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12話 不幸の女神

 男の名前はヴリーズ・ベルクハルトといった。

 貿易都市メルトクロードの中でも五指に入るほどの大商人である。

 元は行商を営んでいた彼だが、持ち前の話術とずば抜けた金に対する嗅覚をで、その勢力を瞬く間に拡大させていった。

 実際、たった三年間という短い歳月でメルトクロードでも屈指の経営者となったのだ。


 物の物流を見極めて必要な商品を揃え、他の追従を許さぬ手腕で富を築いてきた。

 彼は人々の需要の見極めを肝として、長く商売を続けていた。

 人当たりも良く、従業員の事を第一に考えたその運営方針に多くの部下が信頼を寄せていた。

 しかし、そんな彼を悲劇が襲い、彼の性格は一変してしまう。


 最愛の妻と娘が、財産のほとんどを持って部下の一人と行方を眩ましたのだ。

 彼は嘆き苦しんだが、それでも他の部下達の生活のを思って身を粉にして働いた。

 数年後、彼は新しい販路の開拓へと自ら行商に乗り出した街で、行方を眩ました妻と娘を見つけたのだ。

 彼が身を潜めて後をつけると、そこには妻達と同じくして行方を眩ませた部下が店を営んでいた。

 豪華な屋敷を構えて。

 よく見ると今働いている部下達も数人、彼等と親しげに話をしている。


 彼は自分の店に戻り、疑いを持って帳簿を照合すると言葉を失った。

 不自然な金の動きが多々存在したのだ。

 行方を眩ませた部下は、今居る部下達と共同し自分の資産を横領していたのである。

 この時、彼の中で何かが崩れ落ちた。

 彼は金に物を言わせて全ての関係者を処分した。

 無論、自分を裏切った妻や娘も同様であった。


 この時から、彼は他人を全く信用しなくなった。

 需要の見極めから、人の見極めと切り捨てを重点し始めたのもこの頃からだ。

 それからと言うもの、金の管理も全て自分で行い、不要な物は切り捨ててきた。

 信じられるのは金だけであり、部下も金に忠実な物を集めた。

 汚い仕事にも手を染める様になったし、そんな事に何も感じない様になっていた。

 

 先日も、飽きもせず村から鉱石を売りにきた一団と交渉をしたが、すでに需要が無くなりつつある物をしつこく売りに来るので、付き合いを終わらせる為に普段より多めに値切ってやったところだ。

 するとどうだ、諦めて帰ったかと思ったら一人の男が頭を下げて買取を懇願してくるではないか。

 元々買い取るつもりは毛頭なかったが、利用できると思いこの男を人質と取る事を思いついた。


 簡単な話だ、交渉に応じなかった自分に男が暴力で訴えてきたとでも言って、タダ同然で鉱石を手に入れるのだ。

 あと数日もすれば男の村の代表がやってくるだろう。

 村が出せるギリギリのところまで金をせしめてやればいい。


 そんな事を考えながら、自室でタバコを吸って寛いでいた。



 そこへ通信用の水晶から音声が入ってきた。


「大変です大旦那、侵入です!」


 どうやら屋敷の門番の詰め所からの様だ。


「何だと?さっさと始末してしまえ!お前は何をしておったのだ!」


 ヴリーズは苛立った。


 何のために金を払って雇っていると言うのだ、役立たずめ。

 まぁいい、無断で屋敷に入れば生きて出る事はないだろう。

 念のため、ここへも人を配置しておこう。

 こんな時のために、優秀な魔法使いを雇っているのだからな。


 ヴリーズは部屋へ雇っていた魔法使い四人を呼び出し、侵入者を確認したら始末する様に命じた。


 屋敷の中から悲鳴と怒号が聞こえてくる。

 もしかしたら本当にここまでたどり着くかもしれない。

 そう思っていると、廊下から足音が近づいてくる。

 身構えたヴリーズの前で、扉が焼け落ちて人が通れるほどの穴が空いた。


 その隙間から、一人の少女の姿が伺える。

 少女は長く伸びた髪に、楚々とした整った顔立ちをしているがどこか幼さを残している。

 年にして十五、六歳くらいだろう。

 ヴリーズはその少女の表情を見て、背筋に冷たい物が疾った。


 何だこの娘は、この俺が気圧されているとでも言うのか。

 こんな餓鬼に!


「やれ!お前たち!」


 ヴリーズは声を張り上げて魔法使い達に攻撃を支持した。

 四人の魔法が少女に命中し、火と水魔法の影響で煙幕が生じた。

 そして少女は風の刃で切り裂かれ、鉄の腕に押し潰された。


 ふん、何の抵抗もできぬまま死んだではないか。

 一瞬でも気圧されたと思った自分が恥ずかしいわ。


 煙が晴れるにつれて、ヴリーズは目を見開いて固まった。

 殺したと思った少女が何事もなかったかの様に、無傷でその場に立っていたのだ。

 信じられない光景に、驚き戸惑う。


「お前は何者だ!」


 思うように動かぬ体に鞭を打つように、恐怖に顔を引きつらせながらも声を張り上げた。


「私は、貴方に不幸を届けにきたの。」


 少女は無表情のまま口元に笑みを浮かべて、女神の様に落ち着いた口調で呟いた。

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