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45 対策1



    †ネリエ†


 ソテイラ・シャム・ヒンディ・ヒンディ、アーズィ。

 霊公会序列第二位にして司教を務める要人中の要人。

 知られざるその正体は人間に作られたアンドロイドだった。


 ジンの話を反芻する。

 意味がわからな過ぎて笑えてくる。


 ネリエはソテイラの屋敷で三年も暮らしていた。

 そのときは違和感など少しも感じなかった。


 しかし、思い返せば、確かに不可思議な言動はあったと思う。

 食事、睡眠、排泄。

 ネリエはそのいずれも見たことがない。


 ソテイラには生活感がなかった。

 当時は聖職者だからと思っていたが、生き物ではなかったわけだ……。


 ロボット騒ぎに収集をつけ、ネリエはソテイラの屋敷へ向かった。

 屋敷は皇城の南西と下町に二つある。

 下町屋敷は人間を住まわせるためのもので、ソテイラは普段本館にいると聞く。


 ベルリカに屋敷があった頃は、あちらにいる時間が長かった。

 追い出されてからは帝都に滞在しているはずだ。

 何事もなければ今もいるだろう。

 何事もなければだが……。



「ソテイラ様に取り急ぎお会いしたい用件があるのですけれど」


 策は弄さず真正面から訪問した。

 応対に出てきた従者は面食らった様子だったが、何事もなく中へと通された。

 上品な茶室だ。

 ソテイラが茶を嗜むという話は聞かない。

 アンドロイドでも飲むフリはできるのだろうか……。

 そんなことを考えていると、留守居役を名乗る天上人が現れた。


「お待たせいたしました。私は留守居のタブラでございます。早速ですか、火急の用件とはどのようなものでございましょうか?」

「ソテイラ様に直接お話しなければ、ならないのですが……。ソテイラ様はいらっしゃらないのですか?」

「えぇ、残念ながらお出かけになられています」


 案の定、不在を宣言される。

 もちろん、居留守の可能性はある。

 ティグレが屋敷内の探索に向かっているので、直に明らかとなるだろう。


「行き先は聞いていらっしゃいますか?」

「それが、私も聞いていないのです」


 留守居役は申し訳なさそうに言う。

 これも事実かはわからない。

 普通に考えると、留守を預かる者が主人の行き先を知らないのは変な話だ。


 どちらにしても事実を言うはずがないので、適当に話を合わせる。

 そのあとは細やかな質問で時間をつないだ。

 音もなくティグレが戻ってきたのを確認すると、ネリエは早々に話を切り上げる。



「で、どうだったわけ?」


 屋敷を後にすると、ネリエは早速、戦果を聞いた。


「いないっすね。この屋敷、留守居役と従者だけっす」

「手がかりになりそうなものは?」

「まったく。そりゃもう綺麗なもんでしたよ」

「……そう」


 アンドロイドは生き物ではない。

 生活の痕跡は残らないだろうし、計画書を残すかも怪しい。

 なにせ覚えたことは忘れないのだから。


「別の場所を当たるべきね……」


 一つがダメなら別の何かを。

 手がかりが見つかるまでは手数で勝負だ。



 一旦、離宮に戻り、マーカとメリリに連絡をする。

 必要な物資を持ってきてもらい、準備を整える。

 それから二人で大霊殿に向かった。


「いやぁ、……ここまでします?」


 ティグレが呆れたように言う。

 今、二人は白い法衣に身を包んでいた。

 角は隠しようがないものの翼と尻尾はゆったりした法衣に隠れる。

 遠目には司祭と付き人のように見えるだろう。


 次の調査対象は霊導師だ。

 直属の上司だけにソテイラの行動を把握している可能性があった。


 しかし、霊導師は敵対派閥。

 ドラコーンが姉弟を殺害するにあたり、霊公会が支援した過去があるためだ。

 ネリエが直接話のできる相手ではなく、結果的に潜入という手口となった。


「あんたは元海賊でしょ? 昔はよくやってたんじゃないの?」

「……変装なんてしないっすよ。海賊を何だと思ってるんすか? 正面からバーッと行って戦うのが海賊っす」


 ティグレを引き連れ、大霊殿へ乗り込む。

 大聖堂には祈りを捧げる者がちらほらと見えた。


 霊導師は朝と夕に大聖堂で祈りを捧げるはずだ。

 今は昼間だから、執務室かもしれない。

 もちろん、場所は知らない。

 不自然に歩き回って探すより、誰かに聞いた方が手っ取り早い。

 そう思うが、霊殿関係者が一人も見えなかった。


「もしもし、司祭様」


 むしろ、ネリエたちが声をかけられた。

 礼拝に来た老齢の天上人だった。


「何か御用でしょうか?」


 ティグレが聞き返す。

 とっさにしては上出来の演技だ。


「ここのところ司祭様たちの姿が見えないようですが、何かあったんでしょうか?」

「ご心配には及びませんよ。少し所用ではずしているだけです。すぐに戻ります」

「そうなのですか……。この間、ソテイラ様が多くの司祭を連れて歩くのを見ましたが、あれと関係があるんでしょうか?」


 老人が言った。

 ティグレに目で合図を出す。


「それはいつのことです?」

「十日ほど前だったかと。……あの、ご存知だったのではないのですか?」

「私は司祭ですが、ソテイラ様とはあまり懇意にしておりませんでしたので……」


「何かご相談でしょうか?」


 そのとき、大聖堂の奥から霊導師が姿を見せた。

 面と向かって話すと、さすがにバレる。

 ティグレの法衣を引っ張るが、彼は動かない。


「えぇ、こちらの方がソテイラ様のお姿が見えないことをご心配されていたのです」

「そうでしたか。ご安心ください。彼はとある儀式のため、霊峰ラバナへ向かったのです」


 霊導師はにこやかに答えた。

 霊峰ラバナがソテイラの行き先。

 重要な情報があっさりと手に入った。


 さすが海賊。

 心の中でティグレを褒める。


「あれほど多くの司祭を連れていくということは、大きな儀式なのですか?」

「はい、詳細は明かせませんが非常に重大なものです」

「そうだったのですね……。ご丁寧にありがとうございます」


 老人が立ち去ると、霊導師はティグレの顔を見上げた。


「君はなぜここに? ソテイラについていかなかったのか?」

「私は下町の霊殿を見るよう言われましたので」

「下流か? だったら、ここへ来る資格はないだろう。出ていきなさい」


 霊導師は見下すように言った。

 罰則のために名前を聞かれたら厄介だが、追い出されるだけで済んだ。

 長居は無用なので、二人はそそくさと、その場を離れた。




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