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30 会議2



    †ナグババ†


 人間王が執務室から退出するのを見届ける。

 三秒待って、ナグババは息を吐いた。


「疲れた……」


 畳に大の字になる。

 だらしないが咎める者はいない。


「お疲れ様ですわ。領主らしい振る舞いでしたわ」


 スグリが労ってくれる。

 領主を領主らしいと褒めるのも変な話だ。

 しかし、領主らしく振舞うのは存外に大変だ。

 特に自身の夢がかかった大一番となればなおさらだ。


「人間王は認めてくれたのだろうか……」


 彼は宿題を出してきた。

 人間国を残したまま歴史を精算する方法を考えろ、と。

 その際、自身の宰相とスグリが協力するようにとも言った。

 共生に前向きな証拠だ。


 未だに実感が湧かない。

 本当に理解が得られたのか。


「認めてますわよ」

「根拠はあるのか?」

「兄さまは回りくどいやり方を好みませんもの」


 妹であるスグリが言う。

 ならば、間違いはないのだろう。

 受け入れられたのだ。

 人間と天上人が共に生きる未来が。

 人間の代表に。


 嬉しいことのはずだ。

 騒いでもいいはずだ。

 だが、高揚感はあれど、騒ぐ気分ではなかった。


「宿題がありますもの。当然ですわ」

「そうだな……。また迷惑をかけることになる。すまんな」

「謝ることなどありませんわ! わたくしも好きでやっているんですもの」


 スグリの一言が胸に染みる。

 今でこそ、こう言ってくれるが、三年前は違った。

 スグリは共生に反対だった。


「長かったですわね。もう三年ですもの」

「スグリはそう感じるか。天上人にとって、三年はあっという間だ」


 寿命で言えば天上人は人間の四倍以上はある。

 三年の重さも違う。

 むしろナグババは変化が早すぎて戸惑ってすらいた。


「この三年、スグリにとってはどうだっただろう。よい三年だっただろうか?」

「どうしたんですの急に?」

「いや、気になってな。昔を思い出していた」

「んもぅ……、恥ずかしいからやめてくださいまし」


 スグリは顔を膨らませる。

 それもそうだろう。

 三年前のスグリは今とは全然違っていたのだから。


    †


 三年前。


 ナグババは川に流される人間を保護した。

 人間はまだ子供だった。

 目に見えるすべてを怖がっていた。


 飯をやると言っても人間は逃げようとした。

 奴隷のくせに命令を聞かない。

 珍しいなと思った。


 直轄地の屋敷へ連れていき、食事と寝床を与えた。

 そして、驚いた。


 人間には行儀作法が備わっていたのだ。

 外見からして低級な奴隷だと思っていた。

 その手の人間は、手づかみで食事をし、身ぎれいにする習慣もない。


 虫の湧く着物を着るとすら聞いていた。

 眼前の人間はどれにも当てはまらない。

 なるほど、天上人に仕えていたのだな、と思った。


 誰の所有物か尋ねてみた。

 すると、


「たとえ死んでも、わたくしは奴隷にはなりませんわ……!」


 人間は気丈にもそう言い放った。

 ベルリカ領の領主に対して。

 天上人に向かって。

 部屋の隅にうずくまりながら。


 俄然、その子に興味が湧いた。

 なぜ川を流されたのか尋ねた。


「あんたなんかに話す義理はありませんわ……!」


 怒鳴られた。

 この経験も初めてだった。

 反抗する人間をナグババは知らない。

 ますます興味が湧いた。


 が、深くは聞かなかった。

 人間の瞳に憎しみがこもっていたからだ。


 翌日から話をするようになった。

 距離を置いて自己紹介から始める。


 自分が何者か。

 何を目指す者か。


 ……話してから難しすぎる話題だと思った。

 人間に領地だとか政治だとかがわかるはずがない。

 食べ物の話をしようと考え直すも、


「領主は何万人もの領民を導く立場なのでしょう。こんなところで暇そうにしていてよろしいんですの?」


