TIPS 銃
†エリカ†
エリカが銃と出会ったのは偶然だった。
当時のエリカは年長組への飛び級を狙っていた。
実力を認めてもらうには、呪具の解明が近道だった。
呪具は常に完成形で現れるが、最初の段階では何のためにどのように使うのかもわからない。
そのため、用途を解明し、再生産できるようにするのが奴隷の仕事だ。
迷宮入りした呪具の解明ができればソテイラもエリカを認めるに違いなかった。
エリカは倉庫を歩き、適当な呪具を探した。
そうしているうちに、エリカはそれを見つけた。
不思議な構造の金属だった。
筒状になった部分、指で引くと動く部分、握りやすい形の部分。
それには銃という名前がついていた。
それ以外の情報はなく、用途すらわからなかった。
今まで何人もの年長組が解明を試みてきたが、一番有力な説は儀礼用のトンカチという有様だった。
エリカは不思議とそれに惹かれた。
理由は不明だ。
なんとなく血が騒ぐのを感じたのだ。
……分析にあたって、エリカは銃をじっくり調べた。
外見と構造は先人の分析が蓄積している。
可動部分の設計図も記されていた。
そこまでして用途が明らかにならないのは、何かが不足しているからだ。
エリカは銃を入念に調べた。
そして、不足したものに行き着いた。
火薬だ。
……この銃からはかすかに火薬の臭いが漂っている。
そのとき、エリカは運命を感じた。
セイジのために火薬の勉強をしていた自分が、火薬を使う呪具に出会った。
精霊は言っているのだ。
銃を解明し、セイジと結ばれろ、と。
以来、銃はエリカにとって愛の証になった。
愛おしく感じられるようにもなった。
火薬と気づけば、あとは簡単だった。
エリカの知る火薬とは、セイジの見せてくれた花火であり、花火とは筒から弾を打ち上げるものだからだ。
銃にふさわしい火薬とその入れ物を作るのには苦労した。
非常に細やかな金物加工だった。
何度も火傷をして、ついにそれを完成させた。
銃は武器だった。
一つを完成させれば、倉庫に眠っていたあらゆる種類の兵器が理解できた。
未知の分野を切り開いた功績はソテイラも大いに評価した。
当時のエリカは満足だった。
これでセイジと一緒にいられるから。
しかし、一人になった今は、違う。
今更のように、疑問を感じた。
…………なぜ、銃は人間の手に合うように作られているのだろう。
握り手の部分も引き金も、明らかに人間の手を意識して作られている。
多くの天上人にとって、これは小さすぎる作りだ。
それに人差し指で引き金を引く構造は、あまりに使い手を制限する。
指が細長くなければ、引き金が引けない。
……まるで人間のためだけに作られたような武器だった。
この世は天上人を中心に回っている。
天上人こそが皇国の民であり、人間は奴隷に過ぎない。
奴隷のために呪具が作られることがあるのだろうか……。
…………いや、そもそも呪具という存在とは何なのだろう。
完成した道具が存在しながら使い方がわからない。
二度と作り出せないようなものもあるし、作り方がわからないものもある。
では、呪具を最初に作ったのは誰……?
誰も作れないから作り方を調べているのに、完成形が最初にある。
そこには大きな矛盾がある。
…………呪具とは何なのか。
ソテイラはどこから呪具を持ってくるのか……。
なぜ呪具は人間に使いやすいように設計されているのか。
……おかしなことばかりだ。
しかし、ソテイラはすでに旅立っていた。
聞くこともできないし、聞いても答えることはないだろう。
どう考えればそのおかしさが解明できるのかがわからない……。
エリカは誰にも相談できず、そのおかしさを胸に秘めることしかできなかった……。