11話 怒りの炎
ヴリーズの自分勝手で理不尽な行動に、私の堪忍袋は既に張り裂けんばかりに膨れ上がっている。
怒りの炎に身を包まれた様な気持ちになり、それを意識すると魔法を発現する為のワードが頭に流れ込んできた。
その言葉を躊躇なく呟く様に発言する。
『オーラフレイム』
ジリジリと、私の身体を灼熱の火の魔力が覆い尽くす。
私の怒りを体現しているかのごとく、包み込む様に赤い光が揺らめいた。
「おい、返事しろよ。」
黙って怒りを燃やしていた私の腕を、門番の一人が掴もうと手を伸ばしてきた。
すると、門番の腕は私へ触れる直前で燃え上がり、赤い光に触れた部分が炭となって崩れ落ちた。
「はへっ?」
「な...。」
片腕の手首から先がなくなった門番は、驚愕の声をあげ、もう一人は言葉をなくした。
「ぎぃやぁぁああああああ!!」
自分に起こったことを認識して、腕のなくなった門番が悲鳴をあげた。
「な、なんなんだ。お前、何をした!それに、何故さっきと姿が変わっているんだ!?」
もう一人の門番が後退りながら言葉を絞り出した。
どうやら今の魔法の影響で幻惑魔法が解けてしまったようだ。
だが、そんな事は構わず無言のまま歩み始める。
門番は剣を抜き、私を切りつけた。
しかし、その剣は私に届く前に溶け落ちる。
それを見るや、門番は腰を抜かして逃げ出した。
私は止まることなくヴリーズの屋敷へと歩みを進めた。
わたしが認識する足元以外の物体は、私が近づいて行くだけで焼け崩れる。
鉄格子の門も人型に溶け落ちた。
そのまま玄関をすり抜けて屋敷へと入る。
三階建ての広い屋敷の中で、ヴリーズの元へと向かう。
これだけ広い屋敷なので、すんなりと探し出すのは難しいかもしれないが私にそれは当てはまらない。
幸運を用いれば容易いだろう。
それにこういう屋敷に住んでいる輩は、大体最上階にいると相場は決まっている。
私はヴリーズと相対するべく、幸運を唱えて三階へと歩みを進めた。
屋敷へ入ると直ぐに騒がしくなった。
ヴリーズの配下と思われるゴロツキ達が私を見つけて襲いかかってくるのだ。
しかし、その悉くは私に触れることすら出来きないでいる。
在るものは焼け落ちた剣を見て戦意を失い、また在るものは自らの腕を失って声をあげた。
その全てを何もなかったかの様に、私は歩みを進めた。
三階にある廊下の中央に、大きな扉を見つけた。
ここは主人の部屋だとばかりに、扉には細かい金の装飾が施してあった。
「ここね。」
躊躇せず、怒りに身を任せて部屋へと押し入った。
扉は金の装飾もろとも焼け崩れる、そこに部屋へと通ずる穴がぽっかりと空いた。
部屋の中を見渡すと、窓側に置かれた机の側に五人の人間が並んで立っていた。
中央に着飾った男が一人。それを挟む様にロープを羽織った男が四人。
「やれ!お前たち!」
私がそれを見つけると同時に、中央にいる男が叫んだ。
男の言葉を切掛に、残りの四人が私に向けて魔法を発現した。
『ウインドカッター!』
『スプラッシュストーム!』
『フレイムバースト!』
『アイアンクラッシュ!』
人に魔法を向けられたのは初めてだったが、込められた魔力から、私には効果を成さない事を悟る。
私は避ける事もなく、五人を観察した。
身を切る様な風の刃は私の纏う火の魔力をより激しく燃え上がらせて消滅し、打ち付ける水の塊は蒸発して消えていった。
私を包むように出現した火の魔法は私の纏う魔法によって完全に無効化され、地の魔法で出現した巨大な鉄の腕は私に触れる前に溶け落ちた。
蒸発した水魔法の煙幕が晴れて、無傷の私を見た五人は驚愕の表情で顔を固める。
おそらく中央の男がヴリーズという商人だろう。
身体中に金のアクセサリーを纏って、如何にも悪人という顔である。
「お前は何者だ!?」
恐怖の表情を浮かべながら、ヴリーズが叫んだ。