16話 監視者
"水を汲みに行ってくる"と答えを有耶無耶にして、レイルの元を去った後家の自室へと戻った。
鏡を見て、昨晩お風呂に入っていない事を思い出す。
こんな姿で出歩いていたのかと恥ずかしく思い、すぐに浴室へと向かった。
この村でのお風呂は勿論薪をくべる必要があるが、私には魔法という物がある。
水と火の魔法を応用してシャワーを浴びる事が出来るのだ。
綺麗さっぱり体の汚れを落とし、服を着替える。
仕上げに風魔法で髪を乾かして出来上がり。
いやー、魔法って本当便利。
異世界最高。
その後いつもの様に水を汲みに行き、朝食をとってリューネの元へと向かった。
久しぶりのサクタスの山だ。
移動は勿論魔法を使った。
前にクロノア達が使ってくれた光と闇と時の併用魔法である。
一瞬でリューネの家の前まで到着した。
リューネの家のドアをノックする。
"はーい"と声がしてリューネが出迎えてくれた。
「久しぶりねミレリア。待ち侘びたわよ。」
「久しぶり、リューネ。相変わらずの美人で羨ましいわ。
貴方に少し相談があって来たの。」
軽く挨拶を交わしてリューネが家へと招きいれてくれた。
久しぶりにリューネの家に来たが、何も変わっていない。
リューネに促されて椅子に腰掛けた。
前来た時と同じように、コロンの実から作ったチョコレートミルクを出してくれた。
久しぶりに飲んだけど、やっぱ美味しい。
「リューネ、私が来ることわかってた?」
再開したときに、あまりに落ち着いていたのを疑問に思って聞いてみる。
「そりゃぁ、貴方みたいな力を持った人が来れば分かるわよ。
貴方は気づいてないみたいだけど、ここには他者を寄せ付けない幻惑の結界が貼ってあるから、中に入ってくれば直ぐに感知できるの。」
「へー、そうなんだ。」
暫く些細な雑談を交わしてから、私の選択やレイルの事について相談した。
話を聞き終えて、リューネが口を開く。
「一緒に旅をしても良いんじゃない?だって、両思いなんて素敵よ。
貴方は後の事ばかりを考え過ぎなのよ、いっそのこと全てを話しちゃって今を楽しんだら?」
簡単に言ってくれるわね、他人事だと思って。
そりゃぁ私だって、一緒に旅をするのは嬉しいけど...。
どうしても失った時の事を考えてしまう。
私が黙って考えていると、リューネは再び口を開いた。
「難しく考え過ぎよ、貴方が大切なモノを失いたくないって気持ちはよく分かるわ。でもね、貴方が目を背けていてもそれはいずれ無くなるの。
大切なモノから目を背けないで、貴方が望みその彼が望んでいる事なら、少なくともお互いの今を幸せに過ごすために必要な選択は、言わなくても分かるわよね?」
それを聞いて、何故だか安堵した。
結局の所、私は誰かに後押しをして欲しかっただけなのかもしれない。
リューネの言葉で気持ちが楽になった。
レイルとの距離をどこまで縮めるかなんてことは、時間をかけて考えればいい。
共に旅をするのなら、その答えも見えてくるかもしれない。
一人では気づけない事だってあるかもしれない。
「ありがとう、気持ちの整理ができそう。ちょっと極端に考え過ぎてたみたいね。
突き放すんじゃなくて、もう少し時間をかけてでも、向き合ってみる。」
焦らずゆっくり、前向きになってみよう。
「そうそう。少しは落ち着いて考えてみるものよ。
それに、話を聞く限りそのレイルって子なら貴方のそのスキルの事なんて気にしないんじゃない?
・・・・・っぷ・・・。」
あからさまに笑いを堪えた表情で下を向くリューネ。
というか、堪えきれてないんですけど。
「絶対バカにしてるでしょ!それが嫌なのよ。大体なんでリューネまでスキルのこと知ってるの?