 人間は皮肉を飛ばしてきた。

 恐ろしい理解力だった。


 彼女の村は人間だけで暮らしていたという。

 一つの社会ができていたのだ。

 その仕組みと領主の言葉を結び付け、彼女は領内政治の何たるかを類推した。

 なるほど、賢いと思った。


 三日目にして人間は名前を教えてくれた。

 面と向かって話せるようになった。

 彼女はスグリと名乗った。


「スグリ。よい名前だ」

「……ふん、当然ですわ!」


 それが彼女の見せた初めての感情だった。

 この頃になると、ナグババはスグリを手放したくないと思い始めていた。

 最初は保護しただけ。

 回復したら持ち主に返そうと考えていた。


 ところが、スグリは誰の奴隷でもない。

 人間だけの村で暮らしたという。

 稀有な存在だった。

 しかも、賢く、礼儀作法も身に着けている。


 手放したくない。

 考えた結果、ナグババはスグリを毒見役に採用した。


 毒見役は食事に毒がないか確認する仕事だ。

 領主の食事を食べて死ななければ毒はないと判断される。


 この役職は人間にとって途方もない褒美だ。

 なぜなら人間の身でありながら領主と同等の食事ができるためだ。

 とナグババは考えていた。

 しかし、スグリは言う。


「……本当に人間との共生を考えているんですの?」

「どういうことだ?」

「毒見役で育った人間は、あなたと肩を並べられるのかと聞いているんですの?」


 毒見役は純粋なる厚意だった。

 少しでもよいものを食べさせたい。

 そう思ってのことだ。


「あなたのそれは野良犬の餌付けと変わりませんわ」

「……」

「衣食住があればいいのなら、動物と同じですもの」

「……」

「人間を全く理解していませんのね」


 スグリには容赦がなかった。

 ナグババは完璧に言い負かされた。


「……だったら、どうすればいいのだ?」


 自棄になって聞いてみると、


「人間の気持ちを考えてくださいまし」


 スグリは言うのだ。

 人間と天上人が並び立つ世界とは何か。

 それは人間が自分に誇りを持てる世界だ、と。


「直轄地はそのためにあるのではなくて?」

「……いや、何となく作ったものだったんだが」

「はぁ……、あなた本当に領主なんですの?」

「面目ない……」

「仕方ありませんわね。一宿一飯どころではない借りがありますもの。わたくしが考えて差し上げますわ」


 スグリが何を思ってそう言ったのか。

 ナグババには今でもわからない。


 信頼を勝ち取れていたか。

 違うだろう。

 スグリは過去を打ち明けてくれなかった。

 多くの秘密を抱えていた。


 後になってスグリの村の話を聞いた。

 彼女は天上人を憎んでいた。

 初日に向けられた瞳。

 あそこに籠る憎しみがスグリの本質だった。


 なおのことわからない。

 なぜ協力してくれたのか。

 あるいは人間のためと思ったからか。


 スグリは人間王の血を引く者だ。

 自分の役割を自覚していたのかもしれない。


 ……まさか。

 スグリは当時、十歳だ。

 いかに賢いとは言え、そんな矜持を持てるだろうか。


 何がスグリを変えたのか。

 結局、わからないままだった。


 とにかくスグリと一緒に、どうしたら人間を救えるか話し合うことになった。

 様々な案が出た。

 曖昧な願いをスグリは次々と形にしてくれた。

 その様を見て、自分の本当の願いに気づく、といった経験もした。


 そして、ある日。

 スグリの後押しでナグババは、家族に自身の構想を話した。

 人間を救いたいという思いはあれど、今まで具体的な策はなかった。

 それ故、誰にも話していなかったのだが、スグリの助力によって展望に具体性が生まれていた。

 ならばと思い、姉、弟、妹、そして、母に思い切って話してみたのだ。


「ナグババの気持ちはわかりました。あなたは月並みな発言ばかりしていて、何かこうこれまでの領主にはない特別なものがないのだと、思っていましたが……、姉は安心しました。まさか、そのような壮大な構想があろうとは」

「えぇ。……私も驚いています。兄様の構想が実現すれば、ベルリカは一層栄えるでしょう」


 人間と共に生きるなど……、真っ当な天上人だったら嫌悪を示しただろう。

 しかし、さすがは血をわけた者たちだった。

 実は彼女たちも心の底で領主と同じ憂いを持っていたが、今まで恐ろしくて口にはできていなかったという。


 思い切って言ってよかった。

 ナグババは心の底からスグリに感謝した。

 スグリとはもっともっと議論をしたい。

 可能ならずっとスグリと話をしたかった。


 とは言え、ナグババは領主だ。

 直轄地に引きこもるわけにもいかない。


 普段は城下町で仕事をする。

 直轄地に行けるのは年に二度が限度だ。

 それぞれ一月ほどの滞在だ。


 城下町で過ごす一月と直轄地で過ごす一月。

 両者の速度は五倍は違ったと思う。

 スグリと過ごす時間はそれくらい早く過ぎた。


 いつしか直轄地で過ごす時期を心待ちにするようになった。

 ナグババにとって、スグリは理解者だった。

 同じ問題を一緒に考えられる相手。

 そして、よき助言をくれる師でもあった。

 同時に保護すべき人間でもあり、友でもあった。


「……もう、いつもより到着が十日も遅いですわよ!」


 ある夏、スグリにそう言われた。

 一年が過ぎた頃だったか。

 本当に嬉しかった。


 ナグババは鈍い。

 自覚するくらいに他人の気持ちが読めない。

 そんな彼にもスグリの気持ちは読めた。

 こんなわかりやすい諸侯は、領内のどこにもいない。


 信頼を勝ち取れたのだな、と思った。

 ナグババにとって、初めて心が通じ合えた人間だった。

 自分は間違っていないのだと思えた。


 スグリと出会って何もかもが変わった。

 人間への見方も変わった。

 自身のやりたかったことも見えた。


 すべてスグリのお陰だ。

 どんな天上人よりもスグリは賢かった。

 彼女となら共に歩めると感じた。


「わたくしは、そんなもじゃもじゃ頭の天上人と共には歩けませんわ。恥ずかしいですもの」

「……むぅ、スグリは相変わらず厳しいな」

「身だしなみを整えてくださいまし。そうしたら、どこへでも一緒に行って差し上げますわ」

「ほぅ! だったら、着いてきてもらいたい場所があるのだ」


 ナグババはスグリを屋敷の裏山へ連れ出した。

 石畳を歩き精霊界に近い泉(アニート・マラピット)に到着する。

 それは五本の滝が流れ込む滝つぼだ。

 季節ごとに各滝の流量が変わる不思議な滝だ。


「……ここは何ですの?」

「聖地だ。領主一族以外の立ち入りは禁止される」

「どうしてそんなところにわたくしを?」


 ナグババとて、一族に知られれば罰は免れない。

 罰せられる覚悟でスグリを連れてきた。


「人間には精霊の加護がない。だから、天上人はいい気になるのだ。だが、精霊様が違うお考えをお持ちなら、スグリにも加護が宿るはずだ」

