記録.8 チュートリアルのおわりかた
農場を作り直し、麦などを植えたあの日からしばらくが経ち収穫の時期を迎えていた。牛舎では安定して牛乳が取れるようになった。食物も増えていき、食生活に彩りが増えていた。
つまりこれは、チュートリアルクリアということだろう。
「なあ、リコル。こんなんでよかったのか?」
「ええ、これで大丈夫だと思います!」
リコルは笑顔でこちらを見ている。
「そっか、終わったんだな。ほとんど何もしていない気がするけど」
「いえ、そんなことないですよ。街が以前よりも明るくなっているじゃないですか」
「そう言ってもらえると助かるかな」
俺は何もしていない。街の住人たちが自分たちで掴み取ったものなのだ。
そして、今日は収穫祭だ。街は盛り上がりを見せている。なんといっても初めての収穫祭だからな。
「今日は思いっきり楽しむか!」
「はい!」
リコルのテンションがいつもより高い。
口にはあまり出さないがかなりはしゃいでいるのだろう。
「すごいな」
雰囲気に圧倒された。初めて街の市場へ行った時とはまるで違う街のようだ。
あの時食べた豚串のようなものも売っていた。
「リコル、あれ食べないか?」
「あ、いいですね!この街に初めて来たときのことを思い出します」
リコルも覚えていたようだ。とはいえまだ1年しか経っていないのだが、この街の住人の力は計り知れないものがある。
その後も二人で祭りをまわった。
気がついた頃には日は暮れていて街灯に火が灯っている。それがなんとも幻想的に見える。
そろそろあれの時間だ。
「なあ、リコル高いところに行かないか?」
「はい、いいですけど……」
なんで?と言った表情をしている。
国の資金から、住民へサプライズとして1万発の花火が用意された。このことを知っているのは提案した俺とエドワードそして、作った人くらいだろう。
そして、時間となった。
「さあ、始まるぞ」
その言葉の直後に夜空へ大きな花火が打ち上げられた。
こんなにしっかりと花火を見るのは子供の頃以来かもしれない。
「キレイ、ですね」
リコルはそう呟きながら花火を見つめていた。
喜んでくれてよかった。街の人はどう思っているだろうか。
1年間過ごしたこの街にお別れをするとなるとすこし寂しいような気がする。
「なあ、リコル。この一年どうだった?」
「んー、楽しかったですよ」
「そうだな、俺も楽しかった。あのまま生きていたらこんな楽しいことに出会えたかどうかわからないな」
そう、俺はここに来て少しだけだが、変われた気がする。
リコルと一年を振り返る話で盛り上がっていると花火はクライマックスになっていた。
会話が止まり、花火を見つめる。
そして、しばらくした後、最後の花火が打ち上がった。
それと同時に背中に激痛が走った。
「あ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああ」
言葉に表せないような痛み。力を振り絞り後ろを振り返るとそこに立っていたのはエドワードだった。
徐々に意識が薄れていくのを感じる。
「やっと無能を始末することができた」
エドワードはそう言った。
「これからは俺がこの国を導く、無能はさっさと消えろ」
そして俺は、意識を失った。
やっぱお前かぁ。