スキルの名前は神さましか知らないと思ってたのに!」
「ごめんね〜、私もそういうの見えちゃうのよね。」
神さまはそこまで露骨にディスったりしなかったのに、この人はあからさま過ぎる。
私が一番気にしていることを...。
はやく解決してしまいたい。
レイルには、いえ、他人には絶対にステータスを見せない!
私は強く決意した。そして、暫く不貞腐れていた。
「ごめんなさい、バカにするつもりは無いのよ?ただ、ちょっと面白くて...。っぷ。」
もういいや、疲れるだけだ。
この屈辱はその内晴らしてやる。
「まぁそれはこのくらいにして、これからどうしていくのかは決まったのかしら?」
リューネが話を切り替える。
なんだか納得はいかないが、この話題に触れていたくもないので話を合わせることにする。
「私は村を出ることにしたわ。レイルが本当に一緒に行くというなら、彼には全てを話そうかと思ってる。
世界を巡って、私が守れるだけでいいから弱い者達の手を取りたいと思ってる。
何か目的がないと、生き続けていく自信もないし。」
まぁ、レイルにもスキルの事だけは話さないけどね。
あとは父と母をどう説得するか。
これについては多少の考えがあるのでやるだけやってみよう。
「そう、貴方の決意はわかったわ。
創造神ロウェルへは私から伝えておくわ。
あと、その旅には私も着いていく事になるからそのつもりでね。」
あの神様ロウェルって名前だったんだ。知らなかった。
それよりリューネが着いて来る?
「着いて来るってどういう事?」
「ロウェル様との決めたことなの。貴方には悪いけど監視役と思ってちょうだい。
今この世界で一番危険な存在は貴方なの。もし貴方が力を暴走させるような事があった場合のストッパーよ。
世界を監視するのは他の三人でなんとかなるわ。
だから、私は貴方を側で見守ることにしたの。」
何か執行猶予期間中の罪人の様だな。
でもリューネ達の考えも分からなくもないから、反応し難い。
私自身、私がどうなるのかわからない。
心強い味方が出来たと思えば気持ちも楽かな?
「わかった。じゃぁ、よろしくね。」
これからの方向性は固まった。
後は準備していくだけだ。
まずは父と母の説得だ。
何も準備せずに行けば間違いなく反対されるだろう。
一人でも生きていける証明をしなければならない。
手っ取り早いのは協会に登録して、冒険者となるのが良い。
だけど協会に登録するにはステータスを見せる必要があるのよね。
「リューネ、協会にステータスを見せなくても登録できる方法とかしらない?」
人との付き合いがないリューネには難しい質問だとは思うが、これでも世界を見守っている存在だし何か知らないだろうか?
「今頃の協会は貴方が気にしている部分のステータスは見せなくても良いと思うわよ?
何だかんだ最近は守秘義務を尊重する冒険者も増えたみたいで、クラスとレベルだけでよかったと思うわよ?
後は職業も提示する必要があるわね。」
ダメ元で聴いてみたが、なんて物知りなリューネさん。
しかもこの上ない程私に都合がいい。
守秘義務万歳!だ。
「本当に!?それなら登録できるじゃない!」
私は浮かれて舞い上がった。
それを見て、リューネがクスクスと笑っている。
「あ、また私のことバカにしたでしょ!」
気づかないとでも思ったの?
私はこう見えて、そういうのは敏感なのよ!
「ち、違うわよ。貴方のはしゃいでる姿が可愛かったからつい。」
「子供扱いしないでよ!これでももう十八よ!?」
「あら、私から見たから赤ちゃんみたいな者じゃない。」
そういえばこの姉ちゃん、6500歳オーバーだった。
「リューネばぁちゃんじゃない・・・」
聞こえない程度の声で呟く。
"ん?"とリューネが首を傾げると、そこからとてつもない殺気のような何かを感じたり身体を縮めて全力で首を振る。
「なんでもないです、お姉様。」
リューネをからかうのはやめよう。
そう心に誓ったのだった。