ヒゲと裸な大男
「本当に生まれ変わらせてやろうか?」
聞こえるはずなのない声を聞いた。威厳のある男の声だ。
強盗!?とかすれ声で叫ぶ。
本当は明かりをつけるなり逃げるなり行動を起こすべきなのだろうが、頭が正常に働かず叫ぶことしかできない。
すると、暗闇から再び同じ声が怒鳴り声となって聞こえてきた。
「ふざけるな!オレは決して盗っ人などではない!」
声の方向にスマホの光を当ててみると男の姿が目に入ってきた。立派なヒゲを蓄えた身長2メートルを優に超える大男だ。素っ裸だ。冷静に分析してみる。
「ただの変態じゃねえか!」
一瞬の間の後にツッコむ。なんだか少し心に余裕ができてきた。
「それも違うわ!この格好には事情があるのだ、とりあえずオレの話を聞いてくれ」
素っ裸でそんなこと言われてもなあ。
とりあえず電気をつける。
「貴様も半裸ではないか!」
鋭いツッコミが飛んできた。俺の部屋だからいいんだよ、とブツブツ呟きながら服を着る。
しかし、全裸の大男とこの狭い空間に2人きりでいるというのはなにか本能的な恐怖を覚える。
この巨漢に合う服など持っていないのでクローゼットの引き出しからタオルを出して渡す。
それを腰に巻いてもらうとかなり気が楽になった。かなり丈が際どいのは目を瞑ろう。
とりあえず話を聞いてみることにする。男を椅子に座らせようとしたが尻が入らず、床に座ってもらった。俺も観念して椅子にすわる。逃げても戦っても無駄なことは一目瞭然だ。
「それでなんで全裸で俺の部屋にいたんです?」
なんだか職務質問のようになってしまった。だがこれを聞かずには先には進めないだろう。
「そうだな、お前の部屋に入ったのは理由があったのでな。全裸なのはいつものことだ」
などと当然のように言いやがった。
ただのやべーやつにしか聞こえないんですが。
これ以上全裸について聞くのはマズイ気がする。
「それで何の目的で来たんですか?金目の物なんてほとんどないですよ?」
大男は、盗っ人ではないと言っただろうと否定し、少し間を置き、
「次の魔王となるお前に会いにきたのだ」
と真面目な顔で言った。