゃんで、歳は確か二十五歳くらいだったと思う。
小柄な体に茶髪のショートカットがよく似合っている。
頭に被った協会マーク付きの帽子もなかなか似合っている。
ナース帽のような形状の帽子だ。
「イル姉、こんにちは。」
近づいて声をかける。
「ミレリアじゃない。今日はどうしたの?」
「冒険者登録をしようと思って。」
イル姉は首を傾げる。
「貴方が登録を?まぁ、登録するのは自由だけど、村を出るの?」
率直に聞かれたが、別にもう隠す必要もないので肯定する。
「貴方が冒険家業なんてやっていける?」
イル姉の意見は最もだが、説明するのも少しばかり面倒だ。
「まぁいいじゃない、登録証を作って親が納得しなかったら、その時また考えるから。
とにかく、登録だけはしておきたいのよ。」
早く登録を終わらせて、父と母を説得してしまいたい。
もし納得されなかったら、それこそ別の理由を作らなければならないからだ。
「わかった。私が出しゃ張る事ではないし・・・はいこれ、登録申請書。あと、ステータスの記入用紙よ。
あっちでステータスを確認して、必要事項を記入してね。
クラスとレベルは必須。職業はパーティーを組む時の目安になるから、これも必須よ。
その他の項目は記入してくれれば反映させるけど、人に知られたくないようなスキルやステータスは記入しなくても大丈夫よ。
後で確認するから、嘘はかかないでね。」
そう説明して、二枚の紙を手渡してくれた。
リューネの説明の通り、ほとんど記入する必要がなかった。
これだけで救いを感じる。
わたしは用紙を受け取ると、ステータスの必要事項のみを書き写した。
申請書類を書き終わり、イル姉に提出する。
―――――――――――――――――――――
(ミレリア=ファレノイア)
年齢:18歳
性別:女
クラス:SS
レベル:18
称号:
体力:
精神力:
魔力:
攻撃力:
防御力:
習得魔法:
スキル:
潜在スキル:
総合:
――――――――――――――――――――
ほとんど空白だがこれで本当に大丈夫なのだほうか?
職業欄にはとりあえず魔導師と記入しておいた。
書類を見たイル姉がため息を吐いてわたしを見つめる。
「ミレリア、嘘は書かないでって言ったわよね?私をからかいに来たの?」
ですよね、その反応が普通ですとも。
私でもそう思うもの。
でも、本当なのよ!
「イル姉、嘘は書いてないわよ。隠したいところを隠したら、そうなったのよ。」
「そんな言い訳通用すると思ってるの?」
どうすればいいのだろうか、ステータスは絶対に見せたくはないのだけど。
「じゃぁイル姉が確認してよ。でも、隠してるとこは見られてたくないんだけど。特にスキル関係は。」
スキルさえ見られなければなんてことはないのだけど。
この申請様式を採用しているのなら、必要なものだけを確認する方法もあるはずだ。
「じゃあステータスを見せてもらうわよ。貴方が見られたくないステータスのみ隠すことも出来るわ。
こっちに着いて来て。」
受付の奥へと案内された。
扉を開けると小さな部屋があり、真ん中には正六面体に加工されたガラス細工の様な物が一つ置かれていた。
「これは昔のステータス確認用の水晶よ、今の水晶と同じ様なものだけど、ステータスを一つづつしか表示できないの。
一括で確認できる今の水晶が主流になってから使われることがなかったんだけど、最近は貴方の様に見せたがらない人も増えていてね。
そんな人のために置いているの。
試しに、両手を当ててレベルを表示する様に念じてみて?
上部に表示されるわ。」
言われた通りに念じてみると、確かに水晶の上部にステータスが浮かんだ。
レベル:18
「本当だ、レベルしか表示されないわ。」
「じゃぁ確認するわよ、クラスを見せてちょうだい。」
イル姉に言われて、クラスを表示する様念じる。
すると、レベルと同じようにクラスが表示された。
クラス:SS
正常に表示されてよかった。
古くて不具合とかでたらどうしようかと思った。
「ね?嘘じゃないでしょ?」
カランと乾いた音が聞こえて振り向くと、イル姉が立ったまま固まっていた。
どうやら驚きを通り越して気絶しているようだ。
イル姉、最高のリアクションをありがとう!
