記録.10 ここが新たな世界
「ハッピバースデートューユー、ハッピバースデートューユー、ハッピーバースデーディア、アシルーハッピバースデートューユー!アシル誕生日おめでとう」
「ありがとうお母さん!」
今日の夜ご飯はいつもより豪華でクリームシチューだった。
お母さんの子供でよかった。そんな風に思う。
滅多にない豪華な料理なので浮かれてすぐに食べ終わった。
「ごちそうさま!美味しかった!」
「そう?アシルが喜んでくれて嬉しいわ」
お母さんがそう言って微笑んでいる。
はしゃぎ過ぎたせいか眠なってきた。
目をゴシゴシとこすった。
「眠いのね。早く寝なさい」
「うん」
よたよたと薄い布団が敷いてあるところへ行き、ついた途端に寝てしまった。
鳥の声がする。朝日だろうか、部屋の中に差し込んでくる。カビの匂いと埃っぽさで目を覚ました。
「ここは……」
あたりを見ると木でできているテーブルと椅子が二つそして俺が寝ていた薄い布団があるだけだ。
家は木造でかなり狭い。
妙に椅子の位置が高い。
慌てて俺は自分の体を見た。
肌は白く手や足が小さい。
鏡を見たいがどうもこの家には置いてなさそうだ。
誰かの足音が聞こえてくる。それは徐々に近づきドアが開いた。
「どうしたの?アシル」
顔立ちの綺麗な外国人の女性が入ってきた。
「い、いや、なんでも」
誤魔化すかのようにそう答える。しかし、異変にすぐに気がついたようでこちらに近づいてきた。
「アシル?大丈夫?」
熱があると思ったのか額を当ててきた。
「熱はなさそうね」
そう言われても俺はただ呆然としていた。
なんと言っていいのかわからないのだ。相手は恐らく俺を知っている。確かアシルと俺のことを呼んだのだ。
「あ、あの……」
キョトンとした顔でこちらを見てきた。
「あなたは誰ですか?」
その言葉とほぼ同時にその女性の眼から涙が溢れてきて、崩れ落ちた。
まずいことを言った気がするが、隠そうとしても隠し通せるとも思えない。
「ごめんなさい。お母さんはアシルに何もしてあげられない」
震える声でそう言った。
「お母さん……ちょっと出かけてくる」
道をまっすぐわけもわからず走り続けた。
リコルの姿はあたりにはない。どこか言ってしまったんだろうか。
俺は転生し今目覚めた。だけどこの体といい元の姿でこの地に舞い降りたわけではなさそうだ。
走っていると前方から水の流れる音がする。
そこへ走って行き、水の上を覗き込んだ。そこには明らかに自分の顔ではない顔があった。顔だけ見ると転生前より遥かにいい。
あの母から産まれたのだから当然といえば当然かもしれない。
それにしても何故……。
俺はしばらくの間風に当たりながら考えていた。しかし考えているうちに眠ってしまっていた。
「あし……!アシル、アシル!」
先ほどの母親の声で起きた。気がつくと日が落ち始めている。
「心配したんだから」
「ごめん。母さん」
少し間を開けた。
「母さん、今までの俺とは全くの別人になったかもしれない。思い出したんだやるべきことを全て」
「大丈夫母さん受け入れるから」
母さんはそう言ってくれたが内心は受け入れられているわけがない。
そして母さんに手を引かれて家へ帰った。
しばらくの間考え事をしていると晩ご飯が出てきた。
硬そうなパンとキャベツのスープがあるだけだ。
テーブルに迎え合わせに座った。
正直なところこの状況はものすごく辛い。
「母さん、俺について世界について教えて欲しいんだ」
「わかったわ」
母さんは俺の目を見据えて話し始める。
「この国の名前はフランソワル王国よ。貴族と王族によって支配されているわ。貴族に逆らったら間違いなく殺されるわ。母さんの家は元々貴族の家系だったのだけれどお父さん、あなたの父親が不祥事を起こしたことによって奴隷落ちしてしまったの。もう元には戻すことができない地位に。だからほかの奴隷ともなかなか交流することができなくて困ってるのよね」
「そうだったんだ」
「それであなたについてだけど、名前はアシル。私はアリシアで父親がルイスって名前なの、そこからとってアシルなのよ」
名はそうやってつけてもらったらしい。
「それで昨日6歳の誕生日を迎えて、朝起きたらこんな風になってしまったの」
「まだ6歳だったんだ……ごめん。謝るだけじゃどうしようもないのはわかってる。奴隷なんて嫌だし、その制度があるこの国も、貴族達の都合のいい世界を変えてみせるよ」
そうだ。これでこの世界での目標が定まった。これをクリアし一歩先へ進む。
「無理だけはしないでね」
中身が変わっても心配してくれる優しい母さんを救いたい。いい人間が住みやすく、そして誰もが平等に扱われ国を動かしていける世界を作ってみせる。
俺の決意は固まった。
新章突入です!これからもよろしくお願いします




