42 密会
†???†
総出の捜索が行われる中、彼女の姿は町中にあった。
家と家に作られた小さな通りだ。
当然のように人通りはなく、辺りは静けさに包まれていた。
やがて陰から巨大な影が現れた。
虎の天上人だった。
「や、遅れました」
「時間は有限と言ったはずですが」
「すいませんね。うっかり見つかりそうになったもんで」
虎は反省した素振りも見せずに言う。
彼女は諦めたようにため息を吐く。
「で、用件はなんすか?」
「私の正体が疑われているようです」
「おや、そりゃまたどうして?」
「原因は警兵長です」
彼は結界の仕組みを人間王に話し、監視器具を渡した。
その結果、人間王が”私”の存在を知ってしまったのだ。
「あー、てことは逃げるんすか?」
「いいえ。まだすべきことがあります」
「例の調査すか?」
「そうです。彼の本心を知ることが何よりも大切なのです」
「信用できるんじゃないすかね? まっすぐな奴っしょ」
虎が知った風な口を利くと、彼女は首を振った。
「表面を取繕って嘘をつく者を私は何人も見てきました」
人の心は本質的に醜悪なのだ。
弱者に厳しく、その命に価値を見出さない。
「面倒くさ……、じゃなくて、考えすぎっすよ」
「今、面倒くさいと言いましたね?」
「言ってないっす」
「言いましたよね?」
「……」
虎は押し黙る。
鼻歌を歌ってごまかそうとしている。
「まぁいいでしょう。それより、あなたには聞きたいことがあります。どうやって呪いを解いたのですか?」
「お、いい質問っすね。けれど、その質問には答えられないっす」
「……答えられない?」
「条件があるんすよ。もし、あなたが元の場所に戻るつもりなら、答えます」
虎の天上人は変わらぬ調子で言う。
元の場所に戻る……。
それは彼女にとって重い決断だった。
「それはありません」
故に即座に否定する。
彼女は人間の自分に満足していた。
元に戻れば、生活のあり方が大きく変わる。
それは望むことではなかった。
「そすか。……ま、気が変わったら言ってください」
「変わるとは思えませんけれど」
ふと足音が聞こえた。
誰かが来たようだ。
路地での面会はそういうことが多い。
特に領主と人間王が見回りを始めてから、邪魔が入ることが多い。
「じゃ、俺は隠れるんで」
「見つからないよう留意してください」
「っす」
虎の天上人に別れを告げ、彼女は屋敷へ戻った。