でもね、ちゃんと認めてね?
じゃないと私、冒険者登録できないから。
「おーい、イル姉〜。起きてる〜?」
目の前で手を振ってみたり、肩を揺すってみる。
数秒後にイル姉は意識を取り戻した。
「どういうことよ!?」
どうと言われても説明のし様が無いし、したくも無いし。
「まぁ、そういうことよ。」
イル姉は言葉を失ったまま此方を見つめて、それから申請書類を眺めている。
何か考え込む様な顔をした後、私をロビーで待つように指示をして別室へと向かっていった。
イル姉に言われてロビーの円卓へ腰掛けて待っていると、イル姉がガタイの良い男性と歩いて来た。
腰に剣を携えて、如何にも騎士という風貌の男だ。
三十代前半くらいだろうか、何処か強そうな雰囲気を醸し出している。
「この娘か?」
男がイル姉に話しかける。
「はい。」
イル姉がそう答えると、男は此方を向き直した。
「はじめまして、私はクロイツ・ロックフォードと言う。今年この協会の支部長をしている者だ。
イルタナから君のことを聞いてね、少々挨拶に来させてもらったんだ。
ここじゃなんだし、奥へ行こうか。」
ここの支部長って、こんな人だったのか。
毎年協会本部から交代で支部長が来るって聞いた事がある。
こんなど田舎の支部長なんて、好き好んでやる人もいないと言うことかな?
ある程度の実力を持った人が入れ替わりで役を任されているんだろう。
私はクロイツ支部長に案内されて、奥の応接へと招かれた。
村には不釣り合いの豪華なソファーとテーブルが置かれており、雰囲気に飲まれそうになる。
イル姉もわざわざ支部長なんて呼んでこなくてよかったのに。
私はさっさと登録だけして帰りたいのだが。
ソファーへと案内され、私は腰を下ろした。
クロイツ支部長が目の前に座り、徐に話し始める。
「イルタナに聞かされて驚いたが、君はクラスSSらしいじゃないか、俄かには信じられないが。」
やっぱりそう言う話か。
なんとなくはわかってたけど、この人を認めさせないといけないのだろうか。
「なんならクロイツさんも確認されますか?」
「いや、別にイルタナや君を信用していないわけじゃない。何故、そんな才能を持った者が今まで表にでてこなかったか疑問でね。
あとは、認めきれないってところだろうか。
君は、君と同じクラスの者がどれほどいるか知っているかな?」
唐突な質問だが、クラスSSの人数か。
考えたこともなかったな。
実際世界が変わる前にはクラスSでさえ数えるほどしかいないと聞いていた気がする。
SSとなると更に少ないだろうし。
「二、三人くらいですか?」
わからないから適当だが、もうちょっといるのかな?
クロイツ支部長は一息置いて答えた。
「いや、そのクラスはまだ前人未踏だよ。魔法やスキルの概念がステータスに取り入れられ、届くかわからない仮想の数値として存在するのがクラスSSだ。
君の言う二、三人とはクラスSの人数さ。
かく言う私もクラスはAだからね。」
・・・・・・・・・。
なんだかちょっとやってしまった感が凄いんですけど。
なんでリューネは止めてくれなかったの!?
唯一のクラスSSなんて目立っちゃうじゃない!
あ、ここは何とか支部長権限で情報をねつ造してもらったりできないだろうか?
「私は冒険者登録をしたいだけなんですけど、なんと低いクラスでもいいので登録できないでしょうか?なるべく普通に冒険者をやっていきたいんですが。」
私の問いに支部長が考え込む様なポーズを取る。
「登録は問題ないんだ、事実をありのまま登録する。何せ登録証を偽ると私が処罰されてしまうからね。
登録証自体、偽りの記録ができないようプロテクトがかかっている。
登録する際に本人の魔力を注ぐ事で、差異がないかを確認するんだ。
だから、今回の様に協会側が直接ステータスを確認する場合って言うのはごく稀なんだ。
だが、普通に冒険者をするってのは難しいかもしれんな。
登録証の確認が必要な場面では大騒ぎになるだろう。」
支部長の話を聞いて、私は深いため息を吐いた。
また一つ、面倒事が増えた様だ。
いつもありがとうございます!
明日、明後日は時間次第で一話くらい多めに投稿出来るようにしたいと思います。