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9話 焦る思い

 リューネから選択迫られて二年の月日が経ち、私は十八歳になった。


 不老と言われたが幸いにも髪は伸びるようで、髪型を変える事で少しでも成長が止まった事を隠している。


 あの頃は肩より少し長い程度の髪に、垂らしていた前髪を後ろへ撫でてピンで留めていた。

 今では腰まで届く長い髪を、ハーフアップで纏めている。


 残念ながら成長するのは髪の毛だけで、肉体は特に変化がなかった事だ。

 身長はある程度伸びきっていたと思うが、顔にはまだ何処と無く幼さが残っていると思う。

 最も、私の精神にダメージを与えたのは、リューネの様には膨らみ切らなかった胸のことだったのだが。

 Cぐらいはあるだろうが、これ以上は望めないのだ...。



 私はまだ、選択を決めかねていた。

 私に起こった事は事実として受け入れる事が出来たのだが、目の前に出された選択だけは、面と向かって向き合う事が出来ていない。

 変わらない日常のやり取りを、二年間続けてきたのだった。


 私はいつもの様に目覚めてベットから抜け出ると、水を汲みにレス湖へと向かった。

 その途中、朝稽古で剣の素振りをするレイルと出会い挨拶を交わす。

 レイルも二十歳を迎えて、村長の跡を継ぐ為に日々鍛錬を行う様になっていた。

 昨年村長が病で倒れて、レイルの父親に長の座を譲ったのだ。

 レイルの姿勢が変わったのはその頃からだ。


 水を汲み家に戻っている途中で、早馬が一頭レイルの家の方へと駆けて行った。

 これが私の選択を決意する切欠に為ろうとは、この時は知る由もなかった。



 家へ帰ると、これまたいつもの様に母が朝食を並べていた。

 父はあいも変わらず、家族の為に炭鉱へと足を運んでいる。

 先日二日ほど家に滞在し、町の商人へと鉱石を売りに行ったのだ。

 なので、今日も母と二人で静かな朝食を取る。

 朝食を食べ始めてすぐ、ドンドンと玄関を叩く音がした。


「はーい。今いきまーす。」


 母が玄関へと向かった。

 母が戸を開けるのを食卓から覗いていると、レイルの父親である村長が立っているのが見えた。


「ミレリア、ちょっと村長の家に行ってくるから一人で食べてて頂戴。」


 私が"わかった"と答えると、母はそそくさと出て行った。

 こんな朝早くから、一体何なのだろう?

 私は朝食をすませて、自分の食器を汲んできた水で洗った後、母の帰りを待った。

 小一時間程経った頃、母が帰ってきた。



 母の様子がおかしい、顔を涙で腫らしているのだ。


「何があったの!?」


 驚いて直ぐに母の元へと駆け寄った。


「お父さんが...お父さんが......。」

 

 そう言って母は私に抱きついた。


「お父さんに何かあったの!?」


 母のこんな姿は初めて見る。

 いつも優しく、明るい母が私に泣き付いてくるなんて。

 嫌な想像がどうしても頭を埋め尽くそうとする。

 少しして、母は私の顔を見ながら必死で語り出した。


「お父さんが、取引先の商人に捕まったらしいわ。詳しい事情を聞いて、これから村長が町へ向かってくれるらしいの。」


 取引先の商人に捕まったって、何があったんだ?

 母に詳しく話を聞こうと思ったが、泣きつく母を見るとどうしても聞くことができない。


「大丈夫よ、だってお父さんよ?あんなに逞しくて誠実な人なんだから、きっと笑顔で戻ってくるわよ。」


 しばらく母を宥めて落ち着かせ、私は家を後にした。

 詳しく事情を聞く為にレイルの家に向かったのだ。


 レイルの家てま、5人の村人と村長が、馬にまたがって出発の準備していた。

 その中にレイルの姿もある。


「レイル!」


 私が叫ぶと、レイルが馬から降りて駆け寄ってきた。


「ミレリア、聞いたのか。」

「ええ、何があったのか詳しく教えて。」


 レイルは一瞬目を逸らした後、状況を説明した。


「いつも鉱石を買い取っていた商人が、金欲しさに難癖つけて原価を大幅に下げやがったらしいんだ。

 それでお前の親父さんが抗議をしに行ったそうなんだが、どうやらそのまま戻ってこないらしくてな。

 不審に思って様子を見に行った他の人達は、そんな奴は来てないと門前払いされたそうだ。

 加えて、これ以上何か話をしたいのなら村長でも連れて来いって馬鹿なこと言い出したらしい。」


 私は血の気が引いていくのを感じて、一歩後ずさる。


「田舎の村だと思って舐めているんだろうが許せん。だから、これから俺と親父が行って話をつけてくる。」


 父がどうなったのか、今どうしているのかを考えると少しずつ涙が溢れて視界がボヤける。

 心の中で父の無事を祈り、何度も幸運を唱えた。

 そんな私を、レイルはそっと抱き寄せて呟く。


「必ず俺が連れて帰るから、お前は安心して待っていてくれ。」


 そう言って、村長達と共に町へと向かっていった。




 私はしばらく立ち尽くしていたが、少しして冷静さを取り戻す。

 私もいつまでも泣いてはいられない。

 幸運がどれだけ役に立っているのかもわからない。

 今の私なら何とかできると思うと、居ても立っても居られず町へと向かう決心をした。


 家に帰り、誕生日に父から貰った護身用の短剣を持ちだした。

 娘の誕生日プレゼントとしてどうかとは思ったが。


「俺が居ない時に何かあっても、コイツを持ってれば大丈夫だ。」


 と、頭を撫でながら言ってくれた。

 あまり家に居ない父が、考えた末で贈ってくれた物だった。

 あの時私は、父の不器用さと優しさの両方を感じた事を覚えている。


 こんな時に昔の事を思い出すなんて、縁起が悪いわね。

 私も早く行かなきゃ。

 不安を振り払って前を向く。

 隣町には行ったことがないから、転移魔法は使えない。

 馬では二日も掛かってしまうし、どうにかしてすぐに移動ができないだろうか。


 そう考えて精霊を呼び出した。


「風魔法で、空を飛んで...行けるよ......。」

 

 今日も眠そうなシルフィーが、瞼を擦りながら教えてくれた。

 私は直ぐに空を飛ぶイメージを固めて、全身に魔力を巡らせて発現した。


『フライハイ』


 身体が地面からふわりと浮き上がり、そのまま目的地を目指して飛び出した。

 この二年間で魔法の使い方も上手くなった。

 大抵のことはイメージさえ沸けば可能となったのだ。


 焦る気持ちを抑えて、私は隣町のメルトクロードへと向かった。

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