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47 対策3

更新頻度を上げていきます


    †ネリエ†


「恐れ多いのですが、今の私共ではお話いただいたことに力を貸すのは難しいかと存じます」


 虎氏族序列三位マティガスは申し訳なさそうに言った。

 以前に虎氏族を助けて以来、一定数の虎がネリエ派に属していた。


 カナンに協力を拒否された今、ネリエが頼れる相手は少ない。

 虎はそのうちの一つだ。

 ネリエがヒヌカを紹介して以来、虎氏族の女はネリエ派から退散した。

 まだ、つながりがあるかは微妙なところだ。

 ダメ元でマティガスを訪ねたが……、やはり断られた。

 ネリエは悔し紛れに理由を問いただす。


「やはり私が人間を友だと呼ぶからですか?」

「滅相もございません。私はお家を救っていただいたことに関しては、本当に感謝しているのです。いかなる理由があれど、その気持ちは変わりません」


 マティガスは真摯な表情で言った。


「では、なぜ?」

「虎は武で名を馳せた一族です。他人の悪事を暴くといったことについては全くの素人。どのようにお力を貸せばよいのかもわからないのです」

「……情報を集めていただくだけでも助かるのですが」


 条件を下げるも、マティガスは悲しそうに首を振り、


「ご存知の通り、虎は連帯を嫌う一族です。情報収集など高度なことはできません。ネリエ様が直接お助けした者であれば、話をする価値はあるでしょうが、それまでです」


 直接助けたとなると二十名ほどだ。

 確かに情報収集と言うには範囲が狭い。


「加えて、ネリエ様が助けた連中は武にしか興味がないのです。道場の外のこととなると……」

「……協力が難しい旨、よく理解いたしました」


 ネリエに伝のある虎は全員が武官だ。

 基本的に俗世に興味がなく、政治的な立ち回りなどもってのほかだ。

 確かに今の段階で頼めることはない。


「誠に申し訳ございません。しかし、ネリエ様が武を必要とするときは、我らはどこへでも馳せ参じましょう」


 マティガスは拳を握り、胸に当てた。

 武官における座礼で、忠誠を示す意味がある。


 彼自身の忠誠に疑問はない。

 しかし、ネリエ派から虎の女が消えたのも事実だ。

 虎の女はすでにネリエを見限っている。

 どこまで虎氏族が頼りになるかは、難しいところだ。



「やれることはやったつもりだけれど、……手応えがないわね」


 マティガスの屋敷を辞し、ネリエはため息をつく。

 ネリエ派が栄えた時、縁のあった者には片っ端から手紙を書いた。

 久しぶりの筆耕に手が痛んだが、返事があったのはマティガスだけだ。


 一応、下町にいるジンにも連絡を取り、付随的な情報を集めてもらっている。

 しかし、敵の本拠地が天上街である以上、期待はできない。

 ソテイラの糾弾はネリエの仕事だ。


 ヒヌカを紹介すべきではなかったのだろうか。


 あれがなければネリエ派は栄えていた。

 今でも一定数の規模を持ち、秘密裏に動かせる人員もいた。

 ソテイラがどの程度の対策をしているかは不明だが、少なくとも霊公会に切り込むことはできた。

 ヒヌカさえ呼び寄せなければ……。


 ――――馬鹿ね。何のために皇女になったと思ってるの?


 自分に活を入れる。

 目的は富でも権力でもない。

 天上人と人間が共に暮らせる国を作ることだ。

 その過程において、ヒヌカを紹介することに意義はあった。

 それは間違いない。

 結果として、マナロの遺志を知ることができたし、大きな収穫だった。


 ただ、時機が悪かっただけ。

 派閥の大半を引き換えに師となったカナンは、ネリエの言うことを信じてくれない。

 故にネリエに動かせる手勢がいなくなった。


 ないなら作ればいいだけだ。

 正義がこちらにある以上、誰かしらは説得できるはずだ。


「マティガスから兵を出してもらうのはダメなんすか?」


 黙り込んでいたティグレが言った。

 しばし前の独り言を拾ったらしかった。


「要するに儀式をやめさせたらいいわけっすよね? だったら、ガツンと殴れば……」

「彼に動かせる兵で足りるかはわからないわ」


 ソテイラは愚者ではない。

 ジンの話によれば、五百年もの時を稼働し続ける人工知能だ。

 老いによる劣化もなければ、感情に引きずられた判断もしない。

 どこまでも理詰めで考えるだろう。


 そんな奴が無防備なままに儀式を行うとは思えない。

 相応の武力を手配し、完璧な布陣でラバナ山を守っているはずだ。

 しかも、それは原理的に崩せない守りかもしれない。


 ソテイラの武器は非生物故の演算能力であり、時間さえあれば、彼はバサのあらゆる勢力が敵に回った場合の模擬訓練を高精度に実行できるのだ。

 だからこそ、少しでも多くの仲間が必要になる。


 手数はかかるが、仲間を増やし、ソテイラを糾弾。

 並行してラバナ山の状況を調べ、派兵する。

 一見して気長な作戦が最も確実なのだ。


 もちろん、集められるだけの兵で突撃する道もある。

 しかし、それは時間的に間に合わないときの非常手段だ。


「……てことは、状況を把握しつつ仲間を増やす、と。実家に行ってみるのはどうすか?」

「手紙だけで五日かかる距離よ? 正直、今、帝都を離れるのは得策じゃないわ」

「八方塞がりっすねぇ」

「手は打った。今は返事を待ちつつ、カナン様の課題をこなしましょう」

「二ヶ月以内に蛇龍(イサン・アハス)の誰かを引き込むでしたっけ? 無理っすね」

「あとお茶会もね。無茶でもやらないと、あの人は本当にあたしを捨てるわ」

「いや、それ死ぬのでは……?」

「死んでもやるのよ」


 カナンとの伝はネリエが持ちうる切り札の一つだ。

 絶やせば、最終局面で詰む可能性がある。


 この非常時にお茶会をすることに忌避感はあるも、今はまだネリエ以外の全員にとって有事ではない。

 耐えるしかなかった。


「そう言えば、最近は例のお嬢様方の姿が見えないっすね?」

「派閥の活動は実質休止中だし、仕方ないんじゃない?」


 ティグレの問に投げやりに答えた。

 確かにマーカとメリリはしばらく離宮を訪ねていなかった。

 ジンがロボットで登場した話は、皇城内でも知られている。

 その余波で目立つことを避けているのだろう。


 このときはその程度にしか思わなかった。


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