「……なんて無茶な」

「無茶なものか。人間が加護を受けられないのは、神聖なる場所に近づけないからだけかも知れぬ。さぁ祈ろう。スグリに加護あれ、と」

「無茶をおっしゃいますこと」


 スグリは呆れながらも祈ってくれた。

 いつもなら怒鳴るだろう。

 なにせ禁忌を犯す行いだ。

 何を考えているんだ馬鹿者くらいは言う。


 言わないのは、呆れたからか。

 何でもよかった。

 祈ってくれることが大切なのだ。


 しかし、このときナグババには違う思いもあった。

 聖泉は、領主一族しか立ち入れぬ場所。

 そこにスグリを連れて行ったのは、……スグリを領主一族にと思ったためだ。


 いずれそうなればいい。

 そんな願いをつぶやいたのも事実だ。



 そして、今。

 当時を振り返ると、若かったなとナグババは思う。


「けれど、結果的に正しかったのだから、何が起こるかわかりませんものね」

「あぁ……。あれは驚いた。まさか事実になるとは思わなかった」


 祈りを捧げた七日後。

 短い滞在だが、ナグババは城下町へ帰ることになった。

 出発の直前、スグリが泣きながら飛びついてきたのだ。


 ――――行ってはいけませんわ……!


 最初は寂しいだけかと思った。

 しかし、スグリは見たと言う。

 ナグババが土砂崩れに巻き込まれる姿を。


 その必死な物言いに、その日の出発を取りやめた。

 街道が土砂崩れで埋まったと聞いたのは翌日だった。

 スグリは未来視の霊術に目覚めていた。


 人間にも加護が宿る……!

 当時は随分はしゃいだものだ。

 精霊様が自分たちの努力を認めてくれたのだから。


 時間が経ち人間王と出会った。

 彼はスグリの兄にして始皇帝の炎を受け継ぐ者だった。

 強大な運命を感じた。

 何らかの流れの一部に自分は存在する。

 ナグババは本気で精霊の導きを信じた。


 人間王との間には紆余曲折があった。

 だが、最終的に人間王は共生に賛同の意を示してくれた。


 何もかもがうまく行っていた。

 達成感があった。


 だからこそ、頭の一部は冷静になる。

 これでよかったのだろうか、と。


「……ここまでやって、どんな不満があると言うんですの?」

「スグリのことだ」

「わたくしですの?」


 ナグババには、一抹の罪悪感があった。

 十歳だったスグリを興味本位で保護した。

 そして、直轄地の屋敷に住まわせた。


 当時の自分は十割の善意でそれをした。

 だが、今になって振り返ると、……それはスグリの自由を奪ったも同然だった。

 スグリに与える情報を制限し、いい様に操ったとも言える。


 スグリの思考を誘導したかった。

 その欲がなかったか?


 聖泉へ連れて行ったこともそう。

 スグリを縛ろうとしたのではないか?

 聖泉を穢す共犯者にすることで。


 その意志がなかったと誓えるか?

 誓えない。


 いや、……あった。明確に。

 スグリを手元に置きたかったから。


 今更どうすることもできない。

 それを言ったところで、時間は戻らない。

 スグリに気にするな、と言って欲しいだけだ。


 ……卑怯なやり口だ。

 卑怯だが、偽りのない本心だ。


「気にするな、と言っても気にするんでございましょう?」

「……んむぅ、そうかもしれぬ」

「面倒な性格ですこと」


 ばっさりと切られた。

 胸が痛い。


「そんなだから舐められるんですわ。早く支えてくれる嫁をもらったらいかがでして?」

「嫁は関係のない話だろう……?」

「なくはありませんわ。散々言われているとご自分で愚痴っていたではありませんか? せめて婚約くらいはしませんと領も安定しませんわ」

「それはそうだが……」


 スグリは正論で攻撃してくる。

 だが、ナグババが妻にと望む相手は城下町にはいない。

 目の前にいるのだ。


「いつまでもこんなところで油を売っていられると思ったら大間違いですわよ?」


 しかし、当のスグリはこの調子だ。

 脈など全くと言っていいほどない。


「はぁ……、これではどちらが誘導されてるのかわからんな」

「やっと気づきまして? もう少し勉強してから出直してくださいまし」


 再度、けなされる。


 人間王とも話がつき、仇敵シヌガーリン問題も解決した。

 自分は今、追い風に乗っている。

 行くなら今だ。

 そんな気がしているのだが、スグリとの距離は三年前から変わらない。


 もし思いを伝えて断られたらどうしよう、とナグババは思う。


    †スグリ†


 最近、スグリは思うのだ。

 距離が一向に縮まらない、と。


 三年前に比べれば、随分、近い。

 けれど、天上人と人間の距離だ。

 同じ舞台に立てる者の距離ではない。


 その距離がどうしてももどかしかった。


 三年前。

 スグリにとって領主は恐怖でしかなかった。

 巨大な体。

 長い爪、口から覗く牙。


 そんなものが同じ部屋にいる。

 恐ろしい恐怖だった。

 部屋の隅に逃げながらも、口だけは戦った。


 殺されると信じていた。

 ところが、野獣はスグリを食わなかった。

 来る日も来る日も、困ったようにたてがみをかきまわすだけだった。


 ……天上人とは何か。

 スグリにもわかってはいなかった。

 しかし、無差別に人間を殺す者だけではないのだな、とそのときに思った。


 話してみると、領主は頼りない性格だとわかった。

 真っすぐ過ぎるのだ。

 少しだけ兄に似ていた。


 面倒を見てやらなくては。

 そんな気持ちにさせられた。


 領主は季節ごとにスグリを訪ねてきた。

 たかが人間のために。

 その熱意には素直に感心した。

 信用してやってもいいかと思った。


 領主はスグリの人生を操ったのでは、と後悔している。

 スグリからすると、実に愚かしい後悔だ。

 領主などに操られるほど自分は馬鹿ではない。


 与える情報を絞っていた?

 あり得ない。

 スグリは必要な情報を領主から引き出していた。


 洗脳だの何だのは、……悲しい勘違いだ。

 むしろ格の差を知って欲しい。


 それはどうでもいい。

 スグリにとって重要なのは領主が死ぬほど鈍い奴という点だ。

 二年前だったか。


 聖泉に連れて行かれたとき、スグリは求婚だな???? と察した。

 心の準備はできていなかった。

 だが、嫌悪はなかった。

 こいつは自分がいないとダメだしな、と思った。


 兄などは反対しそうだが、言いくるめればどうとでもなる。

 仕方ない。

 受けてやろう、と思ったのだ。

 覚悟したのだ。


 ところが、それ以来、領主からの具体的な行動はなかった。

 これはどういうことか?

 どゆことですの? なんで続きがないのですの?

 やっぱり気が変わった?


 気が変わった?


 許されることではなかった。

 天上人だか何だか知らないが、このわたくしを弄んだ罪の大きさを思い知らさねば。

 そう燃えた時期もあった。


 しかし、領主には女の影がない。

 一切と言っていいほどない。

 むしろ、結婚しろ、と乳母から執拗に言われる日々だという。


 だったら、なぜ続きがないのか。

 言うべきことを早く言え、と思う。

 ヤキモキしていた。


 最初はそう、あるべきものがない気持ち悪さだった。

 しかし、ある時から、期待感が混じり始めた。


 ……いつになったら言ってくれるのか。


 心待ちにする自分がいた。

 気持ちとは不思議なものだ。

 意識させられると、自然と好きになるのだから。


 しかし、ふとした瞬間に冷静になる。

 それは決して実らぬ思いだ、と。

 所詮、天上人と人間なのだ。

 確かに領主の描く未来では両者の間に区別はない。

 だが、それは何十年。下手をしたら何百年もあとの話だ。

 今の自分たちが祝福される確率は……、とても低い。


 領主には相応しい相手がいる。

 今の時代で受け入れられる結婚相手が。

 だから、早く身を固めて欲しい。


 自分が我慢できるうちに。

 悲しみが少ないうちに。

 けれど、領主は結婚をしない。


 期待していいのだろうか……。

 そんな思いがいつもある。

 ダメだと言い聞かせてもどんどん大きくなる。


 今、もし求婚されたら……?

 自分は何と答えるべきだろうか。


 賢いスグリをもってしても、その答えはわからずじまいだった